本研究では,フェライト系,フェライト・パーライト系およびパーライト系球状黒鉛鋳鉄をTiNコーテッド超硬工具で旋削し,切削抵抗,切削温度および工具摩耗から被削性を調査した.その結果,切削抵抗および切削温度は,フェライト率が50%程度以上の鋳鉄では,ほぼ同程度の値を示したのに対し,パーライト主体の鋳鉄は前者に比べ明らかに大きな値を示した.また,引張強度と切削温度との関係では500MPa以下(フェライト率が50%程度以上の鋳鉄)ではほぼ同じ温度になったのに対し,520MPa以上(パーライト主体)では急激に温度が高くなった.工具摩耗については,フェライト率が50%程度以上では引張強度が高いほど大きい摩耗を示した.またパーライト主体の鋳鉄はフェライトを含む場合に比べ摩耗が非常に大きく発達した.また,いずれの被削材でも逃げ面摩耗部全体で明瞭な擦過痕が確認できず凝着に覆われていた.また,実験結果と各鋳鉄のレーダーチャートによる被削性評価値を比較したところ高い相関が得られた.上記の結果から,引張強度が同程度(本研究では500MPa)であっても,フェライトを50%程度含む場合は,パーライト主体と比べ工具摩耗から見た被削性は非常に優れていることがわかった.