2022 年 2022 巻 FIN-029 号 p. 87-89
大量の金融市場の取引データの蓄積に伴い, ランダムウォークを中心とする一般的な金融理論体系では説明が困難な金融市場の経験則が観測されるようになった. 本研究では, その経験則の一つである売買符号時系列の長期記憶性 (long range correlation, LRC) という現象に注目しよう. 売買符号時系列の LRC とは, t 番目の成行注文の売買符号を ϵ(t),買い注文を +1, 売り注文を −1 と定義したとき, その自己相関関数 C(τ) が 1 より小さいべき指数 γ を持つべき則 (C(τ) ∝ τ −γ) に従って減衰する現象である [2, 3]. 現在に至るまで, そのべき指数 γ の推定方法には DFA[4] をはじめとする様々な手法が提案されている. しかし, Akyildirim ら [7] の研究によってそれらの統計手法はから得られる推定値は, 使用する手法に強く依存することを示した. つまり, 売買符号時系列の自己相関のべき指数 γの測定に対して有効な方法の再検討の余地があると言える. そこで本発表では, それらの統計手法の優劣を検討するために, 売買符号時系列の長期記憶性を説明するミクロモデルとして Lillo-Mike-Farmer(LMF) のモデル [5] を取り上げる. LMF モデルは γ についての解析的性質が詳細に調べられており,厳密解の観点から各手法別の推定値の妥当性を検証することができる. 本発表では LMF モデルを利用し、統計学で最も重要視されつ性質である一致性と不偏性の観点から評価した結果を報告する.