2022 年 2022 巻 Challenge-061 号 p. 01-
アリストテレスの時代から、「言語」はヒトと動物を隔てる決定的な性質であると考えられてきました。私たち人間は、単語を用いて物 事を示したり、それらを組み合わせて文章をつくり会話しますが、動物の鳴き声は単なる感情の表れにすぎないと捉えられてきたのです。 しかし、この二分は本当に正しいのでしょうか?たしかに、感情を伝える音声だけでもうまく意思疎通がとれる動物もいるでしょうが、 研究者たちは動物たちのコミュニケーションをどれほど詳細に解明できているのでしょうか?私は、この疑問を胸に、シジュウカラの鳴 き声について研究を続けてきました。シジュウカラは都市部から山地まで広く見られる私たちに身近な野鳥です。15年以上にわたる野外研究の成果として、シジュウカラは 捕食者の種類を示したり仲間を集めたりするための様々な鳴き声をもつことがわかってきました。さらに、彼らはこれらの鳴き声を組み合 わせ、より複雑なメッセージまで作ることができるのです。さらに、野外において認知実験をおこなうことで、聞き手のシジュウカラは、鳴き声の示す対象をイメージしたり、音列に文法のルール を当てはめることで情報を読み解いていることもわかってきました。これらの発見は、私たちが普段会話のなかで使っている認知能力を動 物において初めて実証した成果であり、言語の進化に迫る上でも大きな糸口を与えるはずです。本講演では、上記の研究内容を紹介しながら、野外観察や行動実験から動物たちの豊かな会話の世界にどのように迫れるのか、その新た な学問の枠組み(動物言語学)についてもご紹介したいと思います。