抄録
人工心臓による循環が生体にとって生理的といえるのか、要素還元法的な解析ではなく全体論的な解析を加えることを目的としてカオス理論による検討を行なった。成山羊を用い、両心バイパス方式に補助人工心臓を2つ装着した。血行動態時系列曲線を4次元位相空間に埋め込んだ後、 3次元位相空間内に投影して位相力学的な解析を加え、リアプノフ指数の解析によりカオスの判定を行なった。その結果、人工心臓循環下における動脈圧のアトラクターは4次元位相空間内に埋め込み可能であり、トポロジカルには三角形のトーラスを基本構造とした2次元に近い力学構造を持っているものと考えられた。更にリアプノフ指数の解析により、このアトラクターはカオスの特徴を保持していることが示された。カオス的なシステムはある程度外乱に強いフレキシブルなシステムを具現化し得ると報告されており、人工心臓による循環がこのような柔軟性を保持し得る可能性が示唆された。