論文ID: 24J11
栽培イチゴ(Fragaria × ananassa)は四組の同祖染色体よりなる異質八倍体種であるため,育種形質に連関するゲノム領域の特定が困難であり,DNAマーカーによる優良個体選抜の効率化が阻まれている.本研究では果肉色と出蕾期早晩性について,高次倍数体向けに開発されたpolyploid QTL-seq法を適用し,量的形質遺伝子座(QTL)の同定とDNAマーカー開発が可能か検証した.異質倍数体種では配列が酷似する同祖染色体どうしをそれぞれ区別した遺伝解析が必要であるが,ショートリードのマッピング後でDepth 40以上かつSNP-index 0.40~0.64を満たす2アレル型多型の抽出により,各同祖染色体が固有に保持する多型を選択し利用したQTL解析が可能となる.果肉色が淡紅色として知られる品種「さちのか」と果肉色が白色として知られる品種「恋みのり」の交配後代F1世代において,果肉色が白色から赤色まで多様な表現型を示す個体が出現した.「恋みのり」参照ゲノム配列を用いて本法を適用したところ果肉色を赤色化するQTLを3つ同定し(「さちのか」由来chr1-4とchr2-3,「恋みのり」由来chr6-2),3つのDNAマーカーをすべて保持する個体を選抜することで,赤い果肉をもつ個体を92%の高頻度で選抜が可能となった.また,極早生性品種として知られる「かおり野」と相対的に晩生な品種「恋みのり」の交配後代F1世代では多様な出蕾時期を示す個体が出現した.同様に本法の適用により,早生化QTL(「かおり野」由来chr2-3)と,早生化効果を解除する脱早生化QTL(「恋みのり」由来chr3-1)を同定し,前者に対するDNAマーカーを保持し,後者に対するDNAマーカーを保持しない個体を選抜することで,90%の高頻度で早生個体の選抜が可能となった.以上のように,異質倍数性作物においてもpolyploid QTL-seq法による迅速なQTL同定とDNAマーカー開発が可能であることが示された.