抄録
放射線リスク分析における疫学的アプローチでは、被曝線量とリスクの生物学的関係はブラックボックスのままにして、リスクを被曝線量その他観察可能な要因で陽に記述する回帰モデルなどの操作的モデルが利用されている。一定範囲の被曝線量に対しては、このアプローチが放射線リスクの推定にきわめて有用であることは言を待たない。しかし、低線量域への外挿やリスク移転の問題、また用量反応の関数形や潜伏期間を推定する問題などに対しては、ブラックボックスの中に分子間や細胞間、組織間の相互作用を含めた系を考えて、システム放射線生物学的アプローチをとることが今後は必要になってくるのではないかと考えられる。そのような系におけるダイナミックスは確率微分方程式系で記述でき、シミュレーションなどで解を求めることができるかもしれない。