2025 年 27 巻 2 号 p. 159-171
パン用コムギ品種は,製パン性を十分に発揮するために高蛋白質含有率であることが求められる.さらに高蛋白質含有率のパン用コムギは製パン用途だけでなく,醤油醸造用としても使用される.醤油の品質にはうまみの元となる蛋白質が大きな影響を与えるため,蛋白質含有率が高いことが醤油醸造用の原料コムギとして非常に重要な特性であり,西日本地域においても製パンだけでなく醤油醸造にも利用可能な高蛋白質含有率のコムギ品種が実需者から求められてきた.また近年,西日本地域では,暖冬年での幼穂の凍霜害が問題となっているため,秋播性がそのリスク低減に重要な形質となっている.そこで,これらの要望に応えるため品種開発を進め,優れた栽培性を持ち,高蛋白質含有率で製パン性・醤油醸造適性に優れる秋播性のコムギ品種「たつきらり」を育成した.「たつきらり」は西日本地域に適応する通常アミロースタイプの製パン・醸造用品種で,秋播性を有し春先に幼穂が凍霜害を受けるリスクが低い.また,短稈であるため倒伏に強い.「たつきらり」は「せときらら」より原粒の蛋白質含有率が高く,小麦粉生地物性が強く,製パン性が「せときらら」より優れる.醤油醸造適性は現在兵庫県で栽培されている「ゆめちから」と同等で,淡口醤油の醸造適性が高いと評価された.「たつきらり」はパン用・醤油醸造用品種として,兵庫県を中心に普及し,淡口醤油醸造をはじめとする地域産業に貢献することが期待される.