抄録
個体・組織の恒常性は、組織幹細胞/前駆細胞の自己複製と機能細胞への分化、および不要となった細胞の除去により維持されている。しかし最近、組織幹細胞/前駆細胞が、加齢に伴い変性あるいはその能力を失い、その結果として様々な疾患(変性疾患、腫瘍)が発症すると考えられている。
加齢に伴う組織幹細胞/前駆細胞の変性・能力低下は、これら細胞の老化が一因であり、その分子機構の解明は組織および個体老化の理解と共に、その予防方法と新しい発癌抑制法の創出に繋がる。私たちは精製オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を用いた細胞老化実験系を確立し、新規細胞老化関連因子Esophageal cancer-related gene 4 (Ecrg4)を同定した。Ecrg4は細胞老化に伴い発現誘導される分泌因子で、その強制発現は網膜芽細胞腫(Retinoblastoma, Rb)タンパク質の脱リン酸化、サイクリンDの発現低下、老化細胞関連β-gal(SA-β-gal)活性の上昇を伴った細胞老化を誘導する。逆にEcrg4のノックダウンはこれら現象を抑制する。加えて、私たちはEcrg4が加齢脳の神経幹細胞、OPC、プルキンエ細胞を含む様々な神経細胞で発現上昇している事も発見した。これらの結果は、Ecrg4が中枢神経系老化を制御する因子の1つであること、その詳細な機能解析が加齢に伴う中枢神経系疾患の新規予防法・治療法の創出に結びつくことを示唆している。本講演では現在進めている未発表研究成果についても紹介する。