人工知能学会第二種研究会資料
Online ISSN : 2436-5556
機械学習モデルを用いたシミュレーション分析:地方債市場における会計情報の寄与
原口 健太郎丹波 靖博池田 大輔阿部 修司大石 桂一
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2025 年 2025 巻 FIN-034 号 p. 177-184

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抄録

本報告は,機械学習を用いて帰納的に構築したモデルとSHapley Additive exPlanations(SHAP)を組み合わせてシミュレーションを実現する枠組みを提案し,地方公共団体の開示情報が地方債金利に与える影響を非線形的に解析する。債券市場における会計情報と金利のふるまいはファイナンスや会計学における重要な興味の対象である。先行研究では,OLSにてコントロール変数を固定したうえで説明変数を変動させた際の目的変数の変動を測定する手法や,機械学習モデルを構築して金利の構成要素を解釈する手法が用いられてきた。しかしながら,OLSは非線形の関連性の捕捉が困難である。一方で,機械学習モデルでは,OLSのようにコントロール変数を固定することができない。これらの点が研究手法上の大きな課題となっていた。 そこで,本報告では実データを用いて訓練した機械学習モデルに,コントロール変数を固定化した仮想データを入力することでシミュレーションを行い,そのふるまいをSHAPにて解釈・可視化する手法を提案する。つまり,本報告は,自然法則や仮説を定式化して演繹的にモデルを構築するシミュレーションとは異なり,実データからの回帰に基づき帰納的に構築したモデルと実データ由来の仮想データを用いてシミュレーションを実現するものである。この枠組みを用いて,コントロール変数の固定化をはじめとした様々な条件を指定したうえでの非線形の関係性を捉えることが可能となる。本報告では,ケーススタディとしてわが国の地方債市場を対象に分析を行う。その理由は,わが国の地方債場の規模は世界的にみてもかなり巨大であるにもかかわらず,研究蓄積は著しく少ないからである。分析の結果,わが国の地方公共団体は破産可能性がないにもかかわらず,地方債金利は会計情報と強い関連性を有し,その関連性は顕著に非線形的であることを明らかにする。そのうえで,機械学習モデルを用いたシミュレーションが有する豊富な分野横断的な展開可能性や投資戦略への応用可能性も併せて論じる。

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© 2025 著作者
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