2024 年 42 巻 p. 66-76
マス・メディア視聴習慣の衰退などにより人々が取得する情報は個性化してきており、大学でのマーケティング教育では、特定の商品・サービスを例示して理論を教授することが年々、困難になってきている。近年では産学連携によるプロジェクト型授業が導入されており、実地的学習として、この問題を解消する方策としても有効であるが、企業が受け入れられる学生の人数には限りがある。そして、マーケティング系科目は商学系学部だけでなく文理の枠を超えて多岐にわたる学部で開設されている。そのため講義でも、個性化した情報を上書きするような学習者共通の体験を提供して、個人の体験ではなく教科書の理論を通じてビジネスを考察できるように学習者を誘導する必要がある。
そこで筆者はeスポーツの体験課題を導入した講義法によるマーケティング教育プログラムを提案する。eスポーツはアウトドア・スポーツに参加できない人も参加でき、さらには教室やオンラインといった環境的制約があっても実施できる点で講義法との親和性が高い。eスポーツを体験課題として導入した嘉悦大学マーケティング科目の履修者の調査回答データを質的研究方法論の分析枠組みで分析した結果、授業上の評価課題(パフォーマンス課題)の達成度合いの自己認識が高い際に、マーケティング論の基礎概念をビジネスに結びつける有用性の理解に至っていることを確認した。本研究によるeスポーツ体験の講義法への導入は、マーケティング教育だけでなく様々な分野で適用可能である。また、伝統的スポーツにおける運動能力向上の目的以外にも、eスポーツを組み込んだ教育プログラム開発の可能性を拡大する。