日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: W2-4
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ワークショップ2. 個体および幹細胞集団へのマイクロビーム局所照射による生物影響研究
X線マイクロビーム局所照射による神経幹細胞分化の促進
*鈴木 啓司尾関 あゆみ鈴木 正敏山下 俊一
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抄録
放射線照射を受けた細胞だけでなく、放射線のエネルギーを直接吸収しなかった細胞にも、間接的に放射線照射の影響が誘導されることが明らかにされてきた。放射線による非標的効果の誘導である。これまで、細胞死やゲノム変異に関する研究が数多く行われてきたが、細胞分化に及ぼす非標的効果の影響は不明である。一方、頭蓋照射は、脳腫瘍の治療法として幅広く行われているが、認知障害などの中枢神経系の副作用を引き起こす。これらは海馬の機能障害に起因することから、神経幹細胞の放射線障害による神経分化の異常がその原因であると考えられている。そこで本研究では、神経幹細胞の分化に及ぼす非標的効果を、長崎大学X線マイクロビーム照射装置を用いて検討した。実験には、胎生14.5日齢のSDラット大脳皮質より採取された神経幹細胞を用いたが、増殖培地中で、ほぼ全ての細胞が神経幹細胞のマーカーであるNestinに陽性であることを確認した。神経幹細胞の分化は、分化因子を含む分化培地中で7日間細胞を培養することにより行ったが、80_%_近くの細胞がアストロサイトのマーカーであるGFAPに陽性になり、用いた神経幹細胞では、アストロサイト系の分化が起こりやすいことが明らかになった。次に、神経幹細胞をマイクロビーム照射用のマイラー薄膜上で培養し、200μm直径の範囲内の細胞をX線マイクロビームにより局所照射し、増殖培地中で7日間培養した後、照射野から約1000μ_m_離れた領域の細胞において、GFAPの発現を検討した。その結果、約25_%_の細胞がGFAP陽性になることを確認した。神経幹細胞の分化は液性因子により制御されていることから、照射を受けた細胞からの分泌因子を介した非標的効果により、非照射神経幹細胞の分化が促進されたと考えられる。
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© 2011 日本放射線影響学会
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