抄録
放射線照射した細胞内にはDNA二重鎖切断(DSB)が効率よく生成され、細胞致死の主要な原因になると考えられている。このことはDSB修復に関わるタンパク質機能を操作することで、がん放射線治療の成績向上などに応用できる可能性を示唆する。DSB修復機構のうち、相同組換え修復(HR)は、S期後半からG2期に頻度が上昇すると考えられている。がん組織は細胞増殖が盛んであるため、細胞集団内に占めるS/G2期細胞の割合が周囲の正常組織よりも高いと考えられる。このことから、放射線照射時にHRを阻害すれば、がん放射線治療の線量低減が可能となり、それによる正常組織への影響低減もはかれるはずである。一方で、HRを完全に阻害すれば細胞は致死となることが多くのHR因子のノックアウト実験で示されており、HRを完全阻害するという発想では放射線増感剤の実現性は乏しい。そのため、我々は、HRを部分的に阻害するという視点に立って増感剤や増感方法の探索を行っている。実際、HRは亜致死損傷回復の主要な経路であることが示されているので[Utsumi et al. 2001]、通常の放射線治療で採用されている分割照射においてHRの部分的阻害を行うことは腫瘍組織の回復を抑制することにつながり、照射回数を重ねるごとにその効果が大きくなるということが予想できる。本研究では、変異型NBS1を過剰発現させることでHRを部分的に阻害できること、およびこの阻害効果によって増感比はあまり高くないものの放射線増感効果が現れることを報告する。この効果はHRが回復に大きく影響する分割照射において放射線増感効果が大幅に強められることが確認され、がん放射線治療において相同組換えの部分的阻害が有効な放射線増感手法となり得ることが示唆された。