抄録
人工臓器研究には種々のモデルが用いられているが、その選択は研究者の背景知識に依存することが多い。著者らは腹膜透析における物質移動の機構を解析する過程で、動物モデルと数学モデルを同等の重要さで用いた。すなわち、まず腹膜透析における物質移動速度が、血液-透析液間の溶質濃度差と腹膜面積との積に比例するという考え方に誤りがあることを、犬を使ったin vivo実験で証明した。一方、この動物実験の結果を基に、血流量の影響を考慮した新しい物質移動モデルを導いた。この数学モデルからは、色々な重要な結果が予想されており、これらは将来の研究の指針を与えることになった。人工臓器は生体臓器の機械"モデル"である。動物モデルと数学モデルとの融合は、100%機械による臓器ばかりでなく、ハイブリッド型人工臓器や、他の生体臓器による機能代行技術を開発する際に、「モデル」ケースとなることが期待される。