抄録
東京電力福島第一原子力発電所(福島原発)事故により大量の放射性物質が大気中に放出された。その総放出量はI-131について約1.3×1017Bq、Cs-137について約6.1×1015Bqとされる。これらの放射性物質は広大な領域に拡散し、雨水に取り込まれるなどして地表に沈着した。その汚染の拡がり方は単純な同心円とは大きく異なり、最も外部被ばく線量率の高い地域は福島原発から北西方向へ伸び、続いて比較的レベルの高い地域が福島市東部から南西方向へ長く伸びる形状を呈している。
文部科学省は3月15日から福島原発より20km以遠の空間線量率(1cm周辺線量当量率)を測定し、同日夜には北西約20kmの地点で0.33mSv/h、北西約30kmの地点でも3月17日に0.17mSv/hという高い値を観測している。周辺住民の被ばくについては、北西方向約30kmの地点において、3月23日正午から5月30日10時まで連続滞在した場合の積算線量を36mSvと推計している。一方、福島原発から南南西方向では、事故初期に濃度の高い放射性雲(プルーム)が通過したが、空間線量率の下がり方が早く、積算線量は比較的低いレベルに留まっている。
内部被ばくについては、国の現地対策本部が3月下旬に福島県内の小児1,080人の甲状腺被ばくを調査し、全員スクリーニングレベルを下回っていることを確認している。また、福島県は放医研の協力を得て住民122人のホールボディカウンター測定を6月末から7月にかけて実施、体内の放射性セシウムによる預託実効線量は全員1mSv未満であったと報告している。