2012 年 2012 巻 SKL-13 号 p. 02-
荒川修作(1936-2010)は,20世紀の日本が生んだ現代芸術家であるが,1960年代後半から,ヒトの意識の形成過程や意味とは何か という認識や意識の科学の最難題に挑戦していた.「意味のメカニズム」,「見るものがつくられる場」,「奈義の竜安寺 心」,「養老天命反転 地」,「Reversible Destiny: We Have Decided Not To Die」,「三鷹天命反転住宅」,「バイオスクリーブ・ハウス(生命を切りひらく家)」として提示された作品群は,身体の重心の位置と身体を取り巻く環境 との相互作用を通じて,我々の意識を人工的につくりだそうとする壮大な実験であった.筆者は,荒川修作の軌跡を概観し,遺作となったバイオス クリーブハウスで実際に体験した意識の変容(なつかしいと思う記憶の形成と,光を見るための手続き記憶の獲得)について報告する.