育種学研究
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原著論文
ネギの分げつ数に関する形質間相関分析ならびに片側ダイアレル分析
小笠原 慧田中 紀史新倉 聡
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電子付録

2023 年 25 巻 1 号 p. 1-8

詳細
摘 要

根深ネギの晩抽性遺伝資源,晩ネギの分げつ性に関する遺伝解析のため,はじめに14品種・系統を用いて分げつ数と諸形質の相関分析を行った.相関分析の結果より,‘分げつ数’は‘開花日’と有意な相関が見られず,分げつ性と晩抽性は独立して選抜できる可能性が示唆された.次に相関分析での‘分げつ数’の多少および‘開花日’の早晩について変異が大きくなるように6品種・系統を選定し,片側ダイアレル分析を実施した.解析集団は生育段階に応じて3回分げつ数を調査した.片側ダイアレル分散分析の結果,全調査回で相加効果を示すa項のF値がb項を大きく上回ったこと,平均優性度が1以下であったことから,分げつ数は相加効果が大きい不完全優性の形質であると推定された.また優性遺伝子の平均的作用方向は分げつ数の少ない方向と考えられた.3回の分げつ数調査およびダイアレル分析結果を比較すると,親系統の優性順序,親系統の優性および劣性遺伝子の有する割合が生育段階によって変動することが示され,親系統間で分げつを支配する遺伝子の種類や作用機構が異なると考えられた.さらに狭義の遺伝率がいずれの調査回でも0.78以上と高かったことから,晩ネギから一本性の晩抽系統を育成するには,初期世代での選抜が重要であることが示唆された.

Abstract

For the genetic analysis of tillering behavior in the late-bolting bunching onion ‘Okunegi’, a correlation analysis was performed at first between tiller number and various traits in ten bunching onion cultivars and four breeding lines. There were no significant correlations between the tiller number and bolting time, suggesting that it is possible to select independently for tillers and late bolting. Next, 6 × 6 half-diallel analysis was performed using five bunching onion cultivars and a single breeding line with various tiller numbers and bolting times picked up by the above correlation analysis. The tiller number was counted at three growth stages. The analysis of variance for tiller number in this half-diallel table showed that the additive variance of tiller number was much larger than the dominance variance and that its average degree of dominance was less than one at all stages. This suggests that the number of tillers was an incomplete dominant trait with a large additive effect, and that the dominant genes for tiller number act to increase tillers. In addition, the tiller number of the materials at three stages and their diallel analysis showed that the dominance order and the proportion of dominant and/or recessive genes in the parental lines varied as they grew, suggesting that the type and mechanism of the genes controlling tiller number are different among the parental lines. Furthermore, the high heritability in the narrow sense (>0.78 in each growth stage) and the results of the analysis of variance also suggested that selection in the early segregating generation is very important for the breeding of a monoculm late-bolting line from ‘Okunegi’.

緒言

ネギは日本の野菜生産における重要品目の1つであり,野菜の産出額ではトマト,イチゴに次ぐ第3位である(1545億円,農林水産省大臣官房統計部 2021).周年供給がされており,市場流通形態は土寄せにより軟白した葉鞘を利用する‘根深ネギ’(白ネギや長ネギ,ほとんど分げつしないものは一本ネギともいう),緑の葉身を食する‘葉ネギ’の2形態に分けられる.また国内で栽培されている品種は,千住群,加賀群,九条群の3つに大別される(熊沢 1965).これら品種群より出荷形態や栽培方法に合わせて品種が選択され,年間を通して市場に流通する(表1).

表1. ネギの品種群および作型1)
用途 作型 品種群・グループ 栽培 播種月 収穫月(播種後月数)
根深ネギ 春まき秋冬どり 千住群 露地 3~5 11~3(8~10か月)
春まき春どり 千住群 露地 5~6 3~5(10~11か月)
春まき春~初夏どり 晩ネギ 露地 4~5 4~5(12か月)
春まき春~初夏どり 坊主不知 露地 4~6(植え付け)2) 5~6(定植後12~13か月)
秋まき初夏どり 千住群 トンネル 10 5~6(7~8か月)
秋まき夏どり 千住群 露地 11~2 7~10(8か月)
葉ネギ 小ネギ 九条群・千住群 ハウス 周年 播種後2~4か月
中ネギ 九条群・千住群 露地・ハウス 周年 播種後4~8か月

1) 安藤(2014)松本(2014)末吉(2014)を元に作成.

2) 「坊主不知」は栄養繁殖性のため,植え付け時期で示した.

‘根深ネギ’は播種から収穫まで7~12か月ほど要し,栽培期間が長い(表1).加えて緑植物春化型であり,春季の抽苔のため4~6月出荷が端境期となる.耕種的な対応としては,冬期トンネル被覆の高温による脱春化現象を利用した‘秋まき初夏どり(トンネル栽培)’の作型が確立された(田畑ら 1992, 田畑・相星 1993, 常法・相星 1994, 白岩ら 2007).しかしこの‘秋まき初夏どり’のトンネル栽培は,資材費や被覆の労力負担が必要となり,依然として露地栽培での‘春まき春どり’による端境期出荷への要望がある.一方,品種的な対応としては,晩抽性の晩ネギや不抽苔性の坊主不知が用いられてきた(表1).しかし,これら品種はいずれも分げつ性である.根深ネギでの分げつ性は一本性と比較して,葉鞘が細く扁平になり等級落ちすること,収穫後の皮むき調整時に分げつした葉鞘を一本ずつ分割する手間を要すること,分げつした葉鞘間に泥が挟まることなど,品質面や作業性で大きく劣る(図1).根深ネギの営利出荷では収穫後,根と葉身上部を切断して草丈60 cm程度の規格サイズに調整し,泥の付いた外葉の皮むき調整作業を伴う.根深ネギ栽培の10 aあたりの全作業時間のうち約60%が皮むき調整作業であり(西畑 2014),ネギの栽培規模は皮むき調整作業能率によって制約されている(鵜沼・本庄 2010).分げつの発生によって調整作業の負担が増大することは,作付面積拡大の律速要因になると考えられる.しかし一本性とされる「金長」や,晩抽性「長悦」で分げつ発生が多発した事例がある(村井ら 1981, 白岩 2008).一方,晩抽性根深ネギ品種も近年育成されてきたが,その晩抽程度では‘春まき春どり(露地栽培)’作型の後進による端境期出荷が未だ困難である.そのため,晩抽性が強くかつ一本性の強い品種が求められている.

図1.

ネギの一本性個体と分げつ性個体比較.

a:一本性(左3個体)分げつ性(右3個体).

b:分げつ性個体の拡大写真.

c:一本性個体の葉鞘横断面(円形).

d:分げつ性個体の葉鞘横断面(扁平).

晩抽性の遺伝解析には,前述の晩抽品種「長悦」と早抽品種「北葱」を用いたQTL解析があり,晩抽性を支配するQTLが2個検出された報告がある(Wako et al. 2016).晩抽性の強化には晩ネギの有する晩抽性遺伝子との異同ならびにそれらの集積効果の確認が必要と考えられる.一方で,晩ネギは分げつ性も併せ持つ.根深ネギには一本性が必要なため,晩ネギの育種利用にはその分げつ性の遺伝分析も不可欠である.本研究では,晩ネギの有する分げつ性と晩抽性の遺伝的関係を明らかとするため,まず分げつ性ネギ14品種・系統の分げつ性と晩抽性を含む7形態形質・5生殖形質での相関分析を行った.続いて分げつ数についての遺伝解析のため,ダイアレル分析を実施した.ダイアレル分析は分離世代を用いた遺伝解析に比べて分離遺伝子座数が多いことが期待されること,F1という早い世代で結果が得られることなどを利点とする,量的形質の遺伝解析手法である(岩田 2005).相関分析の結果より分げつの多少と晩抽性の早晩に関して特徴的な6品種・系統を選定し,分げつ性に関する片側ダイアレル分析を行った結果について報告する.

材料および方法

1. 分げつ性と晩抽性を含む諸形質との相関分析

晩ネギ7品種,分げつ性の九条群6品種・系統,ならびにこれらと由来の異なる千住群1系統の計14品種・系統を供試した(表2,自社保有含めすべて放任受粉で維持している品種・系統).温室内の苗床にN:P2O5:K2Oを10 aあたり15.2 kg:9.6 kg:9.6 kgを施肥し,2018年3月29日に地床播種した.6月12日に栃木県宇都宮市内の砂壌土圃場に条間30 cm,株間15 cm,2条植えとし,各品種・系統を26個体定植した.7月5日に土寄せ,9月3日,9月28日,10月18日,11月9日に追肥と土寄せを行った.本圃施肥は基肥としてN:P2O5:K2Oを10 aあたり19 kg:12 kg:12 kgとし,追肥は1回につきN:K2Oを10 aあたり4 kg:4 kgとした.翌2019年1月29日に全個体収穫し,中庸な生育を示した5個体を用いて形態形質を調査した.調査項目は分げつ数,草丈,葉身長,葉鞘長,茎盤径,生重,葉色とした.さらにそれら個体を温室内に定植し,開花まで栽培を続けて生殖形質を調査した.調査項目は10小花花粉量,開花日,花球径,花球高,花茎長とした.

表2. 供試品種・系統
品種名 品種群 由来
汐止 晩ネギ 株式会社トーホク
晩生塩原 晩ネギ カネコ種苗株式会社
汐止晩生葱 晩ネギ トキタ種苗株式会社
吉川晩生太 晩ネギ トキタ種苗株式会社
東京晩生 晩ネギ 渡辺農事株式会社
元晴晩生晩葱 晩ネギ 株式会社武蔵野種苗園
吉晴 晩ネギ 株式会社武蔵野種苗園
九条太系 九条 トーホク保有系統
九条細系 九条 トーホク保有系統
越津 九条 トーホク保有系統
九条細 九条 株式会社トーホク
九条太 九条 株式会社トーホク
京太1) 九条 株式会社トーホク
千住系 千住 トーホク保有系統

1) 京都府九条地区で維持されていた九条群では珍しい一本性の強い品種(小笠原・木村 2020).

形質調査について,‘分げつ数’は外観から確認される葉鞘の数,‘草丈’は茎盤下部から最も長い葉の先端まで,‘葉身長’は最も長い葉の葉鞘分岐部から葉の先端まで,‘葉鞘長’は茎盤下部から最も長い葉の葉鞘分岐部まで,‘茎盤径’は茎盤部の最も太い部分,‘生重’は収穫後に土を落とした全体の重さ,‘葉色’は圃場にて達観で5段階評価した数値(5濃~1淡),‘花粉量’は開花直前の5個体から2小花ずつ採取し10小花分の葯の総花粉量を赤血球計算盤で計測した数値,‘開花日’は各個体の小花の開花初日,‘花球径’ならびに‘花球高’は小花の開花が進むにつれて大きくなるため,ほぼサイズが確定した開花終盤の花球の横幅と高さ,‘花茎長’は定植後の地際から開花終盤の花球の先端までとした(付図1,2,3).

形態形質,生殖形質とも5個体の平均値を各形質値とし,Pearsonの積率相関係数を計算して相関分析を行った.なお‘開花日’は播種後日数に変換した数値を使用した.

2. 分げつ性に関する片側ダイアレル分析

実験1の結果から選定した晩ネギ2品種,九条群3品種,千住群1系統の計6品種・系統を供試した(図2,名前を枠で囲った品種・系統).2019年4月に6品種・系統間の片側ダイアレル交配を行い,15組合せのF1種子を得た.育苗には200穴セルトレイにニッテン葱培土(N:680 mg/L,P2O5:1400 mg/L,K2O:200 mg/L)を充填後,1穴1粒まきとし,2020年3月27日に15組合せのF1ならびに親6品種・系統を播種した.6月4日に栃木県宇都宮市内の砂壌土圃場に条間30 cm,株間15 cm,2条植えとし,1条13個体を1反復として2反復定植した.その後の栽培管理は実験1の分げつ性と晩抽性を含む諸形質との相関分析と同様とした.‘分げつ数’調査は生育段階を通じて3回行い(7月30日,9月29日,12月17日の計3回),ボーダーならびに生育不良個体を除いた‘分げつ数’平均値を各反復の形質値とした.ダイアレル分析の計算にはDIAL98(鵜飼 1989)を用いた.

図2.

開花日と分げつ数におけるネギ14品種・系統の散布図.

□:ダイアレル分析に用いた6品種・系統.

点線:回帰直線r = −0.12n.s.

結果

1. 分げつ性と晩抽性を含む諸形質との相関分析

各品種・系統の形態形質ならびに生殖形質の調査結果を示した(表3).供試14品種・系統における‘分げつ数’は最少で「京太」の1.6本,最多で「九条細系」の32.0本であった.‘開花日’は最も早かった「千住系」で4月15日,最も遅かった「吉晴」で5月15日であった.

表3. 分げつネギの形態調査結果
品種名 分げつ数 草丈
(cm)
葉身長
(cm)
葉鞘長
(cm)
茎盤径
(mm)
生重
(g)
葉色1) 花粉量
(千個)
開花日 花球径
(cm)
花球高
(cm)
花茎長
(cm)
汐止 13.0 ± 1.3 73.4 ± 2.4 54.5 ± 2.3 23.3 ± 0.5 71.0 ± 4.2 456 ± 38 3 220 5月5日 4.2 ± 0.6 4.0 ± 0.5 73.8 ± 9.7
晩生塩原 11.6 ± 1.9 85.3 ± 3.7 55.5 ± 1.7 26.5 ± 1.9 76.9 ± 6.7 800 ± 127 1 158 5月2日 5.2 ± 0.7 5.1 ± 0.8 77.8 ± 6.6
汐止晩生葱 11.2 ± 1.2 56.4 ± 3.4 36.1 ± 3.0 19.3 ± 1.1 67.3 ± 3.4 356 ± 31 3 143 5月1日 4.8 ± 0.5 4.6 ± 0.5 68.6 ± 4.8
吉川晩生太 6.0 ± 0.3 57.9 ± 1.9 35.6 ± 2.2 22.0 ± 0.9 54.8 ± 2.9 316 ± 48 4 212 5月3日 4.3 ± 0.6 4.8 ± 0.6 66.6 ± 9.8
東京晩生 11.6 ± 1.3 56.8 ± 1.5 37.5 ± 1.5 20.7 ± 0.2 59.9 ± 3.2 360 ± 27 3 208 5月13日 2.8 ± 0.3 2.6 ± 0.5 63.4 ± 3.8
元晴晩生晩葱 6.4 ± 0.8 61.8 ± 2.2 39.2 ± 1.2 23.0 ± 1.4 57.1 ± 4.1 336 ± 43 4 268 4月30日 5.3 ± 0.8 5.3 ± 0.8 64.6 ± 7.2
吉晴 11.8 ± 2.2 68.8 ± 2.4 42.5 ± 2.1 25.8 ± 1.2 58.0 ± 3.2 542 ± 52 3 202 5月15日 5.4 ± 0.9 5.5 ± 1.0 69.0 ± 7.9
九条太系 13.8 ± 0.5 66.4 ± 1.6 44.7 ± 1.2 22.8 ± 0.9 58.7 ± 2.2 354 ± 27 5 262 4月22日 5.7 ± 0.6 5.5 ± 0.4 73.6 ± 7.2
九条細系 32.0 ± 4.1 72.4 ± 2.1 42.2 ± 1.9 24.8 ± 0.6 68.7 ± 5.5 600 ± 108 3 278 4月24日 2.9 ± 0.5 2.7 ± 0.5 61.4 ± 7.9
越津 10.6 ± 0.7 85.5 ± 6.4 51.7 ± 4.3 30.4 ± 2.1 58.4 ± 3.3 474 ± 52 4 337 4月20日 4.9 ± 0.9 4.9 ± 0.4 78.0 ± 5.3
九条細 24.8 ± 4.9 67.3 ± 3.4 37.8 ± 2.0 24.6 ± 1.0 64.2 ± 6.5 450 ± 111 3 212 4月20日 4.1 ± 0.6 4.1 ± 0.5 65.2 ± 5.0
九条太 8.4 ± 0.9 74.2 ± 3.6 48.2 ± 3.5 25.5 ± 0.7 61.0 ± 3.0 350 ± 35 4 265 4月29日 5.2 ± 0.5 5.2 ± 0.7 73.2 ± 9.6
京太 1.6 ± 0.2 88.6 ± 4.1 56.3 ± 2.8 31.0 ± 1.1 46.9 ± 1.6 246 ± 20 4 452 4月25日 6.2 ± 0.8 6.3 ± 0.6 76.0 ± 8.8
千住系 4.4 ± 0.4 72.3 ± 2.2 40.8 ± 0.9 29.0 ± 0.9 52.6 ± 3.0 440 ± 34 4 262 4月15日 7.4 ± 0.8 7.2 ± 0.8 79.0 ± 5.4

播種:2018/03/29 定植:2018/06/12 形態形質調査:2019/01/29 生殖形質調査:開花前後に適宜実施.

n = 5.

平均±標準誤差.

1) 葉色:濃5↔1淡(目視による).

‘分げつ数’と諸形質との相関分析の結果,‘茎盤径’と有意な正の相関,‘花球径’および‘花球高’と有意な負の相関が認められた(表4).一方,‘開花日’には‘分げつ数’や採種形質として重要な‘花粉量’および‘花茎長’を含め,調査した形質との間に有意な相関は認められなかった(表4).

表4. 分げつ数ならびに開花日と調査形質間の相関係数
分げつ数 開花日
草丈 −0.10 −0.36
葉身長 −0.20 −0.10
葉鞘長 −0.23 −0.48
茎盤径 0.57 * 0.20
生重 0.46 0.07
葉色 −0.31 −0.39
花粉量 −0.25 −0.44
開花日 −0.12
花球径 −0.65 * −0.41
花球高 −0.70 ** −0.37
花茎長 −0.53 −0.37

 *:5%水準で有意.

**:1%水準で有意.

‘分げつ数’と‘開花日’の散布図を示した(図2).ここで‘分げつ数’の多寡と‘開花日’の早晩が異なるように,晩ネギから「元晴晩生晩葱」ならびに「吉晴」,九条群より「九条細」,「九条太」,「京太」ならびに千住群より「千住系」の計6品種・系統を選定し,片側ダイアレル分析に供試した.

2. 分げつ性に関する片側ダイアレル分析

親系統の分げつ数の推移を示した(図3).その結果,分げつ数増加時期は,I.7月30日から9月29日にかけて増加し,その後に増加速度が減じた「九条細」,「九条太」および「千住系」,II.全調査回を通じて漸増した「元晴晩生晩葱」および「吉晴(晩ネギ)」,III.ほぼ増加しなかった「京太(九条群)」の3様式に分類された(図3).

図3.

親系統の分げつ数推移.

全3回の‘分げつ数’について親とF1の2反復平均値を比較したところ,全調査回で全親平均と全F1平均の差は小さかった(表5).

表5. 分げつ数に関する片側ダイアレル表
7月30日調査 九条群 晩ネギ 千住群
九条細 九条太 京太 元晴 吉晴 千住系
九条群 九条細 3.2 2.8 1.5 2.3 3.0 2.0
九条太 2.2 1.3 1.7 1.7 1.5
京太 1.2 1.2 1.0 1.0
晩ネギ 元晴 1.0 1.5 1.7
吉晴 2.2 1.8
千住群 千住系 1.7
全親平均 1.9
全F1平均 1.7
9月29日調査 九条細 九条太 京太 元晴 吉晴 千住系
九条群 九条細 16.2 8.8 4.8 9.2 10.7 7.0
九条太 7.7 4.2 5.8 6.5 5.7
京太 1.3 4.0 2.7 2.7
晩ネギ 元晴 3.8 6.5 4.7
吉晴 6.5 4.5
千住群 千住系 3.2
全親平均 6.4
全F1平均 5.8
12月17日調査 九条細 九条太 京太 元晴 吉晴 千住系
九条群 九条細 18.5 13.3 5.5 15.7 14.0 9.7
九条太 7.2 4.5 9.0 8.5 7.5
京太 1.2 4.3 2.8 2.5
晩ネギ 元晴 5.8 8.7 5.7
吉晴 11.8 4.7
千住群 千住系 3.2
全親平均 7.9
全F1平均 7.8

分げつ数の片側ダイアレル分散分析の結果を示した(表6).全調査回とも相加効果を示すa項のF値が1%水準で有意であった.一方,優性効果を示すb項は7月30日および9月29日の調査回において5%水準で有意であったが,12月17日調査回では有意でなかった.b項が有意であった7月30日の調査回ではb3項(特定の組合せの優性効果)が有意で,9月29日の調査回ではb2項(特定の親の優性効果)が有意であった.

表6. 片側ダイアレル表の分散分析1)
df 7月30日 9月29日 12月17日
反復 1 0.21 ns 0.10 ns 0.49 ns
a項 5 37.49 ** 47.40 ** 51.65 **
b項 15 2.52 * 2.91 * 1.95 ns
b1項 1 2.65 ns 3.18 ns 0.10 ns
b2項 5 2.57 ns 5.34 ** 3.37 *
b3項 9 2.48 * 1.53 ns 1.37 ns

F値で表記 *:5%水準で有意 **:1%水準で有意 ns:非有意.

a項:相加効果 b1項:平均優性偏差(親平均とF1平均の違い).

b項:優性効果 b2項:優性偏差の系列間差(一般組み合わせ能力の親間差).

b3項:各F1固有の優性偏差.

1) Jones(1965)の方法に基づく.

Hayman(1954)の方法でダイアレル分析を行う場合,遺伝様式の解析には非対立遺伝子間に相互作用(エピスタシス)がないことが条件となる.ここでVr(片親を共通としたr番目の系列の分散)とWr(r番目の系列のF1と非共通親との共分散)を計算し,Vr-Wrグラフを示した(図4).エピスタシスが存在しない場合はWrのVrに対する回帰係数が1となるが,1より著しく低いとエピスタシスの存在が疑われる(鵜飼 2002).計算した回帰係数が0と有意に異なり,1と有意に異ならない場合にエピスタシスの影響がないと仮定した.本実験の回帰係数は7月30日調査0.86,9月29日調査0.99,12月17日調査0.98で,計測した分げつ数はダイアレル分析の前提となる相加・優性モデルに適合すると言えた.Vr-Wrグラフでは,左下方に位置すると優性遺伝子を多く持つ親,右上方に位置すると劣性遺伝子を多く持つ親に相当する.優性遺伝子を多く持つ親は7月30日調査時で「京太」,「千住系」,9月29日調査時で「京太」,「千住系」,「九条太」,12月17日調査時で「京太」であった.一方,劣性遺伝子を多く持つ親は7月30日調査時で「吉晴」,「九条細」,9月29日調査時で「九条細」,12月17日調査時で「九条細」,「吉晴」,「元晴晩生晩葱」であった(図4).

図4.

各調査回における分げつ数についてのVr-Wrグラフ.

Vr:片親を共通としたr番目の系列の分散.

Wr:r番目の系列のF1と非共通親との共分散.

回帰直線:実線は実際の回帰直線点線は傾きを1としたときの回帰直線.

片側ダイアレル分析により推定された遺伝パラメーターを示した(表7).全調査回とも平均優性度は1以下の不完全優性であり,これはVr-Wrグラフで回帰直線がWr軸と正の値で交わることと一致した(図4).またPr(親の値)とVr+Wrには正の相関が見られた.さらに狭義の遺伝率は全調査回で0.78以上であった.

表7. ダイアレル分析により推定された分げつ数の遺伝パラメーター
遺伝パラメーター 7月30日 9月29日 12月17日
相加分散 0.58 27.60 38.87
優性分散 H1 0.29 6.10 11.01
H2 0.24 3.90 7.31
環境分散 0.04 0.39 1.12
平均優性度 0.71 0.47 0.53
優性遺伝子の平均的方向 −0.25 −1.04 −0.31
Vr+WrとPrの相関係数 0.69 0.92 ** 0.82 *
広義の遺伝率 0.91 0.96 0.95
狭義の遺伝率 0.78 0.86 0.87

**は1%水準,*は5%水準で有意性あり.

考察

本研究でははじめに分げつ性や晩抽性程度の異なる14品種・系統を供試した(表1).相関分析の結果,分げつ数は開花日と有意な相関は見られず,分げつ性と晩抽性を独立に選抜できる可能性が示唆された(表4).また,分げつ数は花球径および花球高と有意な負の相関が認められたことから,分げつが多いほど花球が小さくなる傾向があった.このことは採種量の観点から,分げつの多さに伴う花球の小ささを補填するため,花球あたりの小花数や稔実率の高さに留意が必要である.一方,採種作業の効率化の観点から,分げつの少なさに伴う花球の大きさや少なさは,刈り取り回数の減少による収穫の省力化となる.これらのことから,一本性の強い品種の育成は青果物の皮むき作業効率化のみでなく,採種作業の効率化にも寄与すると考えられた.

分散分析の結果より,親平均とF1平均の違いを示すb1項が全調査回で有意ではなく,このことは分げつ数の全親平均と全F1平均との差が非常に小さいことと一致し,ネギの分げつ数はヘテロシスの影響が小さい形質と推定された(表56).さらに,全調査回でa項がb項を大きく上回り,分げつ数は相加効果による影響が大きい形質であると示唆された(表6).

Vr-Wrグラフから,親系統の優性順序と優性および劣性遺伝子の有する割合が生育段階によって変動し,親系統間で分げつを支配する遺伝子の種類や作用機構が異なると推定された(図4).またPrとVr+Wrには正の相関が見られたことから(表7),分げつ数の少ない方向が優性と考えられた.

ネギの分げつ性はイネ科と同様に腋芽の発育したものであるが(八鍬 1953),イネの分げつ数に関する複数の生育段階でのダイアレル分析では,分げつ数の多い方向が優性であり,生育を通じて分げつ数が同一のポリジーンシステムで制御されると考えられている(Xu and Shen 1991).さらに外生ジベレリン反応性では,イネでは分げつを抑制する働きがあるのに対し(Ito et al. 2018),ネギにおいては分げつを促進する働きがある(村井ら 1981, Yamazaki et al. 2015).優性遺伝子の作用方向や分げつ制御の遺伝的作用機構,ジベレリン反応の違いから,ネギにはイネと異なる分げつ制御遺伝子が存在すると示唆された.

ネギの分げつ性についての遺伝解析では,一本性の加賀群「下仁田」と分げつ性の赤ネギ「赤ひげ」のF2:3集団を用い,第8染色体連鎖群に1個のQTLが同定されている(Tsukazaki et al. 2017).本実験で見出された分げつに関する遺伝子との異同は対立性検定によって確認できると思われる.一方,イネにおいては分げつに関する突然変異体を用いた解析により,主働遺伝子による支配の報告が多くある.例えば,「しおかり」由来の少分げつ変異体からは劣性遺伝子であるrcn1から6高牟禮・木下 1993, Ariyaratna et al. 2011),「アキユタカ」の突然変異系統で少分げつの「合川1号」からは不完全優性遺伝子であるLtnFujita et al. 2010),分げつを生じない変異体からは劣性遺伝子であるmoc1から3Li et al. 2003, Koumoto et al. 2013, Lu et al. 2015)が報告されている.イネにおいて分げつを著しく減じるこれら遺伝子とネギの一本性に関与する遺伝子との関連は,今後ネギのゲノム解析が進むことで比較できるようになると思われる.

ネギの分げつ性が狭義の遺伝率の高い形質であることを考慮すると(表7),品種や系統として固定度が高まってからの分げつについての選抜は困難であると考えられた.晩ネギを育種素材に一本性の強い晩抽系統を育成するには初期世代で分げつ性についての選抜が重要であることが示唆された.また近年育成されたネギはF1品種が中心であり(若生 2014),本研究で示された分げつ数は相加効果が主な要因である点から,両親系統とも一本性の強い系統を用いることが必要となる.

最後に,分げつ‘選抜の場’について考察する.第23回日本育種学会シンポジウムにて『育種における「場」の諸問題』が開催された.その中で山本(1982)は‘選抜の場’について記した.すなわち,日長・気温・降水量など自然立地条件の有効利用,特殊環境を設定しての特定の形質について選抜,さらに栽培条件の設定により望ましい遺伝子型を選抜し,育成地と普及予定地の栽培条件のずれの調整をあげている.ネギの分げつは肥培管理,茎盤部の損傷,植物ホルモンによって増減が見られることから(八鍬 1963, 村井ら 1981, Yamazaki et al. 2015),今後分げつ‘選抜の場’を構築するには,株間の拡大や多肥栽培,定植時のストレス処理,ジベレリンなどのホルモン処理等が考えられる.

本研究で示された結果から,晩ネギとの交雑後代の初期世代を以上の選抜の場に供試し,分げつ性を評価・選抜することによって,晩抽性を導入しつつ,一本性のより強い系統が効率的に選抜できると期待される.

電子付録

付図1.形態形質測定箇所.

付図2.分げつ数の計測例.

付図3.生殖形質測定箇所.

謝辞

本研究を取りまとめるにあたり,農研機構・東北農業研究センターの塚崎光博士に貴重なご助言を頂いた.ここに深く謝意を表する.

引用文献
 
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