銀表面上に成長したシリセン(シリコン原子による2次元ハニカム格子)の構造と,電子物性を紹介する.原理的にはシリセンはグラフェンと多くの点でエキゾチックな物性を共有するだけではなく,グラフェンでは達成できない量子物性の実現も期待できる.本稿ではこれまでに我々が行ってきたAg(111)上にSiを蒸着することによって得られるシリセンについて走査トンネル顕微鏡,低速電子回折,密度汎関数計算に基づく理論解析を通して得られたその幾何構造と電子物性について紹介する.Ag(111)上に自然界には存在しないシリセンが形成できることを示した.一方で,走査トンネル顕微鏡を用いたランダウレベル分光から,フリースタンディング・シリセン中に存在があると期待されている,相対論的ディラック粒子の特性が失われていることを明らかにした.この特性の消失はシリセンとAg(111)基板の間における強い電子軌道の混成に由来するものである.