2021 年 18 巻 p. 151-173
子どもの発達障害への関心の高まりを追うような形で,大人の発達障害もま
た社会的課題となっているが,その需要に比して大人の発達障害者向けの支援
の整備は十分とはいえず,それを代替するような形で当事者活動へのニーズが
高まっている.しかし,多様な特性を有した発達障害者同士が,困難を共有し,
解決する方法については不明な点が多い.本稿は,発達障害者のコミュニティ
において,利用者がいかなる方法で相互に「信頼」を担保し,互いのメンバー
シップを確認しているのかについて検討を行った.
本稿で得られた知見は次のとおりである.第一に,当事者コミュニティのメ
ンバーシップの確認において「発達障害」という診断があることそれ自体は大
きな意味を持たない.第二に,発達障害の当事者であることが,専門家が支援
者として信頼される条件となっている.第三に,当事者同士のコミュニティに
おいては,同じような困難を経験しているという信頼に基づいて,儀礼的な行
為が免責されている.第四に,コミュニティのメンバーは,メンバー同士の身
体状況を参照しながら自身の身体の状況を確認していることがわかる.第五に,
儀礼的行為が免責されることにより,対人関係上のリスクの無効化が図られて
いる.