本稿では,東日本大震災から10 年を迎えるなかで,原子力被災地域における農業復興の現状と今後の 課題について分析を行った.避難指示解除の時期によって農業の復興状況には地域差がみられるものの,被 災地域に概ね共通するのは水田農業の変容である.福島県川内村では営農再開からすでに7 年が経過するな かで,従来の兼業農家主体による小規模な水田農業から,行政区(集落)を基礎に設立された営農組織が担 う集約的な水田農業へと地域農業の姿は変容している.持続的な地域農業の確立に向けてはこうした集落営 農組織の経営安定を図ることが第一の課題になると考えられる.一方で,生活の観点からは水田農業をリタ イアした人を含め多様な人びとが取り組める小規模な農業や農的くらしも重要である.川内村において2015 年より始まっている水稲育苗ハウスを活用したブドウ生産には,個人経営体や営農組織に加え小規模農家や 自給的農家も参画し,農業に関わる多様な人びとを包摂した産地形成をめざす取り組みが始まっている.こ のように,原子力被災地域の復興には,「産業振興」と「地域づくり」を両輪とする農業の再生が求められて いるといえる.