育種学研究
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原著(研究論文)
高次倍数体向けQTL-seq法による栽培イチゴの果肉色および早晩性QTLの検出
山川 博幹 三角 将洋川原 善浩水林 達実
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電子付録

2025 年 27 巻 2 号 p. 127-140

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摘 要

栽培イチゴ(Fragaria × ananassa)は四組の同祖染色体よりなる異質八倍体種であるため,育種形質に連関するゲノム領域の特定が困難であり,DNAマーカーによる優良個体選抜の効率化が阻まれている.本研究では果肉色と出蕾期早晩性について,高次倍数体向けに開発されたpolyploid QTL-seq法を適用し,量的形質遺伝子座(QTL)の同定とDNAマーカー開発が可能か検証した.異質倍数体種では配列が酷似する同祖染色体どうしをそれぞれ区別した遺伝解析が必要であるが,ショートリードのマッピング後でDepth 40以上かつSNP-index 0.40~0.64を満たす2アレル型多型の抽出により,各同祖染色体が固有に保持する多型を選択し利用したQTL解析が可能となる.果肉色が淡紅色として知られる品種「さちのか」と果肉色が白色として知られる品種「恋みのり」の交配後代F1世代において,果肉色が白色から赤色まで多様な表現型を示す個体が出現した.「恋みのり」参照ゲノム配列を用いて本法を適用したところ果肉色を赤色化するQTLを3つ同定し(「さちのか」由来chr1-4とchr2-3,「恋みのり」由来chr6-2),3つのDNAマーカーをすべて保持する個体を選抜することで,赤い果肉をもつ個体を92%の高頻度で選抜が可能となった.また,極早生性品種として知られる「かおり野」と相対的に晩生な品種「恋みのり」の交配後代F1世代では多様な出蕾時期を示す個体が出現した.同様に本法の適用により,早生化QTL(「かおり野」由来chr2-3)と,早生化効果を解除する脱早生化QTL(「恋みのり」由来chr3-1)を同定し,前者に対するDNAマーカーを保持し,後者に対するDNAマーカーを保持しない個体を選抜することで,90%の高頻度で早生個体の選抜が可能となった.以上のように,異質倍数性作物においてもpolyploid QTL-seq法による迅速なQTL同定とDNAマーカー開発が可能であることが示された.

Translated Abstract

Strawberry (Fragaria × ananassa) is a heterozygous octoploid species comprising four sets of homologous chromosomes, which renders the identification of genomic regions associated with breeding traits challenging and obstructs the efficient selection of superior individuals using DNA markers. In this study, the polyploid QTL-seq method, developed for polyploid crops, was employed to investigate the feasibility of identifying quantitative trait loci (QTL) and developing DNA markers related to fruit flesh color and flowering day. In heterozygous polyploid crops, genetic analysis must distinguish between homologous chromosomes that exhibit extremely high sequence similarity. By extracting biallelic polymorphisms with a mapping depth exceeding 40 and an SNP index ranging from 0.40 to 0.64 after short-read mapping, polymorphisms uniquely retained by each homologous chromosome for QTL analysis were selectively utilized. In the F1 generation resulting from the cross between the red-fleshed variety ‘Sachinoka’ and the white-fleshed variety ‘Koiminori’, individuals displaying a diverse spectrum of fruit flesh colors from white to red were observed. Using the reference genome sequence of ‘Koiminori’, three QTLs associated with red fruit flesh color (derived from “Sachinoka” on chr1-4 and chr2-3, and from ‘Koiminori’ on chr6-2) were identified. By selecting individuals that retained all three DNA markers, a high selection frequency of 92% for red-fleshed individuals was achieved. Conversely, in the F1 generation from the cross between the early-maturing variety ‘Kaorino’ and the late-maturing variety ‘Koiminori’, individuals exhibiting varied flowering days emerged. Similarly, through the application of this method, an early-maturity QTL (from ‘Kaorino’ on chr2-3) and a de-maturity QTL that alleviates early-maturity effects (from ‘Koiminori’ on chr3-1) were identified. By selecting individuals that retained the DNA marker for the former QTL while lacking the marker for the latter QTL, a selection frequency of 90% for early-maturing individuals was attained. Thus, our findings demonstrate that rapid QTL identification and DNA marker development using the polyploid QTL-seq method are indeed feasible in heterozygous polyploid crops.

緒言

栽培イチゴ(Fragaria × ananassa Duch.)(以下,イチゴ)は受粉後に肥大した花床を果肉として食用する果実的野菜で,令和4年産出額が2,000億円(農林水産省「生産農業所得統計」2024)を超え,トマトに次ぐ主要な園芸作物である.またわが国のイチゴは食味や品質に優れ,香港を中心に,台湾,タイ,シンガポールなど,海外への輸出も急速に増加しており,令和5年の輸出額は約62億円に達した(農林水産省「農林水産物輸出入情報」2024).更なる市場拡大に向けて,用途の多様化や供給期間の拡大を実現する品種開発が期待されている.

イチゴ果実の用途は様々であり,生食用やケーキなどの製菓用のほか,ジャムなどとして加工利用される.栃木県においては生産されたイチゴの全出荷量の約2.5%が加工用途として用いられ,加工により最終的に製造された商品は約41億円と推定されている報告(大森・米倉 2016)があり,加工利用されるイチゴの付加価値を含めた経済効果は大きい.また「夢つづき」(農研機構,アヲハタ株式会社育成)や「af01」(農研機構,株式会社青木商店育成)など,加工用途を主な育種目標としたイチゴ品種の開発ニーズが見られる.ジャムや飲料,ピューレへの加工時には鮮やかな赤い果肉色が求められることから,果肉色は特に加工用イチゴ品種において重要な形質である.

またイチゴの育種開発における重要な形質として早晩性がある.一季成りイチゴを露地栽培すると,晩夏から秋にかけての低温・短日により花芽分化および休眠が誘導され,冬は株が矮化して越冬し,翌春に出蕾,開花し結実する.促成栽培の場合は花芽分化後に施肥と加温を行い,出蕾を秋から翌春まで連続的に行わせる.一般に一季成りイチゴの花芽分化の誘導条件として,短日条件下では温度が25~26°Cを下回る場合とされる(Ito and Saito 1962, Jonkers 1965)が,品種によって異なることが知られ(本多 1977, 山崎ら 2008, 山崎 2019),早晩性として特性づけられる.早晩性は促成栽培時において出荷開始時期に影響するほか,年内は高単価で取引されることもあり,イチゴが日本に本格的に導入された明治時代から,早出しに繋がる早生化は重要視される形質の1つであり続けてきた.

栄養繫殖性イチゴの品種開発では,交配で得た後代種子を播種し,得られた多数の実生個体のなかから,最も育種目標に合致する個体を選抜する.そのためには,なるべく多くの個体を定植し,各個体から果実を収穫し調査する必要がある.しかし促成栽培向け品種の開発では,果実の収穫調査期間は半年間に渡り,また選抜においてはランナーから発生する子株を用いた更新が毎年必要であることから,多くの労力を必要とする.そのため,育種効率化のために実生苗の育苗段階にて有用形質を保持する個体を選抜できるDNAマーカーの開発が切望されている.しかしイチゴは,異なる祖先種から由来する四組の同祖染色体をもつ異質八倍体という複雑なゲノム構造(Bringhurst 1990)が提唱されているため,特に量的形質の遺伝性については不明瞭な点が多い.

このような重要性を鑑みて,イチゴではゲノム塩基配列の解読が進んでいる(Isobe et al. 2020).これまでに,米国品種「Camarosa」(Edger et al. 2019, Liu et al. 2021),「Royal Royce」(Hardigan et al. 2021),国内品種「麗紅」(Hirakawa et al. 2014, Shirasawa et al. 2021),「紅ほっぺ」(Song et al. 2024),中国品種「Yanli」(Mao et al. 2023)などでゲノム塩基配列が解読されている.われわれは農研機構育成品種「恋みのり」でゲノム塩基配列を解読して参照ゲノムを構築するとともに,国内品種および遺伝資源のゲノム塩基配列を解読しDNA多型を比較解析した(川原ら,投稿準備中).取得したゲノム情報を活用して有用形質を制御するゲノム領域を探索し,DNAマーカーを活用した育種の効率化を目指している.

イチゴで有用ゲノム領域を同定するうえで,上述の異質八倍体ゲノム構造が障害となる.イネなどの二倍体作物では量的形質遺伝子座(QTL)の迅速な同定が可能なQTL-seq法(Takagi et al. 2013, Sugihara et al. 2022)が汎用されるが,同法は自殖性作物のF2集団を解析対象に想定した方法であり,F1集団で解析する他殖性のイチゴへは遺伝様式の相違から適用できない.また,非常によく似た塩基配列を有する同祖染色体が四組存在することから,それらの区別に困難が予想される.われわれはそれぞれの同祖染色体が固有に保持する多型のみを抽出してF1集団での解析に用いることで高次倍数体作物でのQTLの迅速同定を可能にするpolyploid QTL-seq法を開発し(Yamakawa et al. 2021),同質四倍体作物バレイショの塊茎の肉色およびデンプン品質(Yamakawa et al. 2024b),同質六倍体作物のサツマイモの蒸しいもの肉質(Yamakawa et al. 2024a)のQTLを同定しDNAマーカーを作成した.そこで本研究では,同法を異質倍数体作物に適用するための解析条件を設定し,イチゴの果肉色および早晩性のQTL同定とDNAマーカー開発を試みたところ,果肉色の赤色化に関与する3つのQTL,早晩性として早生化に関与するQTL,およびその早生化効果を消去する脱早生化QTLのそれぞれ1つずつが検出され,有意に選抜効果が得られるDNAマーカーが得られたため,ここに報告する.

材料および方法

1. 供試材料

果肉色の解析個体群は,果肉が赤色(以下,赤肉)の品種として「さちのか」(農研機構育成)を種子親,果肉が白色(以下,白肉)の品種として「恋みのり」(農研機構育成)を花粉親として交配して得られたF1後代183個体を用いた.2022年1月にバーミキュライト上に播種して得られた発芽個体を,6月に24穴スリットトレイに移植し,10月上旬に定植を行うまでガラス温室内にて育苗を行った.早晩性の解析個体群は,極早生性として知られる三重県育成の一季成り品種「かおり野」(北村ら 2015)を種子親,相対的に晩生な一季成り品種「恋みのり」を花粉親にして交配して得られたF1後代199個体を用いた.2023年3月にバーミキュライト上に播種し,発芽個体に関して2か月後の5月に9 cmポリポットに鉢上げを行い,9月20日の定植日までガラス温室内で育苗した.どちらの解析個体群も育苗中は井戸水で適宜潅水を行い,肥料として緩効性肥料(くみあい尿素入りIB化成S1号(10-10-10),ジェイカムアグリ株式会社)を1株当たり1粒,1か月間隔で施肥を行った.その後,加温設備を有する促成栽培用ビニールハウス内において,地床より高さ1 m程度に設置した栽培槽(PSK-3000,矢崎化工株式会社)に株間23 cm,二条植えにて定植した.ビニールハウス内は5°C未満にならないよう加温し,18°C以上でサイドビニールが開放される設定を行った.定植後は1回10分を3回,合計で30分間,約2000倍に希釈した水溶性園芸肥料(OK-F-1(15-8-17),OATアグリオ株式会社)を点滴チューブ(ストリームラインX80,NETAFIM社)を通じて,潅水と施肥を同時に行った.以上は福岡県久留米市にある農研機構九州沖縄農業研究センター久留米研究拠点にて実施した.

2. 果肉色の調査

イチゴ果実内部は大きく皮層部(以下,果肉部)と維管束帯に囲われる果髄部に分けられる.イチゴ品種「千代田」(九州農業試験場園芸部育成)のように果肉部と果髄部で色が大きく違う品種も見られることから,本研究における果肉色の調査では,果肉部のみでの解析を行った.萼を除去した果実を中央部で縦断し,切断面を上にしてホールトレイに載せ,付図1Aのように三脚に固定したデジタルカメラ(D3300,株式会社ニコン)およびレンズ(AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR II,株式会社ニコン)とLEDライト付撮影ボックス(200-DG016,サンワサプライ株式会社)を使用して,絞り値f/11,露出時間1/125秒,ISO速度ISO-200の一定条件下で撮影を行った.得られた画像(付図1B)は画像編集用ソフトPhotoshop 2022(バージョン23.5.5以降,Adobe社)を用いて果髄部を囲う維管束帯に沿って「なげなわツール」にて手動で選択して果髄部を除去し,次に「選択とマスク」機能を用いて果肉部を手動で選択し,その選択した果肉部の範囲について「ぼかし」機能を用いて色を平均化すると,付図1Cが得られた.その後,「カラーサンプラーツール」機能を用いて,果肉部における平均化した色についてL*a*b*色空間より赤色の指標となるa*値を計測する手法を採用した.まとまって果数が得られる春季の2023年2月22日から2023年4月5日まで週1~2回程度,完熟果を収穫し,収穫後に速やかに画像取得を行った.a*値は各個体よりに収穫した5果以上を用いて測定し,平均値を算出した.また比較対照として,同一時期に収穫したイチゴ品種「さちのか」,「恋みのり」の完熟果も同様の果肉色の解析を行った.また参考として同時期に収穫したイチゴ品種「とよのか」(野菜・茶業試験場育成),「とちおとめ」(栃木県育成),「ぽりっちご」(農研機構育成)をそれぞれ4果測定した.

3. 早晩性の調査

育苗時は2023年7月20日が施肥の最終日であり,1か月後の8月中旬頃には株が低窒素条件になるよう施肥管理を行った.9月20日に定植し,その後,頂果房(以下,第一花房)および第一次腋果房(以下,第二花房)の出蕾(図4A)が目視確認された日をおよそ週2回程度,2月16日まで調査した.定植時にクラウン径7.0 mm以上の良好な生育を示した各個体について第一花房,第二花房ごとに出蕾日を調査した.第一花房出蕾日のばらつきと第二花房出蕾日のばらつきをそれぞれ標準化して,両花房出蕾日へ及ぼす効果を同等の重みづけで評価するため,第一花房出蕾日と第二花房出蕾日のそれぞれについてZスコアを算出し,その合計値を早晩性の指標とした.育苗ガラスハウス内の8月中旬および定植後のビニールハウス内の気温(株元より50 cm上)はサーモレコーダー(TR-52,株式会社ティアンドデイ)にて1時間間隔で取得した(付図2).比較対照としての「かおり野」および「恋みのり」は,6月頃にランナー苗を9 cmポリポットにそれぞれ8株取得し,実生個体群と同ハウスにて,同様に施肥育苗・定植した株を用いた.

4. ゲノムDNAの調製とシーケンス

各個体より茎頂未展開葉100 mgを採取し,液体窒素により凍結後,乳鉢を用いて粉末状にし,ISOSPIN Plant DNAキット(ニッポンジーン社)を用いてゲノムDNAを調製した.果肉色については,a*値が12.9以下の低値を示した18個体,32.4以上の高値を示した18個体のDNAを等量ずつ混合し,それぞれ白肉バルク,赤肉バルクとした.早晩性については,第一花房Zスコアと第二花房Zスコアの合計値が−1.71以下の低値を示した20個体,1.77以上の高値を示した21個体のDNAを等量ずつ混合し,それぞれ早生バルク,晩生バルクとした.いずれの解析についても交配に用いた両親品種のゲノムDNAも同時に調製し,TruSeq DNA PCR-freeライブラリー調整キット(イルミナ社)でシーケンスライブラリーを作成し,NovaSeq 6000シーケンサー(イルミナ社)で150 bpペアエンドシーケンスに供した.取得されたゲノム解読データFASTQファイルはDDBJ Sequence Read Archiveにおいてアクセッション番号DRA019118にて公開した.

5. 高次倍数体QTL-seq解析

polyploid QTL-seqプログラムv1.0.0を用いた.本プログラムはGitHub(https://github.com/TatsumiMizubayashi/PolyploidQtlSeq)においてマニュアルとともに公開されている.取得したFASTQファイルからfastpにより高品質リードを抽出し,BWAを用いて「恋みのり」参照ゲノム配列(川原ら,投稿準備中,DDBJ GenBankアクセッション番号JBLYXV000000000)に対してマッピングしBAMファイルを作成した.その後,p2SnpIndexRange,minDepth,ploidyパラメーターをそれぞれ0.40–0.64,40,2に設定することで,一方の親が単一塩基配列に固定され,もう片方の親がDepth 40以上かつSNP-index 0.40~0.64を満たす2アレル型多型を抽出し,QTL-seq解析に用いた.また,2アレル型多型が存在しないゲノム領域についても結果を補完するため,p2SnpIndexRangeパラメーターを0.05–0.95に変更してDepthが40以上かつSNP-indexがより広範な0.05~0.95の多型を使用する解析も並行して実施した.これらの解析は親品種を入れ替えて,それぞれが保有する多型について実施した.それぞれの解析に供された多型の数を付表1に示す.

6. DNAマーカー作成と遺伝子型調査

果肉色,早晩性のそれぞれで検出されたQTL候補領域中央付近の任意の多型について,目的形質と連鎖する多型を保持するときのみ増幅するPCRプライマーを作成した(付表2).果肉色,早晩性の調査時に残存したそれぞれ163個体,199個体について,GoTaq Hot Start Colorless Master Mix(プロメガ社)を用いて95°C 30秒,55°C 30秒,72°C 30秒を30サイクル繰り返す反応条件でPCRを実施した.10 μlの反応液に対して,10 ngのゲノムDNAとそれぞれ0.2 μMのフォワードプライマーおよびリバースプライマーを供試した.増幅産物を2%アガロースゲル電気泳動で分離,検出し,DNAマーカー増幅の有無と形質値の相関を解析した.また,PCRによるDNA増幅のコントロールとして,rbcL遺伝子プライマーによる増幅を確認した.

結果

1. 「さちのか」×「恋みのり」交配後代F1の果肉色

果肉色QTLを検出するため,赤肉品種「さちのか」×白肉品種「恋みのり」の交配後代F1集団を供試した.「恋みのり」の果肉は平均a*値が17.3とわずかに赤色を呈した.一方,「さちのか」は平均a*値が32.5と濃い赤色を呈した.それらのF1183個体は白肉から赤肉まで多様な果肉色を呈し,a*値は5.1~35.0の範囲で連続的な分布を示した(図1).平均値23.8に対して,中央値25.4となる赤肉側に偏った分布を示し,白肉品種「恋みのり」よりもさらに赤みの少ない超越個体が37個体(全体の20%に相当)出現した.これらのことから,「恋みのり」においても少なくとも1つは赤肉化に関与するQTLが存在することが示唆された.また品種登録時の特性では,果肉色において「恋みのり」は白色,「さちのか」は淡紅色であるが,黄白色である「とよのか」のa*値の平均値は22.8,淡紅色である「とちおとめ」は25.3,赤色である「ぽりっちご」は33.3であり,達観に由来される特性とa*値が大きくなると赤色が濃くなる傾向はおおよそ一致していた.

図1. 「恋みのり」,「さちのか」,それらの交配後代(F1)個体の果肉切断面と果肉色の赤色指標値a*の分離.(A)果肉切断面の外観.(B)F1個体における果肉色a*の分離.a*は切断面の撮影画像から計測した.5果以上測定したF1個体について平均値の分布を示す.赤三角は「恋みのり」(17.3)と「さちのか」(32.5)の値を示す.緑色と黄色はそれぞれ白肉バルク,赤肉バルクに含められた階層を示す.淡色化されたバーは,階級に含まれる一部の個体のみをバルクに供試していることを示す.

2. 高次倍数体QTL-seq解析で検出された果肉色QTL

異質倍数体の遺伝解析では,複数組の同祖染色体間で共通する多型を除外し,1組の同祖染色体のみに固有の多型を抽出する必要がある.1組の同祖染色体に固有の配列を有する箇所ではシーケンサーから出力されたショートリードは当該同祖染色体にのみマッピングされ,2アレル型の多型となる.一方,複数組の同祖染色体で共通の配列を有する箇所ではショートリードはすべての同祖染色体にマッピングされるため3アレル型以上の多型となる.付図3に2アレル型多型を95%信頼水準で抽出する条件のシミュレーションを示す.デプスが40以上かつSNPインデックスが0.40–0.64の多型のみを選択することで,95%以上の2アレル型多型を使用し,3アレル型以上の多型をほぼ除外したQTL解析が可能となる.本抽出の有無で解析に供された多型数は付表1の通りである.

他殖作物の交配後代F1で遺伝子型が分離する場合は片親がヘテロでもう片親がホモの場合(①),もしくは両親ともにヘテロの場合(②)に限られる.①は当該遺伝子型の有無は後代において1:1に分離し,②は当該遺伝子型の保有アリル数が2,1,0の個体が1:2:1に分離するが,QTL-seq解析では片親がホモで固定されている①の多型のみを解析対象とするため,②の多型は本解析の対象外となる.両品種が血縁関係にない場合は,両親間でハプロタイプが完全一致するゲノム領域が存在しないため,②の多型が存在したとしても,同じ領域に①の多型も混在し,いずれの領域においてもQTLの検出が可能である.一方,両品種が血縁関係にある場合は,近縁係数として算出される頻度で両親間で同一のハプロタイプをもつ領域が存在する.このときハプロタイプ上の多型はすべて②の型となり,①の多型は存在しないため,当該ハプロタイプ上に存在するQTLは検出できない.Pedigree Finder(鐘ヶ江ら 2022https://pedigree.db.naro.go.jp/)ではデータベースに搭載される品種の系譜情報に基づき任意の2品種の近縁係数を算出できる.「さちのか」と「恋みのり」の近縁係数は0.00952であるため,ゲノムの0.95%は両親間で同一ハプロタイプを保有すると予想され,この領域についてはQTL解析対象から除外されると考えられる.

QTL-seq法ではQTLが存在する領域では2つのバルク間でSNPインデックスに相違が発生し,それらの差分となるΔSNPインデックスが0から増加もしくは減少する.100 kbのウィンドウ内に存在するすべてのSNPのP値の平均が99%水準で有意であり(付表3でP99の列にQTLと注釈される),99%水準で有意なSNPの数(付表3のP99 QTL Variant Countの列)が10個以上存在する領域をQTL候補領域と判定した.

赤肉品種「さちのか」,白肉品種「恋みのり」,その交配後代F1世代より得た赤肉バルク,白肉バルクの4種のゲノム配列を用いて,以上の異質倍数体向けQTL-seq法を適用したところ,「さちのか」のchr2-3の14.5–28.3 Mbに赤肉化QTL候補領域が検出された(図2A,付表3).また,99%水準で判定する付表3では検出されなかったが,95%水準で有意な準候補領域として,chr1-4の8.3–9.7 Mbに赤肉化QTL候補領域を見出した.ほかにも付表3でchr7-2の18.8 Mbに白肉化QTL候補領域が提示されたが,わずか2ウィンドウで突出して有意水準を超えたのみであり,近接するΔSNPインデックスの100 kbウィンドウ平均値は有意水準に達しないため,QTL候補としなかった(付図4).一方,白肉品種にもかかわらず「恋みのり」のchr6-2の8.7–8.8 Mbにも赤肉化QTL候補領域が検出された(図2B,付表3).2アレル型多型のみを選択することで,「さちのか」のchr2-3の赤肉化QTL候補領域がより明確になり,「恋みのり」のchr6-2にも赤肉化QTL候補領域を検出できた(付図4,付表3).

図2. polyploid QTL-seq解析で検出された「さちのか」と「恋みのり」のF1集団における果肉色QTL候補領域.(A)「さちのか」由来赤肉化QTL候補領域.(B)「恋みのり」由来赤肉化QTL候補領域.グラフは上から順に白肉バルクのSNPインデックス,赤肉バルクのSNPインデックス,両グラフの重ね合わせ,赤肉バルク-白肉バルクの差分を示したΔSNPインデックス,100 kbウィンドウに含まれるすべての多型の平均P値,100 kbウィンドウに含まれる有意な多型数を表す.SNPインデックスグラフの濃い緑色とオレンジ色のドットはSNPインデックスが0のものを示す.SNPインデックスとΔSNPインデックスのグラフの緑線,赤線,青線は20 kbずつスライドさせた100 kbウィンドウ内の多型の平均値を示す.ΔSNPインデックスとウィンドウ平均P値のグラフのオレンジ線と赤線はそれぞれ95%と99%の有意水準を示す.有意な多型数のグラフのオレンジ色と赤色のドットはそれぞれ95%と99%の水準で有意であった多型数を示す.ΔSNPインデックスと有意な多型数のグラフでは正方向が赤肉化,負方向は白肉化の効果を示す.99%水準と95%水準のQTL候補領域をそれぞれ赤枠とオレンジ枠で示す.2アレル型多型のみを用いた解析のQTL候補領域が検出された染色体のみ示すが,ほかの染色体やすべての多型を用いた解析結果については付図4に示す.

一方,2アレル型多型のみを用いた解析,すべての多型を用いた解析ともに,「さちのか」側のchr1-2の8.6–21.5 Mbの領域において,白肉バルクでSNPインデックスが0.6–1.0を示す多型が多数検出された(付図4).本解析で用いられる多型は一方の親がホモ(SNPインデックスが0として処理される)で,もう片方の親がヘテロ(SNPインデックスの期待値は0.5)のもののみであるため,その後代F1でSNPインデックスが0.6–1.0の範囲に多型が多数検出されることはありえない.本領域は正常にマッピングされないと判断し,対象外とした.

3. 果肉色QTLの効果とそれらの組み合わせ効果

「さちのか」のchr1-4とchr2-3,「恋みのり」のchr6-2の赤肉化QTL候補領域の多型(付表4,付表5)を用いて,果肉色と連鎖する多型(それぞれchr1-4の9,863,070塩基のT,chr2-3の19,676,905塩基のT,chr6-2の8,709,298塩基のA)を保持する場合に特異的に増幅するPCRプライマー(付表2)をそれぞれ作成した.いずれのプライマーも当該多型を供与した親品種でのみ増幅が確認されたため,個体ごとの遺伝子型調査時に生存した163個体について当該多型の有無を調査し(付図5),果肉色との関連を解析した.いずれの座においてもDNAマーカーを保有する個体は保有しない個体と比較して有意に高いa*値を示し,赤肉化に貢献しているQTLであると確認された(図3A).また,それぞれのQTLは相加的に寄与し(図3B),3つのQTLすべてを保持する個体群では92%の個体がa*値が黄白色の果肉色をもつ「とよのか」(22.8)より大きい23以上の赤肉個体となった(図3C).これらのことから,本F1集団では,少なくとも2つの「さちのか」由来のQTL(chr1-4:9.9 Mbとchr2-3:19.7 Mb)と1つの「恋みのり」由来のQTL(chr6-2:8.7 Mb)が果肉の赤色化に寄与することが明らかとなった.

図3. 「さちのか」と「恋みのり」のF1集団における果肉色QTLの効果.(A)「さちのか」由来chr1-4_9.9Mb,chr2-3_19.7Mb,および「恋みのり」由来chr6-2_8.7Mbのそれぞれ単独の効果.t検定による有意差をP値で表す.(B)3つのQTLの組み合わせの効果.F1集団163個体について各DNAマーカーの有無と果肉色a*値の相関を示す.箱ひげ図で最小値,第一四分位値,中央値,第三四分位値,最大値を示す.平均値は×印で示す.Tukey法による有意差をP値で表す.(C)それぞれの遺伝子型ごとの果肉色a*値の分離.

4. 「かおり野」×「恋みのり」交配後代F1の早晩性

早晩性QTLの検出には「かおり野」×「恋みのり」の交配後代F1集団を供試した(図4).「かおり野」は出蕾が早く,第一花房の出蕾日のZスコアと第二花房の出蕾日のZスコアの合計値が−2.33の早生性を示した.一方,「恋みのり」は同値が1.42と晩生となった.それらのF1は早生から晩生まで多様な出蕾期を呈し,同Zスコア合計値は−2.88~9.55の範囲であったが,−3.00~2.75の区分に多くの個体が存在し,−3.00~0.50の第一集団,0.75~2.75の第二集団よりなる連続的な分布を示した(図4B).

図4. 「かおり野」,「恋みのり」,それらの交配後代(F1)個体の早晩性の分離.(A)出蕾の様相.出蕾した芽を○印で示す.(B)F1個体における出蕾日Zスコアの分離.赤三角は「かおり野」(−2.33)と「恋みのり」(1.42)の値を示す.黄色と緑色はそれぞれ早生バルク,晩生バルクに含められた階層を示す.淡色化されたバーは,階級に含まれる一部の個体のみをバルクに供試していることを示す.

5. 高次倍数体QTL-seq解析で検出された早晩性QTL

果肉色の解析と同様に2アレル型多型のみを用いたQTL解析によって,早生品種「かおり野」のchr2-3の4.4–13.2 Mbに早生化QTL候補領域が検出された(図5A,付表6).一方,晩生品種「恋みのり」のchr2-3の6.4–7.1 Mbとchr3-1の2.7–5.9 Mbに晩生化QTL候補領域が検出された(図5B,付表6).特筆すべきことに,これらのうちchr3-1の2.7–5.9 Mbの晩生化QTL候補領域では,早生バルクのみにSNPインデックスが0である多型が著しく多く検出された.これらのほかに「恋みのり」のchr2-3の13.0 Mbには早生化QTL候補領域も検出されたが,わずか2ウィンドウで突出して有意水準を超えたのみであり,近接するΔSNPインデックスの100 kbウィンドウ平均値は有意水準に達しないため,QTL候補としなかった(付図6).Pedigree Finderによると,「かおり野」と「恋みのり」の近縁係数は0.02700であるため,ゲノムの2.70%は両親間で同一ハプロタイプを保有すると予想され,この領域についてはQTL解析対象から除外されたと考えられる.以上のように,早晩性においても,2アレル型多型のみを選択することで,「かおり野」のchr2-3の早生化QTL候補領域がより明確になった.(付図6,付表6).

図5. polyploid QTL-seq解析で検出された「かおり野」と「恋みのり」のF1集団における早晩性QTL候補領域.(A)「かおり野」由来早生化QTL候補領域.(B)「恋みのり」由来晩生化QTL候補領域.各グラフは図2と同様に示す.グラフは上から順に晩生バルクのSNPインデックス,早生バルクのSNPインデックス,両グラフの重ね合わせ,早生バルク-晩生バルクの差分を示したΔSNPインデックス,100 kbウィンドウに含まれるすべての多型の平均P値,100 kbウィンドウに含まれる有意な多型数を表す.ΔSNPインデックスと有意な多型数のグラフでは正方向が早生化,負方向は晩生化の効果を示す.99%水準のQTL候補領域を赤枠で示す.2アレル型多型のみを用いた解析のQTL候補領域が検出された染色体のみ示すが,ほかの染色体やすべての多型を用いた解析結果については付図6に示す.

6. 早晩性QTLの効果とそれらの組み合わせ効果

「かおり野」のchr2-3の早生化QTL候補領域,「恋みのり」のchr2-3とchr3-1の晩生化QTL候補領域の多型(付表7,付表8)を用いて,早晩性と連鎖する多型(それぞれchr2-3の5,595,632塩基のC,chr3-1の4,529,888塩基のA,chr2-3の6,497,800塩基のCA)を保持する場合に特異的に増幅するPCRプライマー(付表2)をそれぞれ作成した.いずれのプライマーも当該多型を供与した親品種でのみ増幅が確認されたため,当該F1集団199個体について当該多型の有無を調査し(付図7),早晩性との関連を解析した.「かおり野」のchr2-3の早生化QTL候補座においてはDNAマーカーを保有する個体は保有しない個体と比較して有意に出蕾日Zスコア合計値が低く,早生化QTLであると確認された.これに対して,「恋みのり」のchr2-3とchr3-1の晩生化QTL候補座においては,いずれの座もマーカーの有無にかかわらず同等の出蕾日Zスコア合計値を示したことから,それぞれ単独座による晩生化効果は確認されなかった(図6A).しかしながら,QTL間の組み合わせ効果を調査したところ,「恋みのり」のchr3-1座を保有する個体群では「かおり野」のchr2-3座による早生化効果は全く発揮されず(図6B),「恋みのり」のchr3-1座には「かおり野」のchr2-3座による早生化効果を打ち消す脱早生化効果が確認された.一方,「恋みのり」のchr2-3座には脱早生化効果は認められなかった.このことは,本集団の「恋みのり」由来多型を用いたQTL解析の早生バルクにおいて,chr3-1のこの領域でSNPインデックスが0である多型が多く検出されたこと(図5B)と合致し,本領域に「恋みのり」由来当該アリルが入ると早生化が生じないことを示している.以上のことから,本F1集団では,「かおり野」のchr2-3の早生化QTLと「恋みのり」のchr2-3の脱早生化QTLによって早晩性が制御されており,前者を保有し後者を保有しない個体群を選抜することで,出蕾日Zスコア合計値において第一集団を構成する0.25以下の早生個体を90%の頻度で選抜可能であることが明らかとなった(図6C).

図6. 「かおり野」と「恋みのり」のF1集団における早晩性QTLの効果.(A)「かおり野」由来chr2-3_5.6Mbおよび「恋みのり」由来chr2-3_6.5Mb,chr3-1_4.5Mbのそれぞれ単独の効果.t検定による有意差をP値で表す.NS:有意差なし.(B)「かおり野」由来chr2-3_5.6Mbと「恋みのり」由来chr3-1_4.5MbのQTLの組み合わせの効果.F1集団199個体について各DNAマーカーの有無と出蕾日Zスコアの相関を示す.箱ひげ図で最小値,第一四分位値,中央値,第三四分位値,最大値を示す.平均値は×印で示す.Tukey法による有意差をP値で表す.(C)それぞれの遺伝子型ごとの出蕾日Zスコアの分離.

より具体的な表現型を確認すると,「かおり野」の第一花房出蕾平均日は10月16日,第二花房出蕾平均日は11月6日であり,「恋みのり」の第一花房出蕾平均日は11月4日,第二花房出蕾平均日は12月20日であった.今回供試した199個体群の第一花房出蕾平均日は10月26日であり,第二花房平均出蕾日は12月6日であった.一方,「かおり野」由来chr2-3の早生化QTLをもち,「恋みのり」由来のchr3-1の脱早生化QTLをもたない個体群(50個体)における第一花房の出蕾日としては,平均して10月22日であり,第二花房出蕾日は平均して11月26日であった.従って全個体群の平均出蕾日と比較した場合において,第一花房出蕾日は4日前進し,第二花房出蕾日は10日前進した.

考察

本研究では高次倍数性作物向けに開発されたpolyploid QTL-seq法を異質倍数性作物種のイチゴに適用した.本法はこれまでに同質倍数性作物種のサツマイモとバレイショへ適用された(Yamakawa et al. 2021, 2024a, 2024b).同質倍数性作物では,複数組ある同祖染色体が減数分裂時に相互に区別されることなく任意の組み合わせで対合し,生殖細胞へ分配されるため,概ね無作為に後代へ遺伝する.この遺伝様式に対応するためQTL-seq解析では倍加半数体系統や近縁自殖二倍体種のゲノム配列が参照ゲノムとして用いられ,すべての同祖染色体に由来するリードが同一の染色体の領域に照合され多型が抽出される.多型の検出頻度から,何本の同祖染色体に多型が存在するか考慮してQTL解析が行われる.バレイショ(同質四倍体),サツマイモ(同質六倍体)のほかに,カキ(同質六倍体),ブドウ大粒種(同質四倍体),キク(同質六倍体),バラ(同質四倍体)などがこの方法で対応可能である.一方,異質倍数性作物では,同祖染色体間で塩基配列が酷似しているが,減数分裂時にそれぞれ対合する組み合わせが定まっており,相同染色体間で対合がなされる二倍体種と同様の遺伝様式を示す.このためQTL-seq解析では,それぞれの同祖染色体の配列を包含する当該高次倍数性作物種のゲノム配列を参照ゲノムとして用いて,各同祖染色体に由来するリードをそれぞれ明確に区別して,対応する同祖染色体に位置づけて多型を抽出する必要がある.そこで,1組の同祖染色体に固有の配列をもち,それらのみからリードが派生していると考えられる2アレル型多型のみを選択してQTL解析に供試した.本研究のいずれの形質においてもすべての多型を用いた解析で2アレル型多型のみを選択して解析した場合と概ね同等のQTL領域を検出可能であった.2アレル型多型の選択には厚読みシーケンスが必要となり,金銭的な負担が大きい.しかしながら,すべての多型を用いた場合は連鎖DNAマーカーを作成する際に目的とするQTL領域以外の領域を増幅しうるDNAマーカーを作成しやすくなると予想される.これに対して,2アレル型多型を用いた解析ではQTL領域のみに特異的に存在する多型が提示されるため,特異的DNAマーカー作成に有効と考えられる.

イチゴ果肉の赤色色素はペラルゴニジン配糖体などのアントシアニンであり,アミノ酸のフェニルアラニンを基質としてフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL),桂皮酸4水酸化酵素(C4H),4-クマル酸CoAリガーゼ(4CL),カルコン合成酵素(CHS),カルコン異性化酵素(CHI),フラバノン3-水酸化酵素(F3H),ジヒドロフラボノール4-還元酵素(DFR),アントシアニジン合成酵素(ANS),フラボノイド糖転移酵素(UFGT)などの酵素が順次作用することで生合成され液胞に蓄積される(Jaakola 2013, Labadie et al. 2022, Denoyes et al. 2023).これらの一連のアントシアニン合成関連酵素はMYB転写因子によってその発現が制御され(Liu et al. 2023),MYB10がアントシアニン蓄積を誘導するのに対して(Lin-Wang et al. 2010, Lin-Wang et al. 2014, Wang et al. 2020, Yuan et al. 2022, Zhang et al. 2024),MYB1はアントシアニン蓄積を抑制する(Kadomura-Ishikawa et al. 2015).アントシアニン合成に関与する上記酵素遺伝子および転写因子遺伝子について,本研究で用いた「恋みのり」参照ゲノムにおける座乗位置をBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)による相同性検索によって探索したが,本研究で同定された赤肉化QTL領域(chr1-4の8.3–9.7 Mb,chr2-3の14.5–28.3 Mb,chr6-2の8.7–8.8 Mb)に上記遺伝子は認められなかった.

これまでに果肉色を制御するゲノム領域の探索を目的としたGWAS解析やQTL解析がなされ,「Camarosa」参照ゲノムにおけるFvb1-2のMYB10遺伝子やFvb3-4のアントシアニジン還元酵素(ANR)遺伝子領域にQTLが報告されている(Castillejo et al. 2020, Labadie et al. 2022).後者は本研究の赤肉化QTL領域とは一致しないが,前者は本研究における「恋みのり」参照ゲノムでの相当染色体chr1-2がマッピング異常により解析対象外となっているため,本研究では検出されなかった可能性がある.一方,Davik et al.(2020)は栽培品種間の交雑後代F1集団で「Camarosa」参照ゲノムのFvb6-2の30.1–31.7 Mbにペラルゴニジン配糖体含量のQTLを検出しており,本領域は「恋みのり」参照ゲノムで検出された赤肉化QTL領域のchr6-2の8.7–8.8 Mbに相当する領域であることから,同一のQTLが同定された可能性が高いが,それらのQTLの原因遺伝子は不明である.また,223品種のGWAS解析で「Royal Royce」参照ゲノムのchr 5C,chr 5D,chr 6A,chr 7B,chr 7Cに果皮色のQTLが検出され(Prohaska et al. 2024b),「さちのか」を含む6品種由来のMAGIC(multi-parent advanced generation inter-cross)集団を用いたGWAS解析で,果皮色QTLおよび果肉アントシアニン含量QTLがFvb1-4とFvb2-2に検出されている(Wada et al. 2020).これらのQTLの果肉色に対する効果は不明であるため,本研究の果肉色QTLとの関連性は不明である.

われわれは「恋みのり」参照ゲノムの構築とともに,主要なイチゴ品種のゲノム配列を解読して「恋みのり」と配列が異なる箇所を抽出しTASUKE+データベースを整備している(川原ら,投稿準備中).赤肉品種「さちのか」を交配親として用いた後代品種に,赤肉品種の「おいCベリー」と白肉品種の「こいのか」がある.本研究で見出されたDNAマーカー多型がこれらの品種に受け継がれているか,同データベースを参照すると,赤肉品種「おいCベリー」は「さちのか」のchr2-3と「恋みのり」のchr6-2の2つの赤肉化QTLを保有し,「さちのか」のchr2-3についてはホモ型に固定されている.これに対して,白肉品種「こいのか」は「さちのか」のchr2-3の1つのみの赤肉化QTLをヘテロ型で保有する.両品種へは「さちのか」のほかにそれぞれもう片方の親からも果肉色制御遺伝子が受け継がれていることから,それらの影響を考慮する必要があるが,これらの品種において上記赤肉化QTLが赤肉色の発現程度に影響を及ぼしている可能性が高い.

イチゴの花芽分化はFLOWERING LOCUS T3FT3)遺伝子やAPETARA1AP1)遺伝子によって誘導されるが,苗定植直後はこれらの遺伝子の発現がTERMINAL FLOWER1TFL1)遺伝子によって抑制されているため,花芽が形成されない.冬季が近づくにつれて,TFL1遺伝子自体が低温で抑制されるとともに,その上流でTFL1遺伝子発現を順次亢進するCONSTANSCO)遺伝子,FLOWERING LOCUS T1FT1)遺伝子,SUPPRESSOR OF THE OVEREXPRESSION OF CONSTANS1SOC1)遺伝子カスケードの発現が短日条件で抑制されるため,FT3遺伝子とAP1遺伝子が活性化され,花芽分化に至る(Whitaker et al. 2020, Hytönen and Kurokura 2020).上記花芽分化制御遺伝子の「恋みのり」参照ゲノムにおける座乗位置を相同性検索によって探索したところ,本研究で同定された早晩性QTL領域(chr2-3の4.4–13.2 Mb,chr3-1の2.7–5.9 Mb)に上記遺伝子は認められなかった.また,出蕾の時期は休眠も影響すると考えられる.バラ科における休眠においては,複数のDormancy-Associated MADS-BOXDAM)遺伝子が休眠に寄与するなど,果樹を中心にそのメカニズムが解明されつつある(Bielenberg et al. 2008).イチゴにおいてもいくつかのDAMホモログは存在しているとの報告がある(Hytönen and Kurokura 2020)が,記載のホモログ候補はchr2-3およびchr3-1に確認できなかった.

「かおり野」を含む6品種由来のMAGIC集団を用いたGWAS解析で開花期QTLが「Camarosa」参照ゲノムのFvb5-1に検出されているが(Wada et al. 2020),本研究で検出されたQTLとは一致しない.一方,欧州品種間の交雑後代F1集団について複数の栽培環境で「Royal Royce」参照ゲノムのchr 1B,chr 1C,chr 2C,chr 3A,chr 6A,chr 6Dに開花期のQTLが検出され(Prohaska et al. 2024a),このうちchr 2Cは本研究のchr2-3のQTLの近傍と考えられる.これらのことから花芽分化には品種ごとに異なる多様なQTLが関与する一方で,chr2-3におけるQTLは欧州と日本の品種に共通して開花期に関与している可能性が考えられる.将来的に本研究で得られた早晩性に関与する2つのQTLが,イチゴの早晩性において,どのように花芽分化誘導または休眠メカニズムに寄与しているのか,検鏡による花芽分化の推移経過を含めた調査を行うべきであると考えている.

2023年は平年より温暖な年であり,付図2のように育苗を行ったガラス温室内においては,測定を開始した8月12日から定植日の9月20日にかけて,花芽分化の目安となる日平均気温26°Cを下回る日は9月に入ってからの非連続的な3日(9月1日,9月14日,9月17日)のみであった.そのような高温環境下にもかかわらず,「かおり野」において10月16日に第一花房の出蕾が見られたことは,「かおり野」の高温下での花芽分化能(山崎 2019)を支持するものであると考えられる.イチゴにおいては,花芽が未分化な状態において窒素施用を受けると,花芽分化までに要する日数が延長されることが知られる(松本ら 1983).本試験においても,「恋みのり」や晩生的な実生個体群は,高温によって花芽分化が遅延し,花芽が未分化な状態にて定植による施肥作用を受けることで,更なる花芽分化の遅延が起こり,その結果として個体群のZスコア分布において大きく早生と晩生の二集団を形成した可能性も考えられる.

以上のように,本研究ではイチゴを対象事例として高次倍数体向けに開発されたpolyploid QTL-seq法の異質倍数性作物への適用を検証した.交配組み合わせによっては2アレル型多型が得られにくい領域が散在するという課題は残るが,果肉色,早晩性の双方について複数のQTLを検出し,赤肉個体や早生個体を高頻度に選抜可能なDNAマーカーを作成できた.本法の活用によって果実品質,病害抵抗性などの重要な育種形質に関するDNAマーカーが開発され,育種効率化に貢献できることを期待する.また本手法はイチゴ(異質八倍体)のみならず,ラッカセイ(異質四倍体)などの異質倍数体にも対応可能であると考えられる.コムギのような自殖性作物は,polyploid QTL-seqプログラムが他殖性作物の交雑後代F1世代を対象とするため適さないと考えられるが,多くの二倍体他殖性作物である野菜や果樹は,ploidyパラメーターを2に設定し,minDepthパラメーターを10,p2SnpIndexRangeパラメーターを0.05–0.95のように広範な多型を供試する設定とすることで,対応可能と推察している.

謝辞

本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「令和5年度農林水産研究の推進(委託プロジェクト研究)みどりの品種開発加速化プロジェクト」JPJ012037の支援を受けて実施された.また,実施にあたり,三重県農業研究所より「かおり野」の研究使用をご快諾いただいた.農研機構九州沖縄農業研究センターの藤田敏郎氏にイチゴDNA調製について,農研機構農業情報研究センターの鐘ヶ江弘美氏に近縁係数算出方法について,それぞれ御助言をいただいた.実生株の管理や調査作業において,農研機構九州沖縄農業研究センターの大坪英樹氏,松崎裕子氏に御協力をいただいた.温室および圃場試験の実施に際し,農研機構技術支援部九州沖縄技術支援センター九州第2業務科久留米技術チームの黒岩賢治氏,松尾征徳氏,三池啓治氏に御支援いただいた.ここに記して深謝の意を表する.

電子付録

付表1.QTL解析に用いられた多型の数.

付表2.本研究で用いられたDNAマーカーのプライマー塩基配列.

付表3.果肉色QTLの候補領域.

付表4.果肉色QTL-seq解析で検出された「さちのか」由来の2アレル型多型.

付表5.果肉色QTL-seq解析で検出された「恋みのり」由来の2アレル型多型.

付表6.早晩性QTLの候補領域.

付表7.早晩性QTL-seq解析で検出された「かおり野」由来の2アレル型多型.

付表8.早晩性QTL-seq解析で検出された「恋みのり」由来の2アレル型多型.

付図1.果肉色の計測方法.

付図2.育苗期間のガラス温室内および定植後のビニールハウス内における株元より50 cm上の日別最高気温,日別平均気温,日別最低気温の推移.

付図3.2アレル型多型を95%信頼水準で抽出する条件のシミュレーション.

付図4.「さちのか」と「恋みのり」のF1集団における果肉色QTL候補領域.

付図5.「さちのか」と「恋みのり」のF1集団における果肉色と連鎖するDNAマーカーのアガロースゲル電気泳動像.

付図6.「かおり野」と「恋みのり」のF1集団における早晩性QTL候補領域.

付図7.「かおり野」と「恋みのり」のF1集団における早晩性と連鎖するDNAマーカーのアガロースゲル電気泳動像.

引用文献
 
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