抄録
分割照射を主体とする放射線治療により、固形腫瘍内でどのような現象が引き起こされているのか、細胞死様式を含め、それぞれの時代のtechnologyを反映しながら、多くの知見が報告されてきた。Repair、Redistribution、Reoxygenation、Repopulationからなる4つのR は、1960年代に提唱され、その後も大きく進展し、DNA二重鎖切断(DSB)修復の分子機構、細胞周期チェックポイント、低酸素応答、癌幹細胞の同定につながっている。当初、放射線誘発アポトーシスは、リンパ系の細胞のみに起こるもので、固形腫瘍では起こらないと考えられていたが、アポトーシス検出感度の向上により、固形腫瘍にも頻度としては低いものの有意に認められること、さらにその頻度は、臨床における治療成績と相関するという多くの報告がなされてきた。一方、放射線治療成績を左右するのは、極めて少数の癌幹細胞であり、しかもこれらの細胞は放射線抵抗性であることもわかってきた。臨床サンプルにおいて検出されるアポトーシスのほとんどは、非癌幹細胞由来と考えられるので、癌幹細胞の概念からは、アポトーシス頻度と臨床成績との相関は説明がつかない。最近では、caspase-3活性が高い程、プロスタグランディンE2が分泌され、生残癌細胞の増殖が促進されることで、Repopulationに大きく寄与するというこれまでの概念を覆すような報告もなされている。本シンポジウムでは、照射後、固形腫瘍内で起こる細胞死に影響を与える因子の多様性と、戦略的に臨床応用することの難しさについて触れる。