2017 年 19 巻 4 号 p. 145-154
イネ品種「密陽44号」の斑点米カメムシ抵抗性の特徴を,籾の登熟段階およびカメムシの選好性から検討した.さらに圃場で3カ年栽培し,斑点米カメムシ自然発生条件下での抵抗性効果を検討した.抵抗性の特徴は,出穂10日後と20日後の稲株に加害特性の異なる2種のカメムシ(クモヘリカメムシ(籾の鉤合部を選択して加害,乳熟期前後の籾を加害),ホソハリカメムシ(籾の部位を選択せず加害,糊熟期を中心に幅広い登熟段階を加害))をそれぞれ放飼する集団検定法で調査した.斑点米率は籾の開花順序に基づいて着粒部位を分けた区分毎に調査するとともに,籾の登熟段階の指標として籾の硬度を測定した.その結果,「密陽44号」は出穂20日後に両種のカメムシに対して安定した抵抗性を示した.一方,出穂10日後では,クモヘリカメムシに対して供試年間で抵抗性にばらつきがみられ,ホソハリカメムシに対しては抵抗性がみられなかった.籾硬度と斑点米率の関係でも,両カメムシ種に対して負の相関がみられ,クモヘリカメムシに対してはある程度籾硬度が高くなると「あいちのかおりSBL」と同程度の硬度であっても斑点米率が低くなる関係がみられた.これらのことから,抵抗性は籾の登熟とともに高まり,ある程度登熟がすすんだ段階から安定すると考えられた.一方,ホソハリカメムシではいずれの籾硬度においても「あいちのかおりSBL」よりも斑点米率が低い関係がみられた.集団検定時に寄生虫数を調査した結果,クモヘリカメムシに非選好性がみられ,同種に対しては抵抗性機構が非選好性を伴うと考えられた.一方,ホソハリカメムシでは非選好性がみられなかった.カメムシ2種における上述の籾硬度と斑点米率の関係の違いは,この選好性や両種が好んで加害する籾の登熟段階の相違が影響していると考えられた.また,抵抗性の効果はクモヘリカメムシとホソハリカメムシがそれぞれ優占した自然発生条件下の圃場でも確認された.
斑点米カメムシは1990年代後半に全国的に多発生し(白石 2001),斑点米による米の等級の格下げを引き起こした.伊藤(2004)は多発生を水田の利用状況の変化から考察し,休耕地の増加をその要因と指摘している.愛知県においても1999年に多発生して以降,圃場内および畦畔を含めた周辺の雑草管理,出穂期以降の薬剤防除,色彩選別機による斑点米の物理的除去等の斑点米カメムシへの対策が講じられている.しかし,いずれも労力,コストがかさみ,それらを軽減できる手段として斑点米カメムシ抵抗性品種の育成が望まれてきた.
愛知県農業総合試験場では抵抗性品種の育成を目的に,抵抗性ドナーの選定を試み,クモヘリカメムシとミナミアオカメムシ両種に対して斑点米率の発生を低減させる「密陽44号」と「CRR-99-95W」が有望であることを示した(杉浦ら 2017).しかし,両品種の抵抗性の詳細な特徴や機構,ならびに圃場で栽培した場合の斑点米率低減効果については検討されておらず,これらの解明はドナー品種の育種利用と併行して解明すべき課題となっている.そこで,抵抗性ドナー品種のうち「密陽44号」について抵抗性の特徴と,圃場で栽培した場合の斑点米率低減効果を明らかにすることを目的に研究を行った.抵抗性の特徴の解明については,抵抗性がイネと加害カメムシの相互作用によって特徴づけられるため,供試するカメムシ種の選定はその加害特徴を踏まえて行うことが重要であると考えた.斑点米カメムシは重要種として10種あまりが知られている(岩田・葭原 1976,林 1997)が,種によって加害部位に特徴のあることが知られており,川村(1993)は斑点米の加害痕の位置から加害種を鉤合部(縫合部)加害型,基部加害型,無差別加害型,頂部加害型の4つに類別している.竹内ら(2004a)はクモヘリカメムシ,イネカメムシ,ホソハリカメムシについてそれぞれが鉤合部加害型,基部加害型,無差別加害型に該当し,それが籾加害部位の種特異性に起因することを明らかにした.さらに,カメムシ種の加害部位選択性と寄主植物範囲の幅との関連に着目し,寄主植物の幅が広いカメムシ種(ホソハリカメムシ)は加害部位を選択せず,イネ科への依存度が高い種(クモヘリカメムシ,イネカメムシ,アカスジカスミカメ)は籾の中でも比較的柔らかい鉤合部や基部を選択して加害することを指摘している.このため,本研究では「密陽44号」の抵抗性の特徴を,広範な寄主植物を加害でき,加害部位を選択しないカメムシ種と,寄主植物がイネ科に特化し,籾の柔らかい部位を選択して吸汁するカメムシ種の2種に対して検討することとし,両種の中から,それぞれ愛知県の優占種(愛知県農業総合試験場環境基盤研究部病害虫防除室 2017)であるホソハリカメムシ(無差別加害型)と,クモヘリカメムシ(鉤合部加害型)をカメムシ抵抗性検定に供した.また,斑点米カメムシの加害量は籾の登熟段階によっても異なる(中筋 1973)ことが知られているため,登熟段階の異なる「密陽44号」でカメムシ抵抗性検定を行うとともに,籾の硬度を測定することで,抵抗性の特徴を籾の登熟段階からも検討した.さらに,「密陽44号」の抵抗性が野外圃場の斑点米カメムシ自然発生条件下でどの程度効果を持つかを検討するため,3カ年比較品種とともに栽培し,斑点米率低減効果を調査した.上述の試験に加え,抵抗性機構を検討する上で必要となる「密陽44号」の基礎的な形態的特性(草型,穂相,籾の形態)もあわせて調査した.
2015,2016年に愛知県農業総合試験場(長久手市)の圃場で「密陽44号」と,比較品種として「あいちのかおりSBL」を各品種4.5 m2(4条,長さ3.6 m)栽培した.移植はいずれの年も5月中旬に3本植えで行い,施肥は元肥としてN,P2O5,K2Oをそれぞれ5.6,6.1,6.5 gm−2の割合で,穂肥を出穂20日前と10日前にN,K2Oをそれぞれ2.6,1.6 gm−2の割合で施用した.成熟期に稈長,穂長,穂数を調査した後収穫し,乾燥後,脱穀,籾摺りし,1.8 mmの篩にかけ,篩上の玄米について玄米千粒重を調査した.試験は1反復とした.
2) 籾の形態的特性後述の籾硬度(出穂25日後)を測定した穂について,穎の色,外穎先端の色,外穎の毛じの粗密,芒の分布,最長芒の長さ,および芒の色を農林水産植物種類別審査基準(稲種)(農林水産省 2015)に従い調査した.芒の分布,最長芒の長さは穂全体を対象に調査し,それ以外は黄熟した籾について調査した.
3) 穂相後述の集団検定(2012,2013年,出穂20日後)に供した各株2穂について着粒区分毎の籾数を集団検定と兼ねて調査した.
2. カメムシ抵抗性検定2012年はクモヘリカメムシ,2013年はクモヘリカメムシ,ホソハリカメムシ両種を用い,杉浦ら(2017)の集団検定法によって検定を行った.籾の登熟段階と斑点米率低減効果の関係を検討するため,出穂10日,20日後の稲を供試した.また,一穂内においても籾の着粒部位によって開花と登熟順序がほぼきまっており(星川 1975),検定時の穂においても着粒部位によって登熟段階に幅ができることから,斑点米率の調査は開花順序に基づき着粒部位を分けた区分毎に行った(図1).区分は7つで,①上位1~3番目までの枝梗,4~7番目までの枝梗のうち,②一次枝梗,③二次枝梗の最上位籾,④二次枝梗のそれ以外の籾,8~11番目までの枝梗のうち,⑤一次枝梗,⑥二次枝梗の最上位籾,⑦二次枝梗のそれ以外の籾である.
着粒部位に基づく籾の調査区分.
①~⑦の7つに区分:①上位1~3番目までの枝梗,②4~7番目までの枝梗のうち,一次枝梗,③4~7番目までの枝梗のうち,二次枝梗の最上位籾,④4~7番目までの枝梗のうち,二次枝梗のそれ以外の籾,⑤8~11番目までの枝梗のうち,一次枝梗,⑥8~11番目までの枝梗のうち,二次枝梗の最上位籾,⑦8~11番目までの枝梗のうち,二次枝梗のそれ以外の籾.
クモヘリカメムシおよびホソハリカメムシ両種とも6月下旬から7月上旬にかけて愛知県農業総合試験場で捕獲した.その後,山間農業研究所(豊田市)のガラス室内にテトロンゴース布を蚊帳状に設置し,その中で糊熟期以降の稲体を与えて増殖した.
2) 供試稲の養成「密陽44号」と,対照品種として出穂期が「密陽44号」に近い「あいちのかおりSBL」を供試した.2012,2013年とも5月中旬に山間農業研究所の圃場に両品種を1本植えで移植した.施肥は全層用全量基肥でN,P2O5,K2Oをそれぞれ8.0,4.3,3.3 gm−2の割合で施用した.供試株は出穂日を穂毎にラベルした.検定数日前まで圃場で生育させた後,鉢上げし,出穂日がほぼ同日の3穂を選び,それ以外の穂は切除した.検定に供する3穂は圃場での生育期間中に斑点米カメムシの被害を受けた可能性のある不稔籾や子房の発達が著しく遅い籾を切除した.
3) 集団検定両年とも9月上旬頃の出穂10日,および20日後に供試株1株を蚊帳内に移し5日間カメムシに吸汁させる処理を行った.吸汁処理は3反復で行い,供試品種が偏らないように配置し,供試株の穂の高さが異なる場合は鉢を土台に乗せ,穂の高さを均一にした.処理後,供試株にジノテフラン水和剤を散布した後,カメムシの被害を受けないよう別のガラス室内で登熟させた.成熟期に3穂を刈り取り,乾燥させた後に上述の着粒部位区分毎に分けて脱穀し,籾摺りをした.籾摺りは,玄米が砕けないように充実した籾は一穂用籾摺器(藤原製作所製)で籾摺りし,充実不足の籾はハサミとピンセットを用いて籾殻を外した.斑点米は目視で調査した.斑点米率は斑点米数/総玄米数×100で算出した.また,吸汁処理中の2日目と4日目の午前中に各1回,成虫,幼虫込みの穂への寄生虫数を見取り調査した.
3. 籾硬度カメムシ抵抗性検定供試株と同一条件で栽培した稲から,検定に供した穂と同一出穂日の2穂を選び,カメムシ抵抗性検定が終了する出穂15日,25日後に穂を切除し,ビニール袋に入れ同日のうちに測定した.測定する籾は抵抗性検定同様に着粒部位の区分毎に8粒以上ある場合は8粒を選び,8粒未満の場合は全ての籾とした.測定はレオメーター(CR-3000,サン科学製)で行い,プランジャーとして木綿針(太さ0.84 mm,長さ51.5 mm,クロバー製)を固定し,速度100 mm/分,深さ2.0 mmの条件で行った.
4. 圃場栽培での斑点米率調査2012,2013,2015年に山間農業研究所圃場で「密陽44号」と,比較品種として「あいちのかおりSBL」を各品種9.3 m2(6条,長さ5.0 m)栽培した.試験区は1反復で各品種を隣接して配置した.移植はいずれの年も5月中旬に3本植えで行い,施肥は元肥としてN,P2O5,K2Oをそれぞれ5.0,5.4,5.8 gm−2の割合で,穂肥を出穂20日前にN,K2Oをそれぞれ3.5,2.2 gm−2の割合で施用した.斑点米カメムシへの防除は無防除とした.斑点米カメムシの発生調査は種別に成虫,幼虫を分けずに見取りで行い,出穂期前後から成熟期頃まで5~7回,5~10日間隔で行った.成熟期に各区1,3,5列目から1株おきに10株刈り取り,乾燥後,脱穀,籾摺りし,1.8 mmの篩にかけ,篩上の玄米について斑点米を調査した.斑点米の調査は収穫した列毎に玄米を混合して目視で行い,斑点米率は斑点米数/総玄米数×100で算出した.さらに,斑点米は実体顕微鏡により観察し,加害痕の位置を竹内ら(2004a)が定めた3区分(基部,鉤合部縦稜線,その他)に,頂部を加えて類別した.
稈長,穂長,穂数および玄米千粒重の調査結果を表1に示す.2015,2016年の平均で稈長は「密陽44号」が72 cm,比較品種の「あいちのかおりSBL」が80 cm,穂長は両品種とも22.6 cm,穂数は「密陽44号」が354本/m2,「あいちのかおりSBL」が403本/m2,玄米千粒重は「密陽44号」が20.5 g,「あいちのかおりSBL」が24.5 gであった.
試験年 | 品種名 | 稈長(cm) | 穂長(cm) | 穂数(本/m2) | 玄米千粒重(g)1) |
---|---|---|---|---|---|
2015年 | 密陽44号 | 76 * | 23.2 * | 408 | 20.1 |
あいちのかおりSBL | 79 | 21.8 | 370 | 24.1 | |
2016年 | 密陽44号 | 68 ** | 22.0 * | 299 | 20.9 |
あいちのかおりSBL | 80 | 23.4 | 436 | 25.0 | |
平均 | 密陽44号 | 72 n.s. | 22.6 n.s. | 354 n.s. | 20.5 * |
あいちのかおりSBL | 80 | 22.6 | 403 | 24.5 |
*,**はt検定でそれぞれ5%,1%水準で有意差があること,n.s.は有意差がないことを示す.
1) 14.5%水分換算値.
次に籾の形態的特性を表2に示す.「密陽44号」の穎の色は「黄白」,外穎先端の色は「白」,外穎の毛じの粗密は「やや粗」,芒の分布は「先端のみ」,最長芒の長さは「極短」,芒の色は「黄白」であった.「あいちのかおりSBL」とは外穎の毛じの粗密が「中」,芒の分布が「全体」,最長芒の長さが「短」において異なり,その他は同じであった.
品種名 | 穎の色 | 外穎先端の色 | 外穎の毛じの粗密 | 芒の分布 | 最長芒の長さ | 芒の色 |
---|---|---|---|---|---|---|
密陽44号 | 黄白 | 白 | やや粗 | 先端のみ | 極短 | 黄白 |
あいちのかおりSBL | 黄白 | 白 | 中 | 全体 | 短 | 黄白 |
調査基準は農林水産植物種類別審査基準(稲種)による.
穂相の調査結果を表3に示す.一次枝梗数の頻度分布は「密陽44号」,「あいちのかおりSBL」ともに8~11が最も多く,大きく異ならなかった.籾数は「密陽44号」の二次枝梗で「あいちのかおりSBL」より多く,一穂着粒数は18%多かった.
品種名 | 一次枝梗数の頻度分布 | 一穂 着粒 数 |
着粒部位区分別着粒数と二次枝梗数 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1~3 | 4~7 | 8~11 | 12~15 | 1~3 | 4~7 | 8~11 | |||||||
籾数① | 一次枝 梗籾 数② |
二次枝梗 | 一次枝 梗籾 数⑤ |
二次枝梗 | |||||||||
籾数③ | 枝梗数④ | 籾数⑥ | 枝梗数⑦ | ||||||||||
密陽44号 | 0 | 0 | 18 | 0 | 107 * | 32.6 ** | 20.4 ** | 28.3 ** | 10.3 ** | 15.9 n.s. | 9.7 * | 3.9 n.s. | |
あいちのかおりSBL | 0 | 0 | 15 | 3 | 90 | 24.3 | 23.9 | 18.1 | 7.0 | 17.6 | 5.2 | 2.4 |
表中の値は,2012年(クモヘリカメムシ),2013年(クモヘリカメムシ,ホソハリカメムシ)の集団検定に供試した穂(各株2穂)の一次枝梗数の頻度分布と,一穂着粒数および着粒部位区分別着粒数と二次枝梗数の平均値.
①~⑦は着粒部位区分番号.
*,**はt検定でそれぞれ5%,1%水準で有意差があること,n.s.は有意差がないことを示す.
クモヘリカメムシに対する集団検定結果を表4に示す.「密陽44号」は出穂20日後の株を供試した場合,穂全体の斑点米数と斑点米率はそれぞれ「あいちのかおりSBL」対比で2012年が44%,30%,2013年が44%,42%と安定して低かった.一方,出穂10日後の株を供試した場合,穂全体の斑点米数と斑点米率はそれぞれ「あいちのかおりSBL」対比で2012年が38%,27%と低かったものの,2013年は96%,93%と高く,試験年によって差がみられた.着粒部位の区分別に斑点米率をみると,出穂20日後の株を供試した場合,登熟が比較的早くすすむことが想定される1~3番目の枝梗(区分①)ならびに4番目以降の枝梗のうち一次枝梗(区分②,⑤)と二次枝梗の最上位の籾(区分③,⑥)が「あいちのかおりSBL」より低く抑えられていた.一方で,登熟が特に遅れる二次枝梗の最上位以外の籾(区分④,⑦)は高く,集中的に加害を受けた.出穂10日後の株を供試した場合にも,2012年は区分④以降の値が他区分よりも高く,相対的に登熟の遅い着粒部位の籾が加害を受ける傾向がみられた.吸汁処理中の寄生虫数はいずれの検定においても「あいちのかおりSBL」対比で24~66%と少なかった.
接種時期 | 試験年 | 品種名 | 寄生虫 数/株 |
(比較 対比 (%)) |
穂全体 の斑点 米数 |
(比較 対比 (%)) |
斑点米率(%) | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
穂全体 | (比較 対比 (%)) |
着粒部位区分 | ||||||||||||||
1~3 ① |
4~7 | 8~11 | ||||||||||||||
一次枝梗② | 二次枝梗 | 一次枝梗⑤ | 二次枝梗 | |||||||||||||
最上位③ | 他④ | 最上位⑥ | 他⑦ | |||||||||||||
出穂10日後 | 2012年 | 密陽44号 | 4.3 ** | (52) | 21 ** | (38) | 27 ** | (27) | 19 ** | 23 ** | 17 ** | 56 n.s. | 42 ** | 42 | NA | |
あいちのかおりSBL | 8.3 | 56 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | NA | NA | ||||||
2013年 | 密陽44号 | 5.0 n.s. | (66) | 63 n.s. | (96) | 93 * | (93) | 91 * | 93 n.s. | 90 n.s. | 100 n.s. | 100 n.s. | NA | NA | ||
あいちのかおりSBL | 7.6 | 66 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | NA | NA | ||||||
出穂20日後 | 2012年 | 密陽44号 | 3.3 ** | (24) | 31 * | (44) | 28 * | (30) | 17 * | 7 * | 15 * | 69 n.s. | 14 * | 20 ** | 88 n.s. | |
あいちのかおりSBL | 13.4 | 71 | 94 | 86 | 91 | 88 | 100 | 97 | 100 | 100 | ||||||
2013年 | 密陽44号 | 9.7 n.s. | (53) | 40 ** | (44) | 41 ** | (42) | 29 ** | 26 ** | 15 * | 82 * | 45 ** | 22 n.s. | 93 n.s. | ||
あいちのかおりSBL | 18.1 | 90 | 97 | 95 | 97 | 96 | 100 | 97 | 100 | 100 |
①~⑦は着粒部位区分番号.
*,**はt検定でそれぞれ5%,1%水準で有意差があること,n.s.は有意差がないことを示す.
NA: データなし.
次にホソハリカメムシに対する集団検定結果を表5に示す.「密陽44号」は出穂20日後の株を供試した場合,穂全体での斑点米数と斑点米率はともに「あいちのかおりSBL」対比で30%と低かった.一方,出穂10日後の株を供試した場合は穂全体での斑点米数と斑点米率がそれぞれ「あいちのかおりSBL」対比で92%,66%であり,「あいちのかおりSBL」と同程度の加害を受けた.「密陽44号」の着粒部位区分別の斑点米率をみると,出穂20日後の株を供試した場合,登熟が特に遅れる4~7番目以降の枝梗のうち二次枝梗最上位以外の籾(区分④,⑦)が他区分よりやや高く,出穂10日後の株を供試した場合においても,同様に区分(⑦)がやや高かった.しかし,一方で二次枝梗の中では登熟が早くすすむ最上位籾(出穂20日後の検定の区分⑥,出穂10日後の区分③,⑥)も同様に斑点米率が高く,クモヘリカメムシほど登熟の遅い区分を明瞭に選択して加害する傾向はみられなかった.寄生虫数は「あいちのかおりSBL」対比で,出穂10日後の検定が82%,20日後の検定が70%と「あいちのかおりSBL」よりやや減少したが有意差はみられなかった.
接種時期 | 試験年 | 品種名 | 寄生虫 数/株 |
(比較 対比 (%)) |
穂全体 の斑点 米数 |
(比較 対比 (%)) |
斑点米率(%) | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
穂全体 | (比較 対比 (%)) |
着粒部位 | ||||||||||||||
1~3 ① |
4~7 | 8~11 | ||||||||||||||
一次枝梗② | 二次枝梗 | 一次枝梗⑤ | 二次枝梗 | |||||||||||||
最上位③ | 他④ | 最上位⑥ | 他⑦ | |||||||||||||
出穂10日後 | 2013年 | 密陽44号 | 1.0 n.s. | (82) | 33 n.s. | (92) | 41 n.s. | (66) | 34 n.s. | 35 n.s. | 55 n.s. | 34 n.s. | 42 n.s. | 60 n.s. | 50 | |
あいちのかおりSBL | 1.2 | 36 | 62 | 57 | 61 | 72 | 83 | 81 | 50 | NA | ||||||
出穂20日後 | 2013年 | 密陽44号 | 1.6 n.s. | (70) | 22 ** | (30) | 23 ** | (30) | 16 * | 14 ** | 19 ** | 42 * | 21 ** | 46 n.s. | 40 n.s. | |
あいちのかおりSBL | 2.2 | 73 | 75 | 63 | 70 | 74 | 84 | 86 | 92 | 97 |
①~⑦は着粒部位区分番号.
*,**はt検定でそれぞれ5%,1%水準で有意差があること,n.s.は有意差がないことを示す.
NA:データなし.
籾硬度として,レオメーターで測定したピークフォースを表6に示す.籾硬度を上位枝梗と下位枝梗で比較すると「密陽44号」,「あいちのかおりSBL」ともに下位枝梗の方が低い傾向がみられた.着粒部位区分別にみると,二次枝梗のうち最上位以外の区分(区分④,⑦)が顕著に低かった.品種間で比べると,「密陽44号」は「あいちのかおりSBL」に比べ出穂15日後においても25日後においても多くの着粒部位区分で値が高く,特に,1~3番目の枝梗の籾(区分①)と,4~7番目以降の枝梗の一次枝梗(区分②,⑤)はいずれの試験年,出穂後日数の穂においても「あいちのかおりSBL」と有意差がみられた.両カメムシ種から「あいちのかおりSBL」と同程度の加害を受けた2013年の出穂15日後の穂は2012年の同穂に比べ硬度が50%程度と低かった.
測定時期 | 試験年 | 品種名 | 出穂日 | 着粒部位区分別ピークフォース(g/cm2) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1~3 ① |
4~7 | 8~11 | |||||||||
一次枝梗② | 二次枝梗 | 一次枝梗⑤ | 二次枝梗 | ||||||||
最上位③ | 他④ | 最上位⑥ | 他⑦ | ||||||||
出穂15日後 | 2012年 | 密陽44号 | 8.27 | 53.5 ** | 38.2 ** | 36.7 ** | 12.3 ** | 20.0 ** | 36.4 * | 9.4 ** | |
あいちのかおりSBL | 8.27 | 8.5 | 7.3 | 10.2 | 5.2 | 5.8 | 9.0 | 5.0 | |||
2013年 | 密陽44号 | 8.19 | 24.0 ** | 15.0 ** | 24.0 ** | 6.7 n.s. | 10.0 * | 12.0 * | 5.0 n.s. | ||
あいちのかおりSBL | 8.19 | 9.6 | 9.8 | 11.0 | 5.0 | 8.0 | 7.3 | 5.0 | |||
出穂25日後 | 2012年 | 密陽44号 | 8.27 | 96.9 ** | 90.5 ** | 88.4 n.s. | 46.6 ** | 77.1 ** | 84.8 n.s. | 19.3 * | |
あいちのかおりSBL | 8.27 | 74.4 | 63.4 | 83.7 | 17.0 | 37.1 | 69.5 | 8.6 | |||
2013年 | 密陽44号 | 8.19 | 100.0 ** | 87.0 ** | 90.0 n.s. | 29.0 * | 70.0 ** | 83.0 n.s. | 6.5 n.s. | ||
あいちのかおりSBL | 8.19 | 72.0 | 59.0 | 88.0 | 18.0 | 34.0 | 49.0 | 11.0 |
①~⑦は着粒部位区分番号.
*,**はt検定でそれぞれ5%,1%水準で有意差があること,n.s.は有意差がないことを示す.
2013年に調査した出穂25日後の籾硬度と,出穂20日後に行った集団検定での着粒部位区分別斑点米率との相関関係を図2,3に示す.着粒部位区分のうち8~11番目の枝梗の二次枝梗(⑥,⑦)は供試株によって籾の無い場合があったため,着粒部位区分①~⑤までで相関関係を検討した.クモヘリカメムシに対して集団検定した場合,「あいちのかおりSBL」は緩やかな負の相関(10%水準で有意)を示したが,回帰直線の傾きは小さく,硬度の高い区分においても斑点米率が高かった.「密陽44号」も籾硬度と斑点米率に負の相関(5%水準で有意)がみられた.回帰直線の傾きは「あいちのかおりSBL」よりも大きく,籾硬度の低い区分は「あいちのかおりSBL」同様の高い斑点米率であったが,籾硬度が高い区分になるほど斑点米率が大きく低下した.この傾向は2012年も同様であった.ホソハリカメムシに対して集団検定した場合も,「あいちのかおりSBL」と「密陽44号」ともに負の相関がみられた(「あいちのかおりSBL」は有意でなく,「密陽44号」は1%水準で有意).回帰直線の傾きは同程度であったが,「密陽44号」の方がy切片が小さく,いずれの籾硬度においても「あいちのかおりSBL」よりも斑点米率が低かった.
出穂25日後の籾硬度とクモヘリカメムシ集団検定(出穂20日後)の斑点米率の関係(2013年).
籾の着粒部位区分①~⑤の値.
*,**はそれぞれ10%,5%水準で有意な相関有り.
出穂25日後の籾硬度とホソハリカメムシ集団検定(出穂20日後)の斑点米率の関係(2013年).
籾の着粒部位区分①~⑤の値.
***は1%水準で有意な相関有り.
「密陽44号」および「あいちのかおりSBL」の出穂日,斑点米カメムシ延べ発生数,斑点米率,「密陽44号」の斑点米率の「あいちのかおりSBL」対比,および斑点米に占める加害痕の位置別の割合を表7に示す.「密陽44号」と「あいちのかおりSBL」の出穂日の差は0~3日であった.斑点米率はいずれの試験年においても「密陽44号」が「あいちのかおりSBL」よりも少なく,「あいちのかおりSBL」対比でみると18~47%に低減していた.斑点米カメムシの発生数は2013,2015年で「密陽44号」が「あいちのかおりSBL」の30%以下と少なかった.この2カ年の優占種はクモヘリカメムシであり,「密陽44号」は同種の発生数が「あいちのかおりSBL」の13%以下と顕著に少なかった(図4).2012年はホソハリカメムシが優占種であり(図4),「密陽44号」の斑点米カメムシの発生数は「あいちのかおりSBL」対比92%と大きく異ならなかった.斑点米に占める加害痕の位置は2013,2015年は「あいちのかおりSBL」が鉤合部縦稜線の割合が最も高く,「密陽44号」はその他と鉤合部縦稜線の割合が高かった.2012年は両品種ともその他の割合が最も高かった.
品種名 | 2012年 | 2013年 | 2015年 | |||||||||||||||||||||||
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出穂日 | 斑点米カメムシ類発生数1) | 斑点米率 | 比較対比 | 斑点米に占める 加害痕の位置の 割合 |
出穂日 | 斑点米カメムシ類発生数1) | 斑点米率 | 比較対比 | 斑点米に占める 加害痕の位置の 割合 |
出穂日 | 斑点米カメムシ類発生数1) | 斑点米率 | 比較対比 | 斑点米に占める 加害痕の位置の 割合 |
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頂 部 |
基 部 |
鉤合 部縦 稜線 |
そ の 他 |
頂 部 |
基 部 |
鉤合 部縦 稜線 |
そ の 他 |
頂 部 |
基 部 |
鉤合 部縦 稜線 |
そ の 他 |
|||||||||||||||
月.日 | 頭 | % | % | % | % | % | % | 月.日 | 頭 | % | % | % | % | % | % | 月.日 | 頭 | % | % | % | % | % | % | |||
密陽44号 | 8.22 | 59 | 1.0 | 47 | 15 | 8 | 15 | 62 | 8.19 | 14 | 0.3 | 18 | 7 | 0 | 43 | 50 | 8.14 | 50 | 0.7 | 27 | 13 | 0 | 40 | 47 | ||
あいちのかおりSBL | 8.25 | 64 | 2.1 | 100 | 11 | 2 | 10 | 77 | 8.19 | 164 | 1.9 | 100 | 17 | 3 | 64 | 15 | 8.15 | 199 | 2.8 | 100 | 11 | 0 | 52 | 37 |
1) 各調査日の発生数を合計した延べ発生数(2012年:8/24,8/29,9/5,9/12,9/20,9/27,10/5,2013年:8/22,8/30,9/4,9/10,9/17,2015年:8/19,8/25,8/31,9/10,9/16).
圃場栽培で発生した斑点米カメムシ類の延べ発生数と種構成.
「密陽44号」は2カ年の平均で稈長72 cm,穂長22.6 cm,穂数354本/m2,玄米千粒重20.5 gであり,「あいちのかおりSBL」よりもやや短稈で穂数がやや少なく,千粒重が軽い傾向を示した.しかし,これらの値からは「密陽44号」が日本で栽培されている品種と比べて特異的な草型や粒大であるとは考えにくい.「あいちのかおりSBL」と比べてやや短稈であることがカメムシの選好性に影響する可能性も考えられるが,集団検定では穂の高さを揃えるように調整しており,本検定において稈長が抵抗性に及ぼす影響は無いと考えられる.籾の形態的特性は外穎の毛じの粗密,芒の分布および最長芒の長さが「あいちのかおりSBL」と異なるものの,いずれも「あいちのかおりSBL」より少ない,あるいは短いものであり,抵抗性とは無関係であると考えられる.穂相は「密陽44号」が「あいちのかおりSBL」より二次枝梗の着粒数が多い傾向を示したが,後述するようにクモヘリカメムシは登熟の遅い籾を好んで加害するため,抵抗性にとって有利な特性とはいえない.これらのことから,調査対象とした形態的特性は「密陽44号」の抵抗性の要因ではないと考えられた.ただし,一穂着粒数が「あいちのかおりSBL」より18%多かったため,穂数を揃えて供試した集団検定では,斑点米率のみでなく斑点米数でも抵抗性程度を評価する必要があると考えられた.
2. 集団検定法における「密陽44号」の抵抗性の特徴本検定では供試個体を野外圃場で栽培し,検定数日前まで十分に生育させた.これは「密陽44号」の抵抗性の特徴を,諸特性が発揮された健全な稲体で評価することが目的であったが,本法では検定に供する時点で供試株が斑点米カメムシの加害を受けている可能性がある.このため,検定に供した段階での斑点米カメムシの被害程度を推定する必要があると考えた.そこで検定と同一条件で栽培し,出穂25日後に圃場から採取した穂(籾硬度を測定した穂)の斑点米率を調査した結果,2012年が「密陽44号」で1.5%,「あいちのかおりSBL」で1.9%,2013年が「密陽44号」で2.8%,「あいちのかおりSBL」で3.2%であった.この値は,検定後の斑点米率と比べると「密陽44号」で10%以下,「あいちのかおりSBL」で4%以下である.さらに検定では斑点米カメムシの加害を受けた可能性のある不稔籾や子房の発達が著しく遅い籾を切除してから供しているため,実際の供試株の斑点米率はさらに低くなっていると考えられる.このため,検定に供した時点での斑点米率は,検定結果を考察する上で考慮しないこととした.
以降,検定結果をカメムシの種別に考察する.クモヘリカメムシに対し出穂20日後の株を供試した場合,「密陽44号」は斑点米数においても斑点米率においても「あいちのかおりSBL」より有意に低く(表4)安定した抵抗性を示した.一方,出穂10日後の株を供試した場合は,2012年は抵抗性を示したものの,2013年は抵抗性が認められず(表4)抵抗性が不安定であった.出穂20日後の着粒部位区分別の調査では,籾硬度が顕著に低く,登熟が特に遅れていた二次枝梗の最上位以外の籾(区分④,⑦)が集中加害を受けた(表4).これらのことから,「密陽44号」の抵抗性機構は登熟に伴い発達し,登熟初期段階では抵抗性程度が低いと考えられる.竹内ら(2004b)はクモヘリカメムシの加害性と籾の登熟段階の関係について,総加害籾数が出穂後7日から14日の間に減少することを示し,玄米が縦伸長途中から幅伸長途中の籾を主に加害するとしている.同様に,古家・清田(1993)も黄熟期の吸汁籾率は低く,乳熟期前後の籾を選好することを報告している.このようにクモヘリカメムシは本来,吸汁しやすい乳熟期前後の籾を選好し,登熟のすすんだ籾をあまり吸汁しない特性を有している.このため,「密陽44号」の登熟に伴う抵抗性は「あいちのかおりSBL」のそれと異なるのか検討するため,籾硬度と斑点米率の関係をみた.その結果,「密陽44号」はある程度籾硬度が高くなると「あいちのかおりSBL」と同程度の籾硬度であっても「あいちのかおりSBL」よりも斑点米率が低く(図2)なり,一次回帰式の傾きが大きくなった.このため,「密陽44号」は「あいちのかおりSBL」とは異なる登熟に伴う抵抗性機構を有すると考えられる.一方,「密陽44号」は「あいちのかおりSBL」よりも籾硬度が早く高くなる傾向がみられ(表6),登熟が「あいちのかおりSBL」よりも早くすすむことが示唆された.この特性は比較的早い登熟段階を選好するクモヘリカメムシに対して,加害されやすい期間が短く,斑点米率の低減に有利に働くと考えられる.ただし,前述のように「あいちのかおりSBL」と同程度の籾硬度であっても「あいちのかおりSBL」よりも斑点米率が低くなる関係がみられたことから,抵抗性機構は登熟が早いこと以外にもあると考えられる.一方,抵抗性機構をクモヘリカメムシの選好性から検討すると,集団検定におけるクモヘリカメムシの寄生虫数が「あいちのかおりSBL」よりも少ない傾向を示した(表4)ことから,クモヘリカメムシに対して非選好性を伴うと考えられる.以上のことをもとに先述の籾硬度と斑点米率の関係をみると,「密陽44号」は登熟とともに抵抗性機構が発達し,クモヘリカメムシの選好性が急激に低下するのに対し,「あいちのかおりSBL」は登熟に伴う選好性の低下が緩やかであるため,相対的な選好性の差異が登熟とともに大きくなり,それが斑点米率の差となってあらわれたと考えることができる.このように「密陽44号」の抵抗性機構は,登熟とともに非選好性を伴い発現すると考えられるが,抵抗性を発揮する登熟段階に見当をつけることは育種利用の上で重要である.そこで抵抗性にばらつきがみられた出穂10日後の検定結果を気象条件とともに検討する.出穂10日後の検定では2012年は抵抗性を示したものの,2013年は抵抗性が認められなかった.2012年の出穂後15日間(出穂からカメムシの吸汁処理が終了するまでの間)の気象は,平均気温が22.8℃(対平年値+1.1℃),平均日照時間が4.7時間/日(対平年値±0時間)であり,平年よりやや気温が高く,日照時間は平年並みであった.一方,2013年は出穂後15日間のうち12日間で降雨があり,その間の平均気温は22.2℃(対平年値±0℃,対2012年値–0.6℃)と2012年よりわずかに低く,平均日照時間も3.5時間/日(対平年値–1.5時間,対2012年値–1.2時間)で2012年の75%と少なかった.このため籾の登熟は2012年よりも遅いと考えられ,実際に出穂15日後の籾硬度は2012年に比べ50%程度と低かった(表6).これらのことから,出穂10日後は抵抗性が登熟条件に左右される段階であり,2013年は気象の影響によって登熟が遅れ,抵抗性を発揮するに至らなかったと考えられる.
ホソハリカメムシはクモヘリカメムシよりも寄主植物の範囲が広く,籾の加害時期についても,玄米の縦伸長途中から厚さ伸長途中まで幅広い登熟段階の籾を加害する(竹内ら 2004b).古家・清田(1993)もホソハリカメムシ幼虫の吸汁籾率はクモヘリカメムシよりもやや成熟した糊熟期および糊熟期後期の籾で高いことを報告している.「密陽44号」はこのようにある程度登熟した籾に加害性を示すホソハリカメムシに対しても,出穂20日後の穂を供試した場合,斑点米数と斑点米率はともに「あいちのかおりSBL」対比で30%と低く,抵抗性が認められた(表5).しかし,出穂10日後の穂を供試した場合は「あいちのかおりSBL」と同程度の加害を受け(表5),クモヘリカメムシ同様にある程度登熟がすすまないと抵抗性が発揮されないと考えられた.一方,籾硬度と斑点米率の関係では,有意な負の相関を示したが,クモヘリカメムシと異なり硬度の低い籾が集中加害されることがなく,いずれの籾硬度においても「あいちのかおりSBL」より斑点米率が低くなる関係を示した.これは,「密陽44号」の抵抗性は登熟程度に依存するものの,先述のようにホソハリカメムシが幅広い登熟段階の籾を吸汁する,あるいはやや成熟した籾を好んで吸汁する特性を持つため,登熟の遅い着粒部位の籾を集中加害しないかあるいは避けたことが影響した可能性が考えられる.寄生虫数は「あいちのかおりSBL」と有意差がなく,クモヘリカメムシのような非選好性はみられなかった.このことから,ホソハリカメムシに対しては非選好性によらない抵抗性機構を持つと考えられる.
3. 圃場栽培での斑点米率低減効果発生したカメムシの優占種は2012年がホソハリカメムシ,2013年,2015年がクモヘリカメムシであった.「密陽44号」はいずれの試験年においても斑点米率が「あいちのかおりSBL」対比で18~47%と低く,加害特性の異なる両カメムシ種に対して圃場栽培でも抵抗性を示すことが確認された.斑点米率低減要因を優占種が異なる試験年別に検討する.クモヘリカメムシが優占種であった2013年,2015年は本種の発生数が「密陽44号」で「あいちのかおりSBL」の13%以下と顕著に少なく,斑点米カメムシ全体の発生数も「あいちのかおりSBL」の30%以下と少なかった.このため,クモヘリカメムシの発生数の少なさが斑点米率の低減要因となっていると考えられる.斑点米の加害痕の位置をみても,「あいちのかおりSBL」は両年ともクモヘリカメムシの特徴的な加害部位である鉤合部縦稜線が最も高く,加害の中心はクモヘリカメムシであったと考えられ,本種の発生の少なかったことが「密陽44号」の斑点米率の低減要因であることを裏付けている.「密陽44号」に対してクモヘリカメムシが非選好性を示すことは集団検定でもみられているが,圃場での小規模栽培においても同様の傾向が示された.クモヘリカメムシは寄主植物がイネ科への依存度が高い種であり,鉤合部を選択して加害する.この寄主植物と加害部位の選択性の高さが「密陽44号」に対する非選択性に影響していると考えられる.
一方,2012年はホソハリカメムシが優占種であった.斑点米の加害痕の位置をみても両品種ともその他が最も多く,ホソハリカメムシが加害の中心であったと考えられる.「密陽44号」の斑点米カメムシの発生数は「あいちのかおりSBL」の92%であり大きく異なっておらず,ホソハリカメムシの発生数は「あいちのかおりSBL」よりもむしろ多かった.それにもかかわらず「密陽44号」の斑点米率は「あいちのかおりSBL」より低減している.同様の傾向は集団検定でもみられており,「密陽44号」がホソハリカメムシに対して非選好性によらない抵抗性機構を有していることが圃場栽培においても示唆されたと考えられる.ホソハリカメムシは寄主植物の幅が広く,加害部位を選択しない特性を持つ.この特性が抵抗性機構を持つ「密陽44号」に対しても非選好性を示さないことに関連していると考えられる.
本試験は試験区が9.3 m2であり,カメムシの試験区間の移動が容易であることから,今後さらに大区画での栽培試験を行い,クモヘリカメムシのように選好性の高いカメムシ種が他品種に容易に移動できない条件下での抵抗性程度も検証する必要がある.
4. 抵抗性発現機構「密陽44号」の抵抗性機構を解明することは,育種利用において非常に重要である.本研究では加害様式の異なるクモヘリカメムシとホソハリカメムシに対し,出穂後日数の異なる「密陽44号」および比較品種を集団検定に供することで,抵抗性機構の解明に必要な籾の登熟程度と抵抗性発現の関係や,非選好性の有無について調査するとともに,野外圃場で栽培試験を行い,抵抗性の有効性を検証した.その結果,①抵抗性は籾の吸汁部位を選択しない無差別加害型(川村 1993,竹内ら 2004a)に属するホソハリカメムシに対しても,鉤合部加害型(川村 1993,古家・清田 1993,竹内ら 2004a)に属するクモヘリカメムシに対しても機能すること,②籾の登熟が「あいちのかおりSBL」よりも早くすすみ,これが乳熟期前後の比較的早い登熟段階を選好するカメムシ種に対して加害軽減に有利に働く可能性のあること,③抵抗性は籾の登熟に伴って発達し,ある程度登熟がすすんだ段階から安定すること.抵抗性機構は籾の登熟が早いだけでなくそれ以外にもあること,④抵抗性機構は選好性の高いクモヘリカメムシに対して非選好性として働くこと,⑤クモヘリカメムシ,ホソハリカメムシがそれぞれ優占して発生する野外圃場においても抵抗性を示すことが示唆された.
本研究で用いた集団検定法や小規模な圃場栽培は,カメムシの他品種への移動が容易である.このため,本研究で明らかにした抵抗性に関する特徴は非選好性の影響を含んだものであり,非選好性を示したクモヘリカメムシの移動を制限した場合の抵抗性程度は検討できていない.しかし,この点においては杉浦(2017)が「密陽44号」の穂にテトロンゴース製の袋をかけ,中にクモヘリカメムシを放飼する品種別検定法による抵抗性検定試験を行い,比較品種に対し斑点米率が低減することを確認していることから,「密陽44号」は クモヘリカメムシに対して非選好性が機能しない場合においても十分な抵抗性をもたらす抵抗性機構があると考えられる.ホソハリカメムシに対しては本研究において非選好性を示さなかったため,非選好性以外の抵抗性機構のあることが示唆されている.本研究ではこの機構を明らかにできなかったが,斑点米自体は比較品種より少ないものの発生することや,杉浦(2017)が上述の品種別検定においてクモヘリカメムシの死亡がほとんどなかったことを報告していることから,一部のツマグロヨコバイ抵抗性品種のように吸汁を高度に抑制し,死亡率を高める(岸野・安藤 1978,安井 2007)ほどの抗生作用を有しているとは考えにくい.このため,抵抗性機構は吸汁のしにくさをもたらすものであり,それが登熟とともに発達すると考えられる.この抵抗性機構が加害部位の異なるクモヘリカメムシとホソハリカメムシに共通するものか,あるいは別々の機構であるのかも今後明らかにする必要がある.籾殻は籾を保護する役割があり,珪酸の蓄積(徐・太田 1982)やリグニンの形成(徐・太田 1983)を通して登熟に伴い強度が増すため,本抵抗性の特徴を考えると抵抗性機構を解明するに当たり最初に検討すべきで器官である.今後は籾殻の構造や成分と抵抗性機構の関連を検討したい.
本研究の遂行に当たり,愛知県農業総合試験場山間農業研究所稲作研究室の奥田強氏をはじめスタッフ各位には多大なご協力を頂いた.ここに深く感謝いたします.