抄録
沖縄戦期の宮古島では上陸戦はなかったが激しい空爆が続いた。島外からの補給は絶えて,
食糧生産もままならず,食糧不足を引き起こした。同島は戦前からの馬産地で馬を大切にして
きたが,軍民ともに馬を食べたという証言が残る。「馬を食べる」ことは軍隊内と地域社会にお
いて,馬に関する規制や文化的規範変更を伴い,様々な摩擦と混乱を引き起こした。それはど
のように軍と住民の関係,また住民同士の関係を変化させたのだろうか,そこに働いた優先的
な力とはどのようなものだったのか。本稿では沖縄戦期の宮古島の食糧と馬の状況についてま
とめた上で,馬の食糧化をめぐり複数の政治が交差し人々の関係を変容させていたことを明ら
かにする。