抄録
核融合施設は大量にトリチウムを使用するだけでなく、その温度範囲は固体から核融合プラズマの温度まで、濃度範囲は純物質からバックグラウンドレベル、ときわめて広範にわたる。しかも、十分安全に設計され、運転される核融合施設でも、微量のトリチウムが定常的に長期間にわたって放出される。核融合が将来の人類の枢要なエネルギー源の一つとなるとき、その施設数は現在の原子力発電所と同等レベルとなる可能性がある。法定限度を大きく下回る量と濃度であっても、このトリチウムは環境中、生態系に広く分布し、長期にわたって蓄積しつづけることになる。したがって核融合のエネルギーとしての成立は、この核融合施設から環境に放出されるトリチウムが社会的に理解され、容認されることにかかっていると言っても過言ではない。将来の世界の環境中のトリチウム分布と挙動は、核融合の利用により大きく変わり、環境放射性核種の主要なもののひとつとなる可能性がある。
核融合施設は事故時の放射性ハザードはあまり大きくない一方、常時能動的にトリチウム除去設備を稼働することでその安全を担保している。つまり事故時平常時共通に、工学的設備がトリチウム放出モード、化学種、経路を大きく決定することになる。トリチウムの環境挙動、生物影響の評価と理解は、核融合の成立性を決定づけるとともに、翻って核融合施設の設計に反映されることになる。本WSにおいては、ソースタームとして核融合施設における使用や閉じ込め技術など工学設備の特徴を概説する一方、現状の環境及び生物影響研究により、再びその知見が施設の考え方に影響を与える点を考えてみたい。