1994 年 23 巻 3 号 p. 675-678
1992年10月より1993年4月までに20症例の心大血管手術に際し、生体接着剤GRF(gelatin-resorcin-formalin)を使用した。急性大動脈解離2例及び弓部大動脈瘤食道破裂、急性心筋梗塞後心室中隔穿孔、冠静脈洞損傷の各1例を失ったが、死因はGRFとは無関係であった。急性大動脈解離7例全例及び慢性大動脈解離5例中1例で、GRFを接着剤として大動脈断端部の解離腔閉鎖に用いた。接着部は適度な弾性と強度を持ち縫合が容易で針穴からの血液漏出もなく、極めて有用であった。他の多くの症例では、GRFを止血剤として主に縫合部に用いた。冠静脈洞損傷の1例でGRF塗布時に同部の乾燥が得られなかったために無効であったが、適用部位を一時的に乾燥させた上で使用した症例では、技術的に縫合困難とされる急性心筋梗塞後心室中隔穿孔や大動脈石灰化の著明な高安動脈炎の症例を含めて良好な止血効果が得られた。対象となった症例で副作用はなく、安全に使用し得る製剤と考えられた。