抄録
我々は真空下で水溶液をエレクトロスプレーすることによって発生させた液滴イオン(帯電液滴)をビームとして用いる真空エレクトロスプレー液滴イオン(V-EDI)ビームの技術開発を進めてきた.そのV-EDIビームを二次イオン質量分析(SIMS)やX線光電子分光(XPS)におけるイオン化やスパッタのプローブとして有効に活用するには,V-EDIビームに含まれる液滴イオンのサイズや価数を最適化する必要があると考えている.しかしながらV-EDIビームに含まれる液滴イオンそのものの特徴を十分把握できていない.そこでV-EDIビームそのものの基本特性を明らかにすることを目的に,液滴イオン1つ1つの衝撃によって試料表面に形成された衝突痕を原子間力顕微鏡(AFM)で観測した.V-EDIビームの発生源であるキャピラリーの先端内径を5から15 μmの範囲で変化させただけでも,衝突痕の大きさやその個数分布および衝突痕から算出したスパッタ体積が大きく変化することがわかった.これらの実験結果は,V-EDIビームを表面分析で有効に活用するための貴重な指針になると考えられる.