育種学研究
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原著論文
スターチシンターゼIIIa(ssIIIa)遺伝子型および穀粒硬度がオオムギのβ-グルカン含有率および穀粒形質に及ぼす影響
青木 秀之関 昌子中田 克中野 友貴長嶺 敬
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2021 年 23 巻 1 号 p. 8-15

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摘 要

オオムギの水溶性食物繊維β-グルカンが示す食後血糖値の上昇抑制などの健康機能性が注目されており,高β-グルカン品種の育成が求められている.本研究では,β-グルカン含有率の高いオオムギの育種において,簡易的な選抜技術の開発を目標として,これまでβ-グルカン含有率への強い関連性が示されている高アミロース性遺伝子amo1の極近傍にあるstarch synthase IIIa(ssIIIa)の遺伝子型とβ-グルカン含有率および穀粒形質との関係を解析した.解析には2組合せの交配に由来する後代系統群を用いた.「北陸皮54号」(後の「ゆきはな六条」)とamo1を有するもち性系統「四R系3755」との交配に由来するもち性の94の後代系統(F4–F5),「四R系3755」ともち性系統「はねうまもち」の交配に由来する165の後代系統(F4–F5)について,ssIIIa遺伝子型を識別するdCAPSマーカーで遺伝子型を判別し,β-グルカン含有率,SKCS穀粒硬度,硝子率,千粒重および空洞粒率を測定した.その結果,両組合せともssIIIa遺伝子型によってβ-グルカン含有率,SKCS穀粒硬度および硝子率に統計的有意差が認められ,「北陸皮54号」×「四R系3755」および「四R系3755」×「はねうまもち」の交配後代共に「四R系3755型」では「野生型」に比べ,β-グルカン含有率は約1.6倍多く,SKCS穀粒硬度は約23ポイント高く,硝子率は約7%高くなった.また,β-グルカン含有率はSKCS穀粒硬度と0.75から0.84の高い相関を示し,高β-グルカン化によって穀粒が硬くなる傾向が明らかとなった.これらのことから,amo1系統を母本とした高β-グルカン化を育種目標とする育種計画においては,ssIIIa遺伝子型やSKCS穀粒硬度を指標とした選抜が有効であると考えられた.

Abstract

Breeding barley with a high content of dietary fiber, namely β-glucan, is required because β-glucan is attracting attention for its health functionalities such as suppression of postprandial blood glucose elevation. We analyzed the relationship between the β-glucan content and the starch synthase IIIa (ssIIIa) marker type, which is located near the region affecting the high amylose content amo1 mutation. The ssIIIa marker types were detected, and the β-glucan content, SKCS grain hardness, steely grain rate, thousand-grain weight, and hollow grain rate were measured for each of the 94 waxy lines (F5) derived from a cross between ‘Hokuriku 54’ (later ‘Yukihanarokujo’) and the amo1 waxy variety ‘YonRkei3755’, and for each of the 165 waxy lines (F5) derived from a cross between ‘YonRkei3755’ and the waxy variety ‘Haneumamochi’. As a result, there were significant differences in the β-glucan content, SKCS grain hardness, and steely grain rate depending on the ssIIIa marker type in each post-interbreeding line. The β-glucan content was about 1.6 times higher, the SKCS grain hardness was 23 points higher, and the steely grain rate was 7% higher in the ‘YonRkei3755’ ssIIIa type than that of the wild type. The β-glucan content was highly correlated with the SKCS grain hardness of r = 0.75 to 0.84 in the breeding line derived from both crosses. These results suggest that selection based on the ssIIIa marker type and/or the SKCS grain hardness are effective in breeding amo1 varieties with a high content of β-glucan.

緒言

(1-3,1-4)-β-D-グルカン(β-グルカン)はオオムギの胚乳中に細胞壁多糖として多く含まれる水溶性食物繊維であり,ヒトによる摂取試験により,肥満度を示すBMI(ボディマス指数),内臓脂肪面積および腹囲周囲径の減少やコレステロールの低下などの健康機能性が報告されている(Shimizu et al. 2008, Aoe et al. 2017).このため,もち性オオムギを始めとするβ-グルカンを多く含むオオムギの需要が国内で急速に拡大し,高β-グルカンオオムギ品種の早期普及が求められている(柳澤 2016長嶺ら 2018).

オオムギデンプンの分子構造を変化させる遺伝的変異としてamo1遺伝子の変異(以下,amo1変異)およびもち性遺伝子の変異(以下,もち性変異)などが知られている.amo1変異はアメリカのオオムギ品種「Glacier」の高アミロース性変異体「Glacier (Ac38)」から発見され,デンプン含有率の低下およびアミロース含有率の増加(Banks et al. 1971, Matsuki et al. 2008),アミロペクチン側鎖の長鎖化(Matsuki et al. 2008)をもたらすとともに,β-グルカン含有率を高める効果があることが知られている(Li et al. 2011吉岡ら 2018).また,amo1の極近傍にあるssIIIa遺伝子の変異がamo1変異に強く連鎖すると報告されている(Li et al. 2011).なお,オオムギのもち性変異は顆粒結合性澱粉合成酵素I(waxy)遺伝子の変異により発生し(Rohde et al. 1988青木ら 20172019a),アミロース含有率を大きく低下させ,炊飯麦の粘りと柔らかさを与えるとともに,β-グルカン含有率を約1.4倍程度増加させることが知られており,既にオオムギの高β-グルカン化育種に活用されている(Ullrich et ‍al. 1986Matsuki et al. 2008塔野岡 2010a柳澤 2018).

本研究ではamo1変異の利用による効率的なオオムギの高β-グルカン化育種法の開発を目的として,amo1遺伝子を持つ「Glacier (Ac38)」と「四国裸84号」の突然変異系統でアミロースフリー遺伝子waxbを持つ「四国裸97号」(Ishikawa et al. 1995)を系譜上の祖先に持つ「四R系3755」を交配母本とする2組合せの交配に由来する後代系統群(「北陸皮54号」×「四R系3755」のもち性の後代系統および「四R系3755」×「はねうまもち」の後代系統)を用いて,ssIIIa遺伝子型とβ-グルカン含有率,SKCS穀粒硬度,硝子率,千粒重および空洞粒率などの穀粒形質との関係を解析した.

材料および方法

1. 供試材料およびDNAサンプルの調製

供試品種・系統にはもち性・amo1変異系統「四R系3755」,うるち性・野生型系統「北陸皮54号(後の「ゆきはな六条」)」(長嶺ら 2020),もち性・野生型品種「はねうまもち」(青木ら 2017関ら 2018),β-グルカン含有率を始めとするオオムギ穀粒形質測定系統として「北陸皮54号」×「四R系3755」のもち性のF4 94系統,「四R系3755」×「はねうまもち」のもち性のF4 165系統を用いた.「北陸皮54号」×「四R系3755」は育種目標としてもち性系統を選抜して解析することとしたため,供試材料にはもち性系統のみを用いた.播種様式は2018年9月27日に75 cm畦幅,畦に対して垂直方向の35 cm試験区長に各系統15粒を条播,試験区間隔は30 cmとした.施肥量は,窒素成分で基肥が6 gm−2,越冬後追肥が3 gm−2とした.サンプリングした各系統の葉にDNA抽出液(100 mM Tris-HCl (pH 8.0), 50 mM EDTA, 500 mM NaCl, 1.25% SDS),直径3 mmタングステンビーズ(QIAGEN)を加えてミキサーミルMM300(Retsch)で30回/秒,2分の条件で破砕処理し,65℃ 15分の熱処理を行った後に2-プロパノール沈殿を行ってDNAを調製した.また,収穫したそれぞれの系統の種子(F5)をβ-グルカン含有率などの穀粒形質の測定に用いた.

2. dCAPSマーカーによるssIIIa変異の判別

Liら(2011)amo1系統「high amylose Glacier(HAG)」ではssIIIa遺伝子(GenBank no: JN256947)の8601番目の塩基がTからGへの1塩基置換が生じていることを報告している.そこでこのssIIIa変異を検出するdCAPSマーカー「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」を作成した.amo1変異型のssIIIaの塩基配列は「HAG」の遺伝子を,野生型のssIIIaの塩基配列は野生型「Glacier」の遺伝子(GenBank no: JN256946)を参照した.dCAPSマーカー用プライマーの設計にはdCAPS Finder 2.0(http://helix.wustl.edu/dcaps/dcaps.html)を用いた(Neff et al. 2002).ミスマッチ数の設定は2とした.「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカーのプライマー配列はdCAPS-SSIIIa-ApaLI-F : 5'-G‍CATGGCAACAAGTTGTGTTAAGCCACAGGGTTCGAAGATTGAAGGTGCA-3', dCAPS-SSIIIa-ApaLI-R : 5'-GCCGATGCTCTTCATGGTGTTTACCATGGT-3'とした.PCR反応組成は5 × OneTaq Standard Reaction Buffer(NEB)3.0 μl,2.5 mM dNTP(NEB)1.5 μl,2 μM 5'-,3'-プライマー各3.75 μl,DNA抽出液2.9 μl,Hot Start Taq DNA Polymerase(NEB)0.1 μlとした.PCR装置はTaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(タカラバイオ)を使用し,反応条件は94℃ 3分1回-(94℃ 30秒-62℃ 30秒-68℃ 30秒)45回-68℃ 3分1回-4℃とした.PCR反応後にPCR反応液15.0 μl,10 × CutSmart Buffer(NEB)2.0 μl,H2O 2.7 μl,ApaLI(NEB)0.3 μlを混合し,37℃で3時間反応させた.制限酵素処理後の電気泳動は3%アガロースゲル(Agarose Type I low EEO, Sigma-Aldrich)を用い,分子量マーカーに100 bp DNA Ladder(NEB)を,電気泳動装置にMupid-One(ミューピッド)を使用した.

3. オオムギ穀粒形質の測定

β-グルカン含有率は,0.5 mmスクリーンを装着した粉砕機Cyclotec 1093(Tecator)で粉砕したオオムギ原麦粉約125 mgを(1-3)(1-4) Beta-D-glucan assay kit(Magazyme)を用いて測定した(McCleary and Codd 1991).測定は1反復で行った.硝子率は硝子率判定器RN-840(ケット科学研究所)で測定した.空洞麦粒は目視で調査した.千粒重はオオムギ種子20 gの粒数測定を2反復することで求めた.SKCS穀粒硬度は100粒を穀粒品質分析機SKCS-4100(Perten)を用いて測定した.

結果

1. dCAPSマーカーによるssIIIa遺伝子型の判別

amo1品種「Glacier (Ac38)」を系譜上に有し,もち性でβ-グルカン含有率の高いはだか麦系統「四R系3755」について,「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカーの遺伝子型を調べた.その結果,amo1系統「HAG」と同様のssIIIa遺伝子型(200 bpのバンド)を示した(図1).一方,「北陸皮54号」および「はねうまもち」のssIIIa遺伝子型(250 bpのバンド)は野生型と同サイズであった.以前の報告で,ApaLI処理で300 bp,250 bpのバンドが現れるマーカーを用いて別の「北陸皮54号」×「四R系3755」のF2世代44系統のssIIIa遺伝子型を調査した結果,ssIIIaamo1品種型(250 bp),ヘテロ型(250 bpと300 bp),野生型(300 bp)は12:23:9とほぼ1:2:1に分離することが分かっている(青木ら 2019b).従って,本「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカーでも,250 bpと200 bpのバンドが現れた個体(図1 レーン4「北陸皮54号」×「四系3755」No. 6)はヘテロ型と判別することで,ssIIIaの遺伝子型を検出するマーカーとして用いることができると考えた.

図1.

「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカーの電気泳動図.

「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカーを反応させたときの電気泳動図.amo1ssIIIa遺伝子型を持つ個体は制限酵素ApaLI処理により250 + 50 bpのバンドに分離する.

M:100 bp DNA ladderマーカー,1:四R系3755,2:北陸皮54号,3:はねうまもち.4:「北陸皮54号」×「四R系3755」No. 6(ヘテロ系統).

2. 後代系統のssIIIa遺伝子型の判別および穀粒形質の測定

オオムギのamo1変異がβ-グルカン含有率に与える影響を調査するために,「北陸皮54号」×「四R系3755」のもち性のF4 94系統および「四R系3755」×「はねうまもち」のF4 165系統について,「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカーを用いてssIIIa遺伝子型を判別した.250 bpのバンドが検出されたものを「野生型」,200 bpのバンドが検出されたものを「四R系3755型」,両方のバンドが現れたものを「ヘテロ型」と判定した.「北陸皮54号」×「四R系3755」の94の後代系統のうち,「四R系3755型」は40系統,「野生型」は46系統,「ヘテロ型」は8系統であった.「四R系3755」×「はねうまもち」の165の後代系統のうち,「四R系3755型」は76系統,「野生型」は75系統,「ヘテロ型」は14系統であった.

「四R系3755」,「北陸皮54号」,「はねうまもち」および各交配後代についてβ-グルカン含有率,SKCS穀粒硬度,硝子率,千粒重および空洞粒率を測定した(表1).「四R系3755」,「北陸皮54号」および「はねうまもち」のβ-グルカン含有率はそれぞれ6.7%,5.1%および6.3%,SKCS穀粒硬度はそれぞれ107.4,59.8および75.8,硝子率はそれぞれ2.8%,23.4%および4.8%,千粒重はそれぞれ26.3 g,39.0 gおよび35.7 g,空洞粒率はそれぞれ1.1%,6.5%および5.4%であった.「北陸皮54号」×「四R系3755」の94の後代系統のβ-グルカン含有率は最大12.4%,最小4.3%,平均7.2%,SKCS穀粒硬度は最大120.6,最小68.7,平均94.7,硝子率は最大43.8%,最小0.5%,平均14.2%,千粒重は最大34.0 g,最小19.9 g,平均26.0 g,空洞粒率は最大9.6%,最小0.0%,平均1.1%,であった.「四R系3755」×「はねうまもち」の165の後代系統のβ-グルカン含有率は最大17.9%,最小3.8%,平均7.0%,SKCS穀粒硬度は最大130.4,最小63.2,平均95.7,硝子率は最大55.9%,最小0.0%,平均15.5%,千粒重は最大32.1 g,最小18.2 g,平均24.6 g,空洞粒率は最大3.0%,最小0.0%,平均0.2%であった.

表1. 「北陸皮54号」×「四R系3755」および「四R系3755」×「はねうまもち」の交配に由来する後代系統のssIIIa遺伝子型および穀粒形質  統計的検定は両側t検定を用いた.**, *は野生型に対してそれぞれ1%,5%水準で有意である.
「北陸皮54号」×「四R系3755」の後代系統(N = 94)
β-グルカン含有率(%) SKCS穀粒硬度 硝子率(%) 千粒重(g) 空洞粒率(%)
野生型(N = 46) 最大 7.2 99.8 30.5 34.0 9.5
最小 4.3 68.7 0.5 20.3 0.0
平均 5.4 84.3 10.2 26.8 1.2
ヘテロ型(N = 8) 最大 9.1 106.5 34.9 31.7 3.2
最小 5.6 80.5 1.6 23.8 0.0
平均 7.1** 96.1** 16.7 27.1 1.1
四R系3755型(N = 40) 最大 12.4 120.6 43.8 29.7 9.6
最小 4.9 87.7 2.6 19.9 0.0
平均 9.4** 107.5** 18.6** 24.7** 0.9
「四R系3755」×「はねうまもち」の後代系統(N = 165)
β-グルカン含有率 SKCS穀粒硬度 硝子率 千粒重 空洞粒率
野生型(N = 75) 最大 17.9 104.7 48.1 31.6 3.0
最小 3.8 63.2 0.0 18.5 0.0
平均 5.5 84.6 12.4 25.1 0.4
ヘテロ型(N = 14) 最大 8.6 104.7 23.7 28.3 1.1
最小 5.4 90.4 8.1 18.2 0.0
平均 6.7** 96.2** 14.2 23.8 0.3
四R系3755型(N = 76) 最大 15.1 130.4 55.9 32.1 2.1
最小 4.3 76.1 0.0 18.9 0.0
平均 8.6** 107.3** 19.0** 24.2* 0.1*

3. ssIIIa遺伝子型がβ-グルカン含有率などの穀粒品質関連形質に与える影響

「北陸皮54号」×「四R系3755」の94の後代系統および「四R系3755」×「はねうまもち」の165の後代系統に対してssIIIa遺伝子型ごとのβ-グルカン含有率,SKCS穀粒硬度,硝子率,千粒重および空洞粒率を表1,図2に示した.「北陸皮54号」×「四R系3755」の後代系統の平均β-グルカン含有率は「四R系3755型」が9.4%と最も高く,「野生型」(5.4%)とは1%水準での有意差があった(表1,図2A).なお,今回の供試材料では皮裸性も分離するため,皮性(49系統)および裸性(45系統)ごとに解析したが,いずれのグループでも「四R系3755型」が「野生型」よりも平均β-グルカン含有率は高く,1%水準での有意差があった.

図2.

ssIIIa遺伝子型がβ-グルカン含有率などの穀粒品質関連形質に与える影響.

「北陸皮54号」×「四R系3755」(A–E)および「四R系3755」×「はねうまもち」(F–J)におけるssIIIa遺伝子型がβ-グルカン含有率(A, F),SKCS穀粒硬度(B, G),硝子率(C, H),千粒重(D, I)および空洞粒率(E, J)に与える影響.Nは品種・系統数.統計的検定は両側t検定を用いた.**, *は野生型に対してそれぞれ1%,5%水準で有意である.

平均SKCS穀粒硬度,硝子率についても,「四R系3755型」が「野生型」に比べて有意に高かった(表1,図2B, C).平均SKCS穀粒硬度は「四R系3755型」(107.5)が「野生型」(84.3)よりも23.2ポイント高く,皮性・裸性のグループ別解析でも同様の傾向が明らかであった.また,硝子率は「四R系3755型」(18.6%)が「野生型」(10.2%)よりも有意に高く,皮性・裸性のグループ別解析でも同様であった.なお,平均千粒重については「四R系3755型」(24.7 g)が「野生型」(26.8 g)よりも有意に小さく,皮性・裸性のグループにおいても「四R系3755型」が「野生型」よりも0.9 g(皮性)もしくは2.6 g(裸性)小さかったが,有意差が認められたのは裸性グループに限られた(表1,図2D).空洞粒率についてはssIIIa遺伝子型による1%水準での有意差は見られなかった(表1,図2E).

一方,「四R系3755」×「はねうまもち」の後代系統でも平均β-グルカン含有率は「四R系3755型」(8.6%),「ヘテロ型」(6.7%),「野生型」(5.5%)の順に高かった(表1,図2F).SKCS穀粒硬度,硝子率についても,先述の「北陸皮54号」×「四R系3755」のとほぼ同様の結果が得られた(表1,図2G, H).すなわち,平均SKCS穀粒硬度は「四R系3755型」(107.3)が「野生型」(84.6)よりも約23ポイント高く,硝子率は約7%高かった(「四R系3755型」:19.0%,「野生型」:12.4%).また,千粒重については皮性・裸性の両グループにおいて平均値は0.7~1.0 g程度小さい傾向があったものの,統計的に有意とはならなかった(表1,図2I).なお空洞粒率については「四R系3755型」(0.1%)が「野生型」(0.4%)よりも低かった(表1,図2J).

4. SKCS穀粒硬度とβ-グルカン含有率との関係

供試した「北陸皮54号」×「四R系3755」および「四R系3755」×「はねうまもち」の後代の中から穀粒品質関連形質が測定できた89系統および155系統の形質間相関係数を表2に示した.SKCS穀粒硬度はいずれもβ-グルカン含有率,硝子率および千粒重と有意の相関を示した.特に,SKCS穀粒硬度とβ-グルカン含有率は高い相関が見られ,「北陸皮54号」×「四R系3755」の後代ではr = 0.84**,「四R系3755」×「はねうまもち」の後代ではr = 0.75**であった(表2,図3).ssIIIa遺伝子型によって,SKCS穀粒硬度およびβ-グルカン含有率は差異が見られ,「北陸皮54号」×「四R系3755」の後代では「四R系3755型」の36系統中30系統(83%),「四R系3755」×「はねうまもち」の後代では「四R系3755型」の70系統中56系統(80%)がSKCS穀粒硬度100以上であった.「四R系3755型」のうち,βグルカン含有率6%以下はどちらもわずか2系統であった.

表2. オオムギ穀粒形質の分布と相関係数  相関係数はPEARSON関数によって求めた.**, *は相関係数がそれぞれ1%,5%水準で有意(両側)であることを示す.
「北陸皮54号」×「四R系3755」の後代系統(N = 89)
SKCS穀粒硬度 β-グルカン含有率 硝子率 千粒重 空洞粒率
SKCS穀粒硬度 1.00
β-グルカン含有率 0.84** 1.00
硝子率 0.44** 0.25* 1.00
千粒重 −0.51** −0.30** 0.03 1.00
空洞粒率 −0.19 −0.17 0.01 0.33** 1.00
「四R系3755」×「はねうまもち」の後代系統(N = 155)
SKCS穀粒硬度 β-グルカン含有率 硝子率 千粒重 空洞粒率
SKCS穀粒硬度 1.00
β-グルカン含有率 0.75** 1.00
硝子率 0.46** 0.11 1.00
千粒重 −0.34** −0.08 −0.10 1.00
空洞粒率 −0.12 −0.05 −0.14 0.05 1.00
図3.

SKCS穀粒硬度とβ-グルカン含有率の関係.

「北陸皮54号」×「四R系3755」(A)および「四R系3755」×「はねうまもち」(B)におけるSKCS穀粒硬度とβ-グルカン含有率の関係を散布図で示す.rはPEARSON関数によって求めた相関係数.

ssIIIa遺伝子型:●四R系3755型,△ヘテロ型,□野生型

交配母本:〇北陸皮54号,はねうまもち ◎四R系3755.

**は相関係数が1%水準で有意(両側)であることを示す.

考察

オオムギは健康機能性成分β-グルカンを多く含むことが消費者に注目されており,β-グルカン含有率がより高い品種の開発が求められている.高アミロース遺伝子amo1はβ-グルカン含有率も増加させる効果が報告されており,国内では高β-グルカンもち性はだか麦品種「フクミファイバー」の開発に用いられている(吉岡ら 2018).本研究では,amo1遺伝子に強連鎖するssIIIa遺伝子型を判別する「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカーを開発した.既知のマーカーでは「Himalaya」のsex6突然変異である「Himalaya292」と,「Glacier」のamo1変異系統である「HAG」の判別は可能であるが,「Glacier」と「HAG」の判別は不可能であった(Li et al. 2011).本研究の「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカーは,ssIIIa遺伝子8601番目のamo1変異特有のSNPを判別できるマーカーである.「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカーによる検出によって,amo1変異特有のSNPを検出することが可能になった.

「dCAPS-SSIIIa-ApaLI」マーカー,amo1を有するとされるもち性系統「四R系3755」を交配母本とする2組合せの後代系統群を用いて,遺伝子型とβ-グルカン含有率との相関を調べた結果,ssIIIa遺伝子型が「四R系3755型」である系統の平均β-グルカン含有率は「野生型」と比べて,3.1~4.0%(約1.6–1.7倍)高くなることを確認した(表1,図2A, F).β-グルカン含有率は皮裸に分類しても統計的有意差を伴う増加が観察されたことから,ssIIIa遺伝子型と強連鎖するamo1変異が影響していることが示唆された.また,食用オオムギの品種育種に重要なSKCS穀粒硬度,硝子率との関連を解析した結果,「四R系3755型」ではSKCS穀粒硬度が22.7~23.2ポイント(約1.3倍)程度高まり(表1,図2B, G),硝子率も6.6~8.4%(約1.5–1.8倍)高くなることが示された(表1,図2C, H).両形質はオオムギの精麦加工において特に重要な形質で,高硝子率化は精麦の白度や炊飯麦の食感への悪影響を及ぼす(久保田ら 1991).また,SKCS穀粒硬度が高い「硬い麦」では搗精時間が長くなり,精麦加工の効率を低下させると考えられる.本研究では,どちらの組合せでもssIIIa遺伝子型が「四R系3755型」である後代系統群は,親系統の「四R系3755」よりも平均β-グルカン含有率および硝子率が増加した(図2).この理由として「四R系3755」は温暖地向けの系統であり,北陸の寒冷な気候が生育に悪影響を与えたため,β-グルカン含有率および硝子率が低下した可能性が考えられる.

amo1と同様に,1.5~2.0%程度の高β-グルカン化の効果が知られる遺伝子にもち性遺伝子waxyがある(Ullrich et al. 1986Matsuki et al. 2008塔野岡 2010a柳澤 2018).本研究ではもち性個体でのssIIIa遺伝子型によるβ-グルカン含有率上昇効果(約1.6–1.7倍)を検証したが,これまでの知見ではうるち性個体のssIIIa遺伝子型効果は約1.3倍であった(Li et al. 2011).β-グルカンとデンプンの合成基質は共にグルコースであるため,amo1waxyの変異によってデンプン合成が減少して余剰のグルコースがβ-グルカンの合成経路に転流され,補償的にβ-グルカン含有率が増加する可能性が指摘されている(塔野岡ら 2010b2018).従って,amo1waxyの両変異により単独変異時よりもデンプン合成がさらに減少したことで,もち性個体ではssIIIa遺伝子型によるβ-グルカン含有率上昇効果がより大きかったと推測される.

waxyの場合,高硝子率化するamo1とは異なり胚乳の白濁化によって硝子率は大きく低下し品質面で大きなメリットがある.amo1waxyなど高β-グルカン化の効果を有する遺伝子は,それぞれが精麦品質に関する多面効果に違いがあると考えられた.amo1の高硝子率化の悪影響をwaxyによる胚乳白濁化によって抑制した「フクミファイバー」は両遺伝子の効果をうまく組合せた成功事例と言える.今後の食用オオムギ育種においてもamo1waxyを合わせて用いることが効果的と考えられる.

これまでの研究によって,二条オオムギのSKCS穀粒硬度とβ-グルカン含有率の間に高い正の相関関係があることが報告されている(竹内ら 2007沖山ら 2008).六条オオムギの「北陸皮54号」×「四R系3755」および「四R系3755」×「はねうまもち」の後代系統を用いた今回の結果でも同様の傾向が確認された(それぞれr = 0.84**,0.75**)(表2,図3).さらに.今回の研究ではssIIIa遺伝子型に明確なSKCS穀粒硬度の差異が見られたことから,amo1系統を交配母本とした組合せにおいて,SKCS穀粒硬度を指標とした高β-グルカンオオムギを効率的に選抜できる可能性も示唆された.

謝辞

本研究の一部は農林水産省「スマート育種プロ」の課題「育種ビッグデータの整備および情報解析技術を活用した高度育種システムの開発」のうち,「実需者ニーズに迅速に対応するための麦類加工適性ビッグデータ活用技術の開発(BAC2003)」によって実施された.ここに記して謝意を表する.

引用文献
 
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