育種学研究
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25 巻, 1 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
原著論文
  • 小笠原 慧, 田中 紀史, 新倉 聡
    2023 年 25 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/21
    [早期公開] 公開日: 2023/01/20
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    電子付録

    根深ネギの晩抽性遺伝資源,晩ネギの分げつ性に関する遺伝解析のため,はじめに14品種・系統を用いて分げつ数と諸形質の相関分析を行った.相関分析の結果より,‘分げつ数’は‘開花日’と有意な相関が見られず,分げつ性と晩抽性は独立して選抜できる可能性が示唆された.次に相関分析での‘分げつ数’の多少および‘開花日’の早晩について変異が大きくなるように6品種・系統を選定し,片側ダイアレル分析を実施した.解析集団は生育段階に応じて3回分げつ数を調査した.片側ダイアレル分散分析の結果,全調査回で相加効果を示すa項のF値がb項を大きく上回ったこと,平均優性度が1以下であったことから,分げつ数は相加効果が大きい不完全優性の形質であると推定された.また優性遺伝子の平均的作用方向は分げつ数の少ない方向と考えられた.3回の分げつ数調査およびダイアレル分析結果を比較すると,親系統の優性順序,親系統の優性および劣性遺伝子の有する割合が生育段階によって変動することが示され,親系統間で分げつを支配する遺伝子の種類や作用機構が異なると考えられた.さらに狭義の遺伝率がいずれの調査回でも0.78以上と高かったことから,晩ネギから一本性の晩抽系統を育成するには,初期世代での選抜が重要であることが示唆された.

ノート
  • 上床 修弘, 西本 淳, 桂 真昭
    2023 年 25 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/21
    [早期公開] 公開日: 2023/04/18
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    エンバク(Avena sativa)は,我が国において冬季に粗飼料を確保できる重要な飼料作物であり,8月末から9月上旬の期間に播種し冬季に収穫する「夏播き栽培」の作型での利用が,九州地域を中心に定着している.夏播き栽培には,極早生性,冠さび病抵抗性および耐倒伏性等の適応形質が重要であり,播種適期を拡大できる極早生性や安定生産に資する冠さび病抵抗性を強化した新品種開発への需要は高い.これらの背景から,本研究では9月下旬に播種しても年内に出穂する極早生性と冠さび病抵抗性を強化したエンバク品種「K42R8」を育成した.エンバク品種の中でとくに出穂が早い「九州15号」と比較して,「K42R8」の出穂始は標準期播種では同程度であり晩期播種ではやや遅かったが,刈取時の出穂程度は「九州15号」と同程度であったため,「K42R8」は年内に安定的に出穂する品種と考えられた.晩期播種における「K42R8」の乾物収量は,2場所・2年間の平均で「九州15号」比92と低い傾向であったが,普及品種である「ウエスト」と比較すると同程度以上であったことから,「K42R8」の収量性は実用上の問題はないと考えられた.また,「K42R8」は何れの作型においても冠さび病の発生が圃場で認められず,強い冠さび病抵抗性を示した.「K42R8」は,関東以西から九州南部の暖地を中心とした地域での利用が期待され,播種適期を拡大し天候不順や作業集中のリスクを低減することにより,粗飼料の安定生産に貢献するものと考えられる.また,「K42R8」の冠さび病抵抗性は我が国の流通品種において極強の部類に属するものであり,新たな冠さび病抵抗性品種としての普及が期待される.

  • 松本 憲悟, 山川 智大, 大野 鉄平, 太田 雄也, 安藤 露, 山内 歌子, 米丸 淳一, 田中 淳一
    2023 年 25 巻 1 号 p. 16-23
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/21
    [早期公開] 公開日: 2023/04/08
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    電子付録

    我が国の稲作経営においては,生産コストおよび環境負荷を低減しつつ高値販売が安定して実現できるイネ品種が求められている.高温登熟性と病害抵抗性を兼ね備え,稲作経営からのニーズに応えることができる早生品種は,現状ではまだ少ない.「なついろ」は,早生で高温登熟性に優れる「三重23号」の遺伝背景に,「ともほなみ」由来のいもち病圃場抵抗性遺伝子pi21を短期間で導入することにより育成された.連続戻し交雑では,BC1F1からBC3F1の各世代において,pi21を対象としたDNAマーカー選抜に加えゲノムワイドマーカーを用いた背景選抜を実施することにより,最初の人工交配(2013年)から2年2ヶ月で目的の遺伝子型を実現し,その後系統選抜および生産力検定試験等の特性把握調査の後に,6年後の2019年に品種登録出願された.「なついろ」は「三重23号」と比較して,いもち病圃場抵抗性が強いこと,稈長と穂長がやや長いこと,千粒重がやや小さいこと以外は概ね同様の農業形質を有する.また,「コシヒカリ」と比較して,稈長は10 cm短く,穂数はやや少なく,草型は“中間型”である.出穂期,成熟期は「コシヒカリ」よりそれぞれ3日および5日早い.pi21を有し,葉いもち圃場抵抗性は“極強”である.高温登熟性は「三重23号」と同程度の“強”で,「コシヒカリ」より強い.「なついろ」は2020年に三重県の奨励品種として採用された.高温登熟性と病害抵抗性を兼ね備え,稲作経営からのニーズに応えることができる早生品種としての普及が期待される.

  • 小林 麻子, 西村 実, 中岡 史裕, 冨田 桂, 町田 芳恵, 両角 悠作, 森田 竜平, 渡辺 脩斗, 林 猛, 清水 豊弘, 佐藤 有 ...
    2023 年 25 巻 1 号 p. 24-30
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/21
    [早期公開] 公開日: 2023/04/11
    ジャーナル フリー

    食物繊維は多くの生理機能を有する成分であるが,近年の日本人の摂取量は目標量に達していない.「コシヒカリ」の白穂突然変異系統「WPK」に0.1 M EMS(エチルメタンスルフォネート)処理を行った固定型突然変異系統群の中から,玄米外観が粉質で,精白米中の食物繊維含有率が高い「WFE5」を選抜した.「WFE5」と「コシヒカリ」の交雑F3に「コシヒカリ」を戻し交配し,「コシヒカリ」の遺伝的背景で食物繊維含有率が高い準同質遺伝子系統として「コシヒカリNIL[WFE5]」を育成した.「コシヒカリNIL[WFE5]」について,複数年にわたり食物繊維含有率,栽培特性および食味特性を評価した.その結果,「コシヒカリNIL[WFE5]」は,精白米中に「コシヒカリ」の約3倍の食物繊維を含有し,その食味は「日本晴」並みであると判断した.精白米に食物繊維を多く含む品種は,日本人の健康増進につながると考え,福井県農業試験場,新潟大学および農業・食品産業技術総合研究機構の三者が共同で「新福1号」として品種登録出願を行った.「新福1号」の食物繊維含有率は,5か年の平均値で,玄米および精白米でそれぞれ5.1%および2.6%であった.食物繊維含有率には年次変動があり,千粒重が大きいほど,また玄米タンパク質含有率または精白米アミロース含有率が低いほど食物繊維含有率が高い傾向が認められた.「新福1号」の栽培特性は「コシヒカリ」とほぼ同等であるが,収量性は「コシヒカリ」の68%と低く,玄米は白濁して千粒重は「コシヒカリ」より15.5%程度小さく,倒伏抵抗性は「コシヒカリ」よりやや強いが,穂発芽は「コシヒカリ」よりややし易かった.

特集記事 2022年第63回シンポジウム(シンポジウム・ワークショップ)報告
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