人工知能学会第二種研究会資料
Online ISSN : 2436-5556
第28回金融情報学研究会
メイカー・テイカー制を利用した裁定取引は利益の向上に繋がるのか—人工市場を用いた検証—
星野 真広水田 孝信八木 勲
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2022 年 2022 巻 FIN-028 号 p. 07-

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抄録

指値注文者(メイカー)側にリベート(負の売買手数料)を支払い,成行注文者(テイカー)側から手数料を取る,メイカー・テイカー制と呼ばれる手数料体系を採用する取引所が米国を中心として増えている.メイカー・テイカー制は,リベートを用いてメイカーの参入を促すことで指値注文を増やし,市場の流動性を向上させることで取引量を増加させると言われているからである. メイカー・テイカー制を採用した市場を利用し裁定取引を行う場合,メイカー・テイカー制を採用した市場に指値注文を行うことにより利ざやとは別にリベートでも利益を得ることができるため,通常より容易に期待する利益を上げられると考えられる.しかし,指値注文を受けたメイカー・テイカー制を採用した市場と,成行注文によって注文を消費されるその他の市場がどのような影響を受けるかははっきりと分かっていない.裁定取引を行うことで市場に負の影響を与えれば通常より利益を得る機会を損失する可能性もある.そこで本研究では人工市場を用いて,メイカー・テイカー制を採用した市場が提供するリベートの額を変化させ,メイカー・テイカー制を利用して行った裁定取引で発生した損益の確認を行った.また,それぞれの市場のボラティリティを測定し市場への影響も確認した.その結果,裁定取引での利益の向上が確認できた.ボラティリティについては指値注文を受けたメイカー・テイカー制を採用した市場では減少し,成行注文を受けたメイカー・テイカー制を採用していない市場では増加することが確認できた.

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© 2022 著作者
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