育種学研究
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原著(品種育成)
蛋白質含有率が高く製パン性・醤油醸造適性に優れるコムギ新品種「たつきらり」の育成
伴 雄介 , 加藤 啓太, 伊藤 美環子, 德力 望, 中垣 裕作, 廣瀨 正義, 川口 謙二, 池田 達哉, 高田 兼則, 谷中 美貴子, 船附 稚子, 石川 直幸
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2025 年 27 巻 2 号 p. 159-171

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摘 要

パン用コムギ品種は,製パン性を十分に発揮するために高蛋白質含有率であることが求められる.さらに高蛋白質含有率のパン用コムギは製パン用途だけでなく,醤油醸造用としても使用される.醤油の品質にはうまみの元となる蛋白質が大きな影響を与えるため,蛋白質含有率が高いことが醤油醸造用の原料コムギとして非常に重要な特性であり,西日本地域においても製パンだけでなく醤油醸造にも利用可能な高蛋白質含有率のコムギ品種が実需者から求められてきた.また近年,西日本地域では,暖冬年での幼穂の凍霜害が問題となっているため,秋播性がそのリスク低減に重要な形質となっている.そこで,これらの要望に応えるため品種開発を進め,優れた栽培性を持ち,高蛋白質含有率で製パン性・醤油醸造適性に優れる秋播性のコムギ品種「たつきらり」を育成した.「たつきらり」は西日本地域に適応する通常アミロースタイプの製パン・醸造用品種で,秋播性を有し春先に幼穂が凍霜害を受けるリスクが低い.また,短稈であるため倒伏に強い.「たつきらり」は「せときらら」より原粒の蛋白質含有率が高く,小麦粉生地物性が強く,製パン性が「せときらら」より優れる.醤油醸造適性は現在兵庫県で栽培されている「ゆめちから」と同等で,淡口醤油の醸造適性が高いと評価された.「たつきらり」はパン用・醤油醸造用品種として,兵庫県を中心に普及し,淡口醤油醸造をはじめとする地域産業に貢献することが期待される.

Translated Abstract

The bread-making quality of wheat flour relies on a high grain protein content. High-protein bread wheat is used also in soy sauce brewing. Since the quality of soy sauce is greatly influenced by the content of proteins, which contributes to the umami taste, high-protein wheat is a crucial raw material. There is a demand for brewing cultivars in western Japan with the following critical traits: preharvest sprouting resistance, lodging resistance, disease resistance, and winter habit. The Western Region Agricultural Research Center, NARO, developed a new hard winter wheat cultivar, ‘Tatsukirari’, which has good adaptability and a high protein content, and is suitable for both bread-making and soy sauce brewing. ‘Tatsukirari’ is a standard amylose-type wheat. Its winter habit limits the risk of frost damage to young panicles in early spring. Its short culm provides strong resistance to lodging. And it has a higher grain protein content and stronger dough properties, resulting in better bread-making quality, than ‘Setokirara’, a cultivar widely grown in western Japan. Its suitability for soy sauce brewing is comparable to that of ‘Yumechikara’, a late-maturing cultivar grown for brewing in Hyogo Prefecture, and ‘Tatsukirari’ has been identified as suitable for brewing light soy sauce. The cultivation of ‘Tatsukirari’ in Hyogo Prefecture and surrounding areas as a bread and brewing cultivar will support regional industries such as the production of light soy sauce.

緒言

日本ではコムギが年間約550万~600万トン消費され,パン,麺類,菓子類といった幅広い用途で利用されている(農林水産省 2024a, 2024b).コムギの国内生産量は80万トン~100万トンで,大半をアメリカ,カナダ,オーストラリアからの輸入に依存している.そのため,コムギの自給率は約15%にとどまり,食料安全保障の観点からもその向上が重要である.用途別ではパン用での使用量が最も多いが,その自給率は10%以下であり,日本めん用での自給率が約60%であることと比較すると低い水準であるため,パン用に使用可能なコムギ品種が求められてきた.2000年代に入り,北海道を中心にパン用コムギ品種の開発が進められ,「春よ恋」(池口ら 2006)や「ゆめちから」(田引ら 2011)など製パン性に優れる品種が育成された.西日本地域においても,「ミナミノカオリ」(藤田ら 2009)や「せときらら」(高田ら 2017),「はるみずき」(高田ら 2020)が育成され,西日本地域で作付が行われている.

「ミナミノカオリ」は,2004年に農研機構九州沖縄農業研究センターが育成した品種で,近畿から九州にかけて広い地域で栽培されている.「ミナミノカオリ」は穂発芽耐性が弱いため,収穫期の雨が原因で穂発芽が発生することが多い.穂発芽が発生すると,α-アミラーゼなどの酵素の働きが活性化し,子実中のデンプンが分解される.その結果,小麦粉をアミログラフで測定した際の最高粘度(アミロ値)が低下し,「低アミロ小麦」と呼ばれる状態になる.アミロ値の低下が顕著な場合,加工時に問題が生じやすく,取引価格低下や販売不可の原因になる.そのため,生産現場では毎年安定した品質の「ミナミノカオリ」を確保することが困難になっている.さらに,穂発芽発生の指標となるフォーリングナンバーは,畑作物の直接支払交付金の交付単価を決定する品質ランク区分の評価項目(農林水産省 2006)である.穂発芽が発生しフォーリングナンバーが基準値である300を下回ると,品質ランクが下がり交付単価が減額される可能性があるため,農家収入が減少する恐れもある.「せときらら」は,農研機構西日本農業研究センター(旧・近畿中国四国農業研究センター)が2012年に開発した品種で(高田ら 2017),めん用品種「ふくほのか」をもとに,製パン適性を高める遺伝子(高分子量グルテニン遺伝子Glu-D1d,低分子量グルテニン遺伝子Glu-B3hおよび硬質性遺伝子Pinb-D1c)を連続戻し交雑とDNAマーカー選抜により導入して育成された.現在,山口県を中心に兵庫県,京都府などで1,700 ha程度栽培されている.パン用コムギは,蛋白質含有率が低いとその製パン性を十分に発揮できないため,高い蛋白質含有率が必要である.「せときらら」は多収である一方で,子実の蛋白質含有率が低くなりやすいため,パン用コムギとして必要な蛋白質含有率を安定して確保するのが難しい.また,稈長が長いため,倒伏しやすい.「はるみずき」は,上述した「ミナミノカオリ」や「せときらら」の課題に対応するため,2018年に農研機構西日本農業研究センターが育成した品種である(高田ら 2020).穂発芽耐性が「ミナミノカオリ」より優れ,かつ短稈で倒伏に強いため,「せときらら」より栽培性が優れている.「はるみずき」は「せときらら」よりも子実蛋白質含有率が高まりやすいため,「せときらら」と同等以上の製パン性を有し,大分県を中心に普及している.大分県では,「はるみずき」をパン用だけでなく醤油醸造用としても栽培している.また,これらの品種の他に西日本地域で作付されているパン用コムギ品種として「ゆめちから」があり,「ゆめちから」も「はるみずき」と同様にパン用だけではなく,醤油醸造用としても栽培されている.

近年,西日本における麦作の課題として,暖冬年に発生する幼穂の凍霜害が挙げられる.コムギは,一定期間低温にさらされることで幼穂が分化する秋播性という特性を持ち,低温要求の強さによって温暖地ではI~Vまでの段階に分類される.この分類において,西日本で現在広く栽培されている品種の多くはI~IIに分類される春播性を有し,西日本地域で普及しているパン用コムギ品種はいずれも春播性である.春播性品種は幼穂分化に低温を要求しないため,暖冬年には生育が進みやすく,早い時期に幼穂が形成される.幼穂は寒さに弱いため,春先の急な低温にさらされることで凍霜害を受けるリスクが高まる.具体的には,幼穂の枯死や不稔といった被害が発生し,収量や品質に大きな影響を与えることが懸念される.秋播性は凍霜害のリスクを低減できるため,近年では育成品種が秋播性であることも栽培現場から求められている.

高蛋白質含有率のパン用コムギは製パン用途だけでなく,醤油醸造用としても使用される.醤油の原料は,ダイズ,コムギ,米,塩である.醤油の品質にはうまみの元となる蛋白質が大きな影響を与えるため,高蛋白質含有率のコムギは原料として非常に重要である(岩井 2021).兵庫県では製パン用・醤油醸造用として「ゆめちから」を奨励品種に採用している(兵庫県立農林水産技術総合センター農業技術センター 2013).「ゆめちから」は高蛋白質含有率の品種で製パン・醸造に適しているが,北海道で育成された品種であり(田引ら 2011),西日本地域で栽培されている品種と比較すると成熟期が遅い.兵庫県の「ゆめちから」の栽培地域では2年3作の輪作体系(イネ–コムギ–ダイズ)が行われており,コムギ栽培後はダイズを栽培する(猪澤 2022).「ゆめちから」を栽培すると収穫期が遅れるため,次作の準備期間が短く栽培上の負担となっている.さらに「ゆめちから」は梅雨入り後の6月下旬に収穫されるため,降雨の影響を受ける可能性が高く,栽培安定性についての懸念が挙げられている.兵庫県内の実需者であるヒガシマル醬油株式会社からは,「ゆめちから」と作期分散でき,かつ気候変動下での栽培リスクを低減できる西日本地域に適した早生で高蛋白質含有率の品種の開発を求められてきた.また,「ゆめちから」は醸造用だけではなくパン用にも使用されているため,製パン適性も必要である.

そこで,農研機構西日本農業研究センターは,西日本地域で作付けされている既存のパン用品種と同等以上の製パン適性を備え,「ゆめちから」よりも西日本地域での栽培性が優れる新品種の育成を進めるとともに,育成過程においてヒガシマル醬油株式会社と共同で現地試験および醤油醸造試験を行ってきた.その結果,西日本地域に適した栽培性を持ち,かつ蛋白質含有率が高く製パン性・醤油醸造適性に優れる秋播性の新品種「たつきらり」を育成したので,その育成経過と品種特性について報告する.

材料と方法

1. 育成経過

「たつきらり」の系譜を図1に示す.栽培性,製パン性に優れるパン用コムギ品種を育成することを目標として,2008年12月に農研機構近畿中国四国農業研究センター(現西日本農業研究センター)の温室において,耐倒伏性に優れ,生地物性が強いパン用コムギ系統「中系07-26(後の中国160号)」を母,栽培性に優れるパン用コムギ系統「中系08-39(後の「せときらら」)」を父として,人工交配を行った.人工交配により得られたF1(8個体)を2009年3月~6月に温室において栽培しF2種子を得た.2009~2010年度(以下,年度は播種年度で記載)にF2~F3世代を圃場において栽培し,早生性,稈長などを基準に各200穂選抜した.その後,2011年度にF4穂別系統選抜(200系統供試,15系統選抜),2012年度にF5派生系統選抜(15系統供試,3系統選抜)を行った.さらに,2013年度(F6世代)に生産力検定予備試験(3系統供試,1系統選抜)に供試し,2014年度(F7世代),2015年度(F8世代)に中系14-17として,生産力検定試験,系統適応性検定試験,特性検定試験に供試した.それらの成績が良好であったため,2016年度から「中国170号」の系統名を付けて,奨励品種決定調査に供試した.また,2020年度からヒガシマル醬油株式会社と共同研究を開始し,「中国170号」の兵庫県の現地での栽培性や醤油醸造適性の評価を実施した.その結果,本系統が「ゆめちから」よりも早生で収穫時期が早まり,安定した高蛋白質含有率を得られることが確認されるとともに,「ゆめちから」と同等の淡口醤油醸造の適性を有すると判断され,ヒガシマル醬油株式会社より,醤油醸造用としての生産を開始したいと申し出があったため,品種登録出願を行った(品種名:たつきらり,出願番号:第37122号,出願日:2023年11月14日出願,出願公表:2024年2月22日).

図1. 「たつきらり」の系譜.

2. 生産力検定試験

生産力検定試験は,農研機構西日本農業研究センター内圃場(広島県,福山市,以下育成地圃場とする)において,育種選抜時に多くの系統数を検定可能な広幅条播栽培と現地の栽培方法に近いドリル播栽培の2種類の栽培様式により実施した.広幅条播栽培は2016~2022年度の7か年実施した.いずれも11月中旬に播種し,畦幅70 cm × 畦長7.2 m,播種密度150粒/m2の試験区を3反復で設定した.施肥は,窒素成分で基肥6.5 kg/10 a(いーね403「改」(14-10-13)),2月上旬に分げつ肥2.6 kg/10 a(NK化成2号(16-0-16)),2月下旬に穂肥2.6 kg/10 a(NK化成2号(16-0-16)),4月の開花期に実肥として7.0 kg/10 a(硫安(21-0-0))を施用した.ドリル播栽培は2016~2018,2021,2022年度の5か年実施した.いずれも11月中旬に播種し,畦幅1.25 m × 畦長6.6 mの4条播,播種密度161粒/m2で,各3反復の試験区を設定した.施肥は,窒素成分で基肥6.5 kg/10 a,2月上旬に分げつ肥2.6 kg/10 a,2月下旬に穂肥2.6 kg/10 a,4月の開花期に実肥として8.0 kg/10 aを施用した.施肥には広幅条播栽培で用いた肥料と同じものを使用した.いずれの栽培様式においても各試験区の出穂期,成熟期を調査するとともに,穂揃い期に稈長,穂長,穂数を,開花期1週間後にうどんこ病,赤さび病,赤かび病の発生程度を,成熟期直前に倒伏程度を調査した.なお,うどんこ病については,葉に現れたうどんこ病の標徴の発生程度を達観で評価した.5月下旬~6月上旬に収穫し,唐箕選により細粒を除いた後,35°Cで水分含有量12%程度まで乾燥させた.調整乾燥後に子実収量,容積重,千粒重,外観品質,原粒蛋白質含有率を調査した.容積重および原粒蛋白質含有率は近赤外分析装置IM9500(Perten Instruments, Stockholm, Sweden)あるいはInfratec1241(FOSS, Hillerød, Denmark)により測定した.千粒重はSKCS4100(Perten Instruments)により測定した.収量および原粒蛋白質含有率については,IM9500で測定した原粒水分含有率に基づき,13.5%水分換算値を示した.

3. 穂発芽耐性および病害耐性,播性検定試験

コムギ縞萎縮病I型抵抗性検定試験については,茨城県つくば市および栃木県宇都宮市の汚染圃場で実施し,その他の検定試験は育成地圃場で実施した.

穂発芽耐性検定試験は,2014~2022年度の9か年実施した.試験区の播種様式は畦幅70 cm,畦長1.4 m,播種密度100粒/m2の条播とした.2016~2018年度は成熟期に20穂収穫し,10穂はすぐに,残り10穂は室温で1週間保存した後に,35°Cで1昼夜乾燥し,−20°Cで保存した.供試前に室温で1晩解凍した.穂を水に4時間浸漬後,15°C・湿潤状態で1週間保存し,全粒数と発芽粒数を調査した.2019~2022年度は成熟期および成熟期1週間後に各5~10穂収穫し,35°Cで1昼夜乾燥後に−20°Cで保存した.種子を手で脱穀した後,濾紙をひいたシャーレに50粒を乗せ,10,000倍希釈の殺菌剤(ベフラン液剤)水溶液8 mLを加えて,15°Cの恒温器に静置し,7日後に発芽粒数を調査した.シャーレは各区2反復用意した.いずれの検定方法についても,標準品種および供試系統の発芽粒率に基づいて易~極難の6段階で評価した.

赤かび病検定試験は加藤ら(2018)の方法に従い,2017~2018年度と2022年度の3か年実施した.試験区の播種様式は畦幅70 cm,畦長70 cm,播種密度40粒/m2の点播とした.ビニールハウス内で栽培した供試系統の畝間に赤かび病菌を接種培養した大麦種子を散布し,ミスト散水を行って発病を促進した.その後,発病穂率を調査し弱~強の9段階で評価した.

赤さび病およびうどんこ病検定試験は,それぞれ2014~2017年度と2019~2020年度の6か年および2019~2022年度の4か年実施した.試験区の播種様式は畦幅60 cm,畦長30 cm,播種密度100粒/m2の条播とした.検定圃場における自然発病の程度を2(無)~8(激甚)の7段階で調査し,発病程度を基に抵抗性を弱~強の5段階で表した.

コムギ縞萎縮病I型検定試験は,2014年度および2018年度,2022年度の3か年実施した.供試系統を汚染圃場に播種し,黄化および萎縮の症状を中心に発病度を0(無)~5(甚)の6段階で評価した.さらにELISA法によるウイルスの有無の確認を行った.得られた評価値に基づいて抵抗性を弱~強の5段階で表した.

播性検定試験は2014~2022年度の9か年実施した.試験区の播種様式は畦幅60 cm,畦長30 cm,播種密度100粒/m2の条播とした.3月上旬から10日~14日おきに5回,圃場に播種し,止葉展開と出穂の早晩を基準品種と比較してI~Vの間で判定(I~IIIは春播性,IV以上は秋播性)した.

4. 原粒品質評価および製粉試験

原粒品質評価および製粉試験には2016~2021年度の生産力検定試験(広幅条播栽培)の生産物および比較としてカナダ産パン用銘柄の1CW(No.1 Canada Western Red Spring)を供試した.原粒蛋白質含有率は近赤外分析装置IM9500(Perten Instruments)により分析し,原粒灰分含有率は燃焼法(農林水産技術会議事務局1968)により測定した.原粒はビューラーテストミル(MLU-202, Bühler, Uzwil, Switzerland)により製粉し,製粉特性を調査した.製粉歩留は次の式により算出した.製粉歩留=(小麦粉重量)/(小麦粉重量+ふすま重量)× 100.また,ミリングスコアは次の式により算出した.ミリングスコア={(80-製粉歩留)+50(ストレート粉灰分-0.30)}.

5. 小麦粉品質評価試験

上述のビューラーテストミル製粉試験で得られる6種類の小麦粉画分について,ふすまの混入が少ない上級画‍分‍から順に,得られた粉の合計に対して60%となるよ‍うに混合したサンプル(60%粉)を調整し,試験に供試した.60%粉の蛋白質含有率および灰分含有率は,近赤外分析装置IM9500(Perten Instruments)により分析した.粒度は粒度分布測定装置Helos & Rodos(Sympatec, Clausthal-Zellerfeld, Germany)で測定し,測定した粒径の中央値を平均粒度として示した.SDS沈降量はTakata et ‍al.(1999)の方法に準じて行った.アミロース含有率は「農林61号」と「チクゴイズミ」を標準として使用した.小麦粉100 mgを試験管に入れ,エタノール0.5 mLを加えて攪拌した後,0.5 N NaOHを加えて再び攪拌し,‍小麦粉を分散させたサンプルを用いて,オートアナライザーAutoAnalyzer II(BL TEC K.K., Osaka, Japan)により測定した.粉色は色彩色差計CM-3500d(KONICA MINOLTA, Tokyo, Japan)を用いて,c光源,2°視野の条件下で,小麦粉6 gに蒸留水10 mLを加えて作成した小‍麦‍粉ペーストのL*(明度),a*(赤み),b*(黄色み)を測定した.糊化特性はラピッドビスコアナライザーRVA-TecMaster(Newport Scientific, CA, USA)を用いて測定した.3.5 gの小麦粉に25 mLの蒸留水を加えて懸濁液を作り,これを50°Cから95°Cまで7.5°C/分の速度で加‍熱した後,95°Cで4分間保持し,その後11.25°C/分の速度で冷却して,最高粘度,ブレークダウン,セットバックを分析した.生地物性はdoughLAB(Perten Instruments)を用いて,一定の固さになるまでこね,さらにこね続けたときの固さの変化から,吸水率,生地形成時間,生地の安定度,生地の弱化度を測定し,生地形成時間と弱化度からバロリメーターバリューを求めた.

6. 製パン試験

製パン試験は60%粉を用いてストレート法により実施した(日本イースト工業会1990).製パン配合は,60%粉100 g(13.5%水分換算),グラニュー糖5 g,食塩2 g,ドライイースト1.5 g,ショートニング5 g,アスコルビン酸0.003 g,加水量はdoughLabの吸水率をもとにした適量とした.ミキシングはピン型ミキサー(マイクロミキサー,National, MI, USA),発酵は小型ベーカリシステム(NS-D288CRA-A, National, Osaka, Japan),成形はミニモルダー(KM6002MB, Kotobuki Baking Machine, Osaka, Japan),焼成は電気オーブン(TMD-8, TOKURA, Shiga, Japan)により実施し,加水率,混捏時間,パン容積,パン重量を計測した.パン評価は4~6名のパネルによって,日本イースト工業会のパン用酵母試験法(1990)に準じた官能評価で行った.パン評価点の配点は比容積点30点,官能評価点70点とした.比容積点は6.0を30点として0.1減るごとに1点を減じた.官能評価点は1CWの配点を8割とした時の相対評価とした.

7. 遺伝子型分析

各品種の種子からDNAを酢酸カリウム法(Dellaporta et al. 1983)により抽出し,PCR法による遺伝子型分析に供試した.Pina-D1aとPinb-D1bはGiroux et al.(1998),Pinb-D1cはLillemo and Morris(2000)の方法により判別した.WX-A1,WX-B1,WX-D1遺伝子型はNakamura et al.(2002)の方法により判別した.VRN1遺伝子型はYan et al.(2004)およびMilec et al.(2012),Zhang et al.(2012)の方法に従い判別した.GLU-A1,GLU-B1,GLU-D1遺伝子型については,Singh et al.(1991)の方法に従って,粉砕した種子からグルテニンを抽出し,SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により判別した.また,GLU-A3,GLU-B3,GLU-D3遺伝子型はIkeda et al.(2006)の方法により,SDS-PAGEと2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(IEF x SDS-PAGE)により判別した.

8. 兵庫県における現地試験

現地試験は,兵庫県たつの市揖西町において「たつきらり」および「ゆめちから」を供試し,2020~2022年度の3か年実施した.いずれの播種年も条間25 cmのドリル播栽培,播種量7 kg/10 aで11月上旬に播種した.施肥は,窒素成分で基肥6.6 kg/10 a,追肥14.7 kg/10 a,開花期追肥2.3 kg/10 aを施用した.追肥については,窒素成分で分げつ肥4.2 kg/ 10 a,穂肥4.2 kg/10 a,実肥6.3 kg/10 aの3回に分けて硫安(21-0-0)により施用した.試験圃場の出穂期,成熟期を調査するとともに,穂揃い期に稈長,穂長,穂数を調査した.「たつきらり」は6月中旬,「ゆめちから」は6月下旬の適期に収穫し,収穫後に全刈り収量および原粒蛋白質含有率を調査した.

9. 醤油醸造試験

醤油醸造試験には2021年に兵庫県たつの市内2か所(揖西町および神岡町)で栽培した収穫物を供試した.原料分析(全窒素,全糖,水分)はしょうゆ試験法(しょうゆ試験法編集委員会1985)に準じて測定し,12%水分換算値を算出した.酵素活性について,グルタミナーゼ活性はしょうゆ試験法(しょうゆ試験法編集委員会1985),アルカリプロテアーゼは舘ら(2003)の方法に準じて測定した.各成分値について,色度は光路長3 mmセルを用いた530 nmの吸光度により,全窒素は燃焼法により,窒素溶解利用率などはしょうゆ試験法(しょうゆ試験法編集委員会1985)に準じて測定した.小仕込試験は安井(1991)の方法に従い,次のように行った.蒸煮した丸大豆1155 gと焙炒,割砕した小麦約450 gを用いて,定法によりフタ麹を作製した.小麦の配合量は「ゆめちから」の全窒素値に合わせて,他の小麦の配合量を調整した.5 L容広口ガラス瓶に作製した麹を入れ,Brix値22.7の塩水を2400 mL,全糖,食塩分,水分量が同じになるように粉砕米,食塩,水道水を添加し,諸味とした.小仕込試験で得られた諸味を搾って作製した生揚げ醤油を製品成分に調整し,85°C達温で火入れを行い,珪藻土ろ過により清澄化した後,官能評価に供した.官能評価は公認醤油官能検査員の資格を有するヒガシマル醬油株式会社研究所員8名をパネルとし,「醤油香・熟成香・エステル香・華やかさ・アルコール香」の5項目について,感じない:0点,感じる:1点,よく感じる:2点で評価し,平均点を算出した.また,香り・味の総合評価として,悪い:1点~良い:5点の5段階で評価し,平均点を算出した.

10. 統計解析

統計解析にはR version 4.3.2を使用した(R core team 2023).出穂期,稈長,収量,容積重などの連続変数データにはパラメトリック検定であるTukey-Kramer’s HSDによる多重比較あるいはt-検定を用い解析を行った.倒伏や製パン評価点などの離散変数データにはノンパラメトリック検定であるSteel-Dwass’s test用い解析を行った.

結果

1. 形態的・生態的特性

「たつきらり」と「せときらら」および「ミナミノカオリ」の株・穂・粒の形態を図2に,2016年~2022年の育成地での広幅条播栽培による生育特性を表1に示す.「たつきらり」の出穂期は「せときらら」および「ミナミノカオリ」と比較し有意な差は認められなかった.成熟期についても3品種には有意な差は認められなかった.稈長は「せときらら」より有意に短く,穂長も「せときらら」および「ミナミノカオリ」より有意に短かった.穂数は他の2品種と比較し有意な差は認められなかった.倒伏程度,うどんこ病,赤さび病,赤かび病については,年次や品種によって発生がみられたが,いずれも有意な差は認められなかった.収量は年次によって変動し,「たつきらり」は収量平均で他の2品種と比較し有意な差は認められなかった.また,容積重および千粒重についても3品種で有意な差は認められなかった.外観品質は「せときらら」および「ミナミノカオリ」と比較し有意な差は認められなかった.蛋白質含有率は「せときらら」より有意に約1ポイント高かった.

図2. 「たつきらり」(左),「せときらら」(中),「ミナミノカオリ」(右)の形態特性の比較.A:株,B:穂,C:粒.
表1.

育成地における生産力検定試験(広幅条播栽培)による「たつきらり」の生育特性

播種
年度
品種名 出穂期 成熟期 稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本/m2)
倒伏
程度2)
うどんこ
病‍2)
赤さび
病‍2)
赤かび
病‍2)
収量
(kg/a)
ミナミノ
カオリ
対比
(%)
容積重
(g/L)
千粒重
(g)
外観
品質‍3)
原粒
蛋白質
含有率
(%)
(月.‍日) 播種日
からの
積算日数‍1)
(月.‍日) 播種日
からの
積算日数
2016 たつきらり 4.12 146 6.02 197 85 7.1 510 0.0 0.0 0.0 0.0 58.1 127 841 39.9 5.0 11.5
せときらら 4.11 145 6.02 197 90 9.0 416 0.0 0.0 0.0 0.0 62.8 137 843 40.4 5.0 10.5
ミナミノカオリ 4.15 149 6.03 198 82 7.8 410 0.0 0.0 0.0 0.0 45.8 100 835 40.8 5.0 12.1
2017 たつきらり 4.18 148 6.05 196 74 6.9 387 0.0 0.0 0.0 0.0 51.9 122 830 42.4 6.0 13.1
せときらら 4.17 147 6.05 196 84 8.2 333 0.0 0.0 0.0 0.0 51.2 120 831 44.0 5.3 12.5
ミナミノカオリ 4.19 149 6.06 197 76 8.0 310 0.0 0.0 0.0 0.0 42.5 100 826 41.5 6.0 13.7
2018 たつきらり 4.12 143 6.04 196 88 8.0 452 0.0 0.0 0.0 0.0 49.2 97 835 37.5 5.5 13.3
せときらら 4.10 141 6.03 195 97 9.9 435 0.0 0.0 0.0 0.0 62.7 123 851 40.6 5.0 11.9
ミナミノカオリ 4.16 147 6.05 197 91 8.9 368 0.0 0.0 0.0 0.0 50.9 100 838 40.2 6.0 14.0
2019 たつきらり 4.06 138 6.02 195 91 7.6 513 0.0 0.0 0.0 0.0 61.1 104 853 39.1 5.8 13.0
せときらら 4.04 136 6.02 195 95 8.6 439 0.0 0.0 0.0 0.0 63.2 107 855 42.4 5.0 12.0
ミナミノカオリ 4.10 142 6.03 196 88 7.6 420 0.0 0.0 0.0 0.0 58.9 100 843 40.6 6.0 12.9
2020 たつきらり 4.04 138 5.30 194 84 7.6 449 0.0 1.8 0.0 0.0 60.0 110 844 41.3 5.5 12.5
せときらら 4.02 136 5.30 194 95 8.6 418 0.0 0.3 0.0 0.3 57.2 105 839 41.5 5.0 12.1
ミナミノカオリ 4.05 139 5.30 194 88 7.9 388 0.0 0.0 0.0 0.0 54.4 100 840 44.0 6.0 12.6
2021 たつきらり 4.10 146 5.30 196 82 7.7 596 0.0 0.0 1.0 0.0 62.7 111 832 41.0 5.0 13.3
せときらら 4.07 143 5.28 194 90 9.3 550 1.0 0.0 1.0 0.0 67.2 119 837 42.0 5.0 11.5
ミナミノカオリ 4.11 147 5.31 197 88 8.6 509 0.0 0.0 0.7 0.0 56.4 100 829 44.6 6.0 13.5
2022 たつきらり 4.07 143 6.03 200 87 7.5 555 0.0 2.7 0.0 0.0 58.3 102 809 35.9 6.0 12.6
せときらら 4.04 140 6.01 198 93 8.8 480 0.7 2.0 0.0 0.0 54.5 95 823 40.3 5.7 11.8
ミナミノカオリ 4.06 142 6.04 201 90 8.6 514 0.0 1.3 0.0 0.0 57.2 100 802 40.4 6.5 13.4
平均 たつきらり 4.09 143 6.02 197 84 b 7.5 c 494 0.0 0.6 0.1 0.0 57.3 110 835 39.6 5.5 ab 12.8 a
せときらら 4.07 141 n.s.4) 6.01 196 n.s. 92 a 8.9 a 439 n.s. 0.2 n.s. 0.3 n.s. 0.1 n.s. 0.0 n.s. 59.8 n.s. 115 840 n.s. 41.6 n.s. 5.1 b 11.8 b
ミナミノカオリ 4.11 145 6.02 197 86 ab 8.2 b 417 0.0 0.2 0.1 0.0 52.3 100 830 41.7 5.9 a 13.2 a

1) 出穂期および成熟期は播種日からの積算日数をTukey-Kramer’s HSDに使用した.

2) 倒伏程度,うどんこ病,赤さび病,赤かび病の発生程度は0(無)~5(甚)の6段階で評価した.

3) 外観品質は1(上上)~5(中中)~9(下下)の9段階で評価した.

4) 平均値の異なるアルファベットはTukey-Kramer’s HSDあるいはSteel-Dwass’s testにより5%水準で有意差があることを示し,n.s.は有意差がないことを示す(倒伏程度,うどんこ病,赤さび病,赤かび病,外観品質はSteel-Dwass’s test,それ以外の形質はTukey-Kramer’s HSDにより検定).

2016年~2018年および2021年~2022年の育成地でのドリル播栽培による生育特性を表2に示す.ドリル播栽培においても「たつきらり」は広幅条播栽培とほぼ同様の特性を示した.ドリル播栽培においては,稈長は「せときらら」および「ミナミノカオリ」と比較し有意な差は認められなかった.また,千粒重が「せときらら」および「ミナミノカオリ」より有意に小さかった.蛋白質含有率については,2021年度の「せときらら」が高く,平均では有意な差は認められなかった.

表2.

育成地における生産力検定試験(ドリル播栽培)による「たつきらり」の生育特性

播種年度 品種名 出穂期 成熟期 稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本/m2)
倒伏
程度2)
うどんこ
病2)
赤さび
病2)
赤かび
病2)
収量
(kg/a)
ミナミノカオリ
対比
(%)
容積重
(g/L)
千粒重
(g)
外観
品質3)
原粒
蛋白質
含有率
(%)
(月.日) 播種日
からの
積算日数‍1)
(月.日) 播種日
からの
積算日数
2016 たつきらり 4.12 146 6.01 196 75 7.6 401 0.0 0.0 0.0 0.0 52.8 112 836 36.9 5.0 10.4
せときらら 4.11 145 6.02 197 83 8.7 342 0.0 0.0 0.0 0.0 54.6 116 836 40.3 5.0 10.0
ミナミノカオリ 4.15 149 6.03 198 77 8.1 333 0.0 0.0 0.0 0.0 47.0 100 836 40.5 5.7 11.0
2017 たつきらり 4.19 149 6.05 196 62 6.8 305 0.0 0.0 0.0 1.0 47.5 106 831 40.2 5.5 13.4
せときらら 4.18 148 6.05 196 76 8.3 292 0.0 0.0 0.0 1.2 45.2 100 826 44.5 5.7 13.1
ミナミノカオリ 4.20 150 6.08 199 74 8.3 321 0.0 0.0 0.0 0.7 45.0 100 830 42.8 6.0 13.7
2018 たつきらり 4.12 144 6.03 196 87 8.1 483 0.0 0.0 0.0 0.0 57.2 99 836 38.4 5.8 13.6
せときらら 4.09 141 6.02 195 97 9.9 447 0.0 0.0 0.0 0.0 67.9 118 849 40.0 5.0 12.0
ミナミノカオリ 4.13 145 6.04 197 90 8.8 410 0.0 0.0 0.0 0.0 57.6 100 836 40.6 5.7 13.4
2021 たつきらり 4.10 146 5.31 197 81 7.8 512 0.0 0.0 0.0 0.0 66.0 120 840 40.6 5.0 12.1
せときらら 4.08 144 5.30 196 89 9.2 497 1.6 0.0 0.5 0.0 71.4 130 827 42.9 5.0 14.4
ミナミノカオリ 4.12 148 6.03 200 87 9.0 392 0.0 0.0 0.0 0.0 55.0 100 827 43.4 6.0 13.6
2022 たつきらり 4.06 142 6.02 199 84 7.7 476 0.0 2.0 0.0 0.0 64.7 102 819 37.2 6.0 12.1
せときらら 4.04 140 5.31 197 96 9.1 430 2.3 1.0 0.0 0.0 73.2 115 826 44.3 5.8 11.8
ミナミノカオリ 4.07 143 6.04 201 90 8.4 461 0.0 2.8 0.0 0.0 63.7 100 802 43.2 6.5 13.8
平均 たつきらり 4.13 145 6.02 197 78 7.6 b 435 0.0 0.4 0.0 0.2 57.6 108 832 38.6 b 5.5 12.3
せときらら 4.12 144 n.s.4) 6.01 196 n.s. 88 n.s. 9.1 a 402 n.s. 0.8 n.s. 0.2 n.s. 0.1 n.s. 0.2 n.s. 62.5 n.s. 116 833 n.s. 42.4 a 5.3 n.s. 12.3 n.s.
ミナミノカオリ 4.15 147 6.04 199 84 8.5 a 383 0.0 0.6 0.0 0.1 53.7 100 826 42.1 a 6.0 13.1

1) 出穂期および成熟期は播種日からの積算日数をTukey-Kramer’s HSDに使用した.

2) 倒伏程度,うどんこ病,赤さび病,赤かび病の発生程度は0(無)~5(甚)の6段階で評価した.

3) 外観品質は1(上上)~5(中中)~9(下下)の9段階で評価した.

4) 平均値の異なるアルファベットはTukey-Kramer’s HSDあるいはSteel-Dwass’s testにより5%水準で有意差があることを示し,n.s.は有意差がないことを示す(倒伏程度,うどんこ病,赤さび病,赤かび病,外観品質はSteel-Dwass’s test,それ以外の形質はTukey-Kramer’s HSDにより検定).

2. 病害抵抗性・穂発芽耐性・播性

「たつきらり」の穂発芽耐性および各種病害抵抗性,播性を表3に示す.「たつきらり」の穂発芽耐性は“難”で,西日本地域で栽培されている主要品種と比較して優れていた.赤かび病抵抗性は“中”で,主要品種と同程度の抵抗性であった.赤さび病およびうどんこ病抵抗性は“弱”で,主要品種と比較して劣った.コムギ縞萎縮病I型抵抗性は“強”で,「ミナミノカオリ」と同程度の優れた抵抗性を示した.播性はIVで,秋播性であると判定された.

表3.

「たつきらり」の穂発芽耐性および病害耐性,播性1)

品種名 穂発芽 赤かび病 赤さび病 うどんこ病 コムギ縞萎縮病I型 播性
たつきらり 難 中 弱 弱 強 IV
せときらら 中 中 やや弱 中 ― I
ミナミノカオリ 易 中 中 強 強 I
シロガネコムギ やや易 中 やや弱 中 中 II
農林61号 中 中 中 やや強 やや弱 II

1) 2014~2022年の期間で3~9年実施した検定結果から総合判定した.

3. 原粒品質特性,製粉特性および60%粉品質特性

「たつきらり」の原粒品質特性,製粉特性および60%粉品質特性を表4に示す.原粒品質特性について,「たつきらり」の原粒蛋白質含有率は「せときらら」より有意に高かった.原粒灰分含有率は「ミナミノカオリ」より有意に低かった.製粉特性については,製粉歩留およびミリングスコアのいずれも「せときらら」より有意に低かった.60%粉品質特性について,60%粉蛋白質含有率は原粒蛋白質含有率と同様に「せときらら」より有意に高かった.60%粉灰分含有率は原粒灰分含有率とは異なり,品種銘柄間で有意な差は認められなかった.平均粒度は「ミナミノカオリ」より有意に高かった.蛋白質の量と質の指標であるSDS沈降量は「ミナミノカオリ」よりは有意に低いが,「せときらら」や1CWよりも有意に高かった.アミロース含有率は「せときらら」より有意に高かった.また,RVAによる糊化特性の分析では,「せときらら」と比較して,最高粘度,ブレークダウンは有意に低く,セットバックは有意に高く,「ミナミノカオリ」と同様の糊化特性を示した.アミロース含有率およびRVAの糊化特性から,「たつきらり」は「ミナミノカオリ」と同様の通常アミロースタイプであると判定された.色相についてはL*値およびa*値では品種銘柄間に有意な差は認められなかったが,黄色みを示すb*値は「せときらら」より有意に低かった.ドウラボによる生地物性の分析では,吸水率は品種銘柄間で有意な差は認められなかった.生地形成時間は品種銘柄間で有意差があり,「たつきらり」が有意に長かった.また,安定度については,「せときらら」および「ミナミノカオリ」よりも有意に長かった.弱化度は,「せときらら」および「ミナミノカオリ」よりも有意に低かった.バロリメーターバリューは,「せときらら」および「ミナミノカオリ」と比較し有意に高かった.

表4.

「たつきらり」の品質特性評価1)

品種名
銘柄名
原粒 製粉 60%粉
蛋白質
含有率(%)
灰分
含有率(%)
製粉歩留
(%)
ミリング
スコア
蛋白質
含有率(%)
灰分
含有率(%)
平均粒度
(μm)
SDS
沈降量
(mL)
アミロース含有率(%) 色相
L* a* b*
たつきらり 12.8 a2) 1.54 b 69.2 b 81.8 b 11.7 b 0.44 n.s. 71 a 75 b 25.8 a 89.5 n.s. −1.26 n.s. 13.5 bc
せときらら 11.8 b 1.52 b 71.9 a 86.0 a 10.6 c 0.41 73 a 54 d 22.6 c 89.6 −1.42 14.3 a
ミナミノカオリ 13.1 a 1.69 a 69.8 b 82.7 ab 11.7 b 0.43 58 b 84 a 26.2 a 89.8 −1.27 13.0 c
1CW 13.8 a 1.54 b 71.3 a 84.4 ab 13.0 a 0.42 73 a 64 c 24.0 b 89.3 −1.15 13.7 b
品種名
銘柄名
糊化特性(RVA) 生地特性(doughLAB)
最高粘度(RVU) ブレークダウン(RVU) セットバック(RVU) 吸水率
(%)
生地形成時間(分) 安定度
(分)
弱化度
(BU)
バロリメーターバリュー
たつきらり 186 b 66 c 136 a 64.3 n.s. 17.2 a 28.7 a 19 c 92 a
せときらら 245 a 129 a 119 b 62.7 6.3 b 15.5 b 54 ab 66 b
ミナミノカオリ 171 b 61 c 134 a 62.4 7.2 b 13.3 b 72 a 67 b
1CW 171 b 88 b 96 c 62.5 11.2 b 23.9 a 35 bc 82 a

1) 育成地における生産力検定試験(条播栽培)生産物を用いた2016~2021年の平均値を示す.

2) 平均値の異なるアルファベットはTukey-Kramer’s HSDにより5%水準で有意差があることを示し,n.s.は有意差がないことを示す.

4. 製パン適性

「たつきらり」の育成地での製パン試験結果を表5に示す.「たつきらり」の製パン時の加水率および混捏時間は他と比べてそれぞれ有意に高く,有意に長かった.「たつきらり」のパン容積および比容積は,1CWより有意に小さく,「せときらら」および「ミナミノカオリ」とは有意な差は認められなかった.パン評価では,焼色のみ1CWより有意に低かった.その他の項目では,1CWとの有意な差は認められなかった.「せときらら」および「ミナミノカオリ」とはいずれの項目においても有意な差は認められなかった.パンの合計評価点は,1CWより有意に低かったが,「せときらら」よりも有意に高いため,国内品種と同等以上の優れた製パン性を有すると考えられた.

表5.

「たつきらり」の製パン適性評価1)

品種名
銘柄名
加水率
(%)
混捏
時間
(分:秒)
パン
容積
(mL)
比容積
(mL/g)
外観 内相 合計
100
比容積 焼色 形均整 皮質 すだち 色相 触感 香り 味
303) 10 5 5 10 5 5 15 15
たつきらり 68.1 a2) 6:23 a 761 bc 5.2 bc 22 ab 7.4 b 3.6 ab 3.9 n.s. 7.4 ab 3.8 ab 4.0 n.s. 11.7 n.s. 11.6 n.s. 75.6 b
せときらら 65.8 b 4:00 bc 708 c 4.9 c 19 b 7.1 b 3.3 b 3.6 6.9 b 3.5 b 3.8 11.5 11.2 69.5 c
ミナミノカオリ 65.4 b 3:15 c 795 ab 5.5 ab 25 ab 7.4 ab 3.7 b 4.0 7.7 ab 3.9 ab 3.8 11.5 11.6 78.4 ab
1CW 66.3 b 4:09 b 839 a 5.8 a 28 a 8.1 a 4.0 a 4.0 8.0 a 4.0 a 4.0 12.0 12.0 84.4 a

1) 育成地における生産力検定試験(条播栽培)生産物を用いた2016~2021年の平均値を示す.

2) 平均値の異なるアルファベットはTukey-Kramer’s HSDあるいはSteel-Dwass’s testにより5%水準で有意差があることを示し,n.s.は有意差がないことを示す(パン外観および内相評価はSteel-Dwass’s test,それ以外の形質はTukey-Kramer’s HSDにより検定).

3) 比容積評価点,外観の評価点,内相の評価点の各項目の下の数値は評価点の配点を示す.

5. 品質関連遺伝子型

コムギの品質関連遺伝子について,「たつきらり」,「せときらら」,「ミナミノカオリ」の各遺伝子型を表6に示す.粒の硬軟質に関するPINA-D1およびPINB-D1遺伝子座について,「たつきらり」はPINB-D1遺伝子座に欠失型のPinb-D1cを持つ硬質コムギで「せときらら」と同じ遺伝子型であった.「たつきらり」の高分子量グルテニン遺伝子座の遺伝子型はそれぞれGlu-A1b,Glu-B1al,Glu-D1dであり,GLU-A1およびGLU-D1座の遺伝子型は「せときらら」と同じあったが,GLU-B1座の遺伝子型は「せときらら」および「ミナミノカオリ」のどちらとも異なっていた.また,低分子量グルテニン遺伝子座の遺伝子型はそれぞれGlu-A3c,Glu-B3d,Glu-D3bであり,GLU-A3座の遺伝子型は「せときらら」と同じGlu-A3cであったが,GLU-B3およびGLU-D3座の遺伝子型は「せときらら」および「ミナミノカオリ」のどちらとも異なっていた.「たつきらり」のアミロース合成遺伝子座の遺伝子型は,すべて野生型のWx-A1a,Wx-B1a,Wx-D1aであり,通常アミロース品種の「ミナミノカオリ」と同じ遺伝子型構成であった.この結果は,表4で示したアミロース含有率およびRVAの結果と矛盾はなかった.

表6.

「たつきらり」の品質関連遺伝子型

品種名 硬軟質遺伝子 高分子量グルテニン遺伝子 低分子量グルテニン遺伝子 アミロース合成遺伝子
PINA-D1 PINB-D1 GLU-A1 GLU-B1 GLU-D1 GLU-A3 GLU-B3 GLU-D3 WX-A1 WX-B1 WX-D1
たつきらり a c b al d c d b a a a
せときらら a c b b d c h a a b a
ミナミノカオリ a b a b f d i c a a a

6. 「たつきらり」および交配親のVRN1遺伝子型と播性

普通コムギにおいて播性を支配する鍵遺伝子座であるVRN1遺伝子(Pugsley 1971, 1972)について,「たつきらり」とその交配親である「中国160号」と「せときらら」の遺伝子型と,播性検定試験で判別した播性を表7に示す.「たつきらり」はVRN-D1座がVrn-D1aの春播型,「中国160号」はVRN-A1およびVRN-D1座がそれぞれVrn-A1aとVrn-D1aの春播型,「せときらら」はVRN-D1座がVrn-D1aの春播型であった.コムギでは春播性が顕性である.播性検定における「中国160号」と「せときらら」の播性はIの春播性で,播性と遺伝子型に矛盾がなかったが,「たつきらり」の播性はIVの秋播性で,播性と遺伝子型に矛盾が生じる結果であった.

表7.

「たつきらり」と交配両親のVRN1遺伝子型と播性

品種名 VRN1遺伝子 播性
VRN-A1 VRN-B1 VRN-D1
たつきらり vrn-A11) vrn-B1 Vrn-D1a IV
中国160号 Vrn-A1a vrn-B1 Vrn-D1a I
せときらら vrn-A1 vrn-B1 Vrn-D1a I

1) 「vrn」は秋播型,「Vrn」は春播型を示す.

7. 現地圃場における生育特性

兵庫県たつの市揖西町で実施した現地試験における「たつきらり」の生育特性を表8に示す.「たつきらり」は「ゆめちから」と比較し,出穂期が13日,収穫期が9日,有意に早かった.稈長は「ゆめちから」と有意な差は認められなかった.穂長は有意に短く,穂数は有意に多かった.収量は年次によって変動し,収量平均では「たつきらり」は「ゆめちから」と比較して有意な差は認められなかった.蛋白質含有率についても「ゆめちから」と有意な差は認められなかった.

表8.

兵庫県現地圃場(たつの市揖西町)における「たつきらり」の生育特性

試験年度 品種名 出穂日 収穫日 稈長(cm) 穂長(cm) 穂数(本/m2) 収量
(kg/a)
ゆめちから対比
(%)
原粒蛋白質含有率
(%)
(月.日) 播種日からの積算日数1) 収穫日(月.日) 播種日からの積算日数
2020 たつきらり 4.08 153 6.09 215 84 7.4 540 46.1 94 15.4
ゆめちから 4.19 163 6.20 225 80 10.4 372 49.3 100 17.2
2021 たつきらり 4.10 155 6.09 215 80 7.7 514 50.4 115 15.0
ゆめちから 4.24 169 6.18 224 79 9.3 366 44.0 100 16.1
2022 たつきらり 4.08 153 6.08 214 83 6.7 457 57.7 111 13.6
ゆめちから 4.21 166 6.17 223 81 10.7 410 51.9 100 15.0
平均 たつきらり 4.08 153 6.09 215 83 7.3 504 51.4 106 14.7
ゆめちから 4.21 166 6.18 224 80 10.1 383 48.4 100 16.1
t-検定2) ** ** n.s. ** * n.s. n.s.

1) 出穂日および収穫日は播種日からの積算日数をt-検定に使用した.

2) **および*は,t-検定により品種間にそれぞれ1%および5%水準で有意差があることを示し,n.s.はt-検定により品種間に有意差がないことを示す.

8. 醤油醸造適性

「たつきらり」の醤油醸造適性評価結果を表9に示す.原料評価では「たつきらり」は「ゆめちから」と比較し,いずれの生産地においても同等の全窒素・全糖成分を有していた.グルタミナーゼ活性およびアルカリプロテアーゼ活性は,いずれも製麹特性の指標となり,数値が高い方が良い.「たつきらり」は「ゆめちから」と比較し若干数値の差はあるものの同程度の酵素活性を示し,同等の製麹特性を持つと評価された.小仕込試験についても,「たつきらり」は「ゆめちから」と同等の特性を持つと評価された.全窒素当たりの色度は,酵母添加前と汲出し前工程の諸味を清澄ろ過した液の「色の濃淡」を示す.淡口醤油としての適性を確認しているため,値が小さく色が淡い方が良い.「たつきらり」は「ゆめちから」と同等の数値を示し,良好であった.アルコール含有量は,醸造により適正なアルコール量を生成しているかを確認する指標である.「たつきらり」は「ゆめちから」と同等のアルコール含有量で,適正であった.全窒素量は液体部に溶出した全窒素量を示す.全窒素量はうまみの指標であり,値が高い方が良い.また,諸味窒素溶解利用率は仕込時の原料窒素成分をどれだけ醤油として利用できたかを示す指標で,値が高い方が効率的に原料成分を利用できたことを示し,良い.「たつきらり」は全窒素量・諸味窒素溶解利用率ともに「ゆめちから」と同等の値を示した.醤油の官能評価では,各項目で違いがみられるものの,「たつきらり」は香りと味ともに総合評価が「ゆめちから」と同等の3点以上であり,醤油醸造用途として問題がないと評価された.これらの結果から,「たつきらり」は原料,仕込・醸造,醤油の品質のそれぞれで「ゆめちから」と同等であり,淡口醤油醸造の適性を有していると判断できる.

表9.

「たつきらり」の醤油醸造適性評価

評価項目 たつきらり ゆめちから
たつの市揖西町 たつの市神岡町 対照
原料 全窒素(%) 2.52 2.38 2.41
全糖(%) 66.6 67.5 67.8
判定 対照品種と同等
製麹特性 グルタミナーゼ活性(U/g麹) 0.22 0.23 0.17
アルカリプロテアーゼ活性(nkat/g麹) 13.1 13.1 14.4
小仕込試験 全窒素当たりの色度(Col/TN)
酵母添加前 0.29 0.27 0.33
汲出し前 0.70 0.67 0.70
アルコール含有量 汲出し前(g/100 ml) 2.88 2.85 2.87
全窒素量 汲出し前(g/100 ml) 1.645 1.681 1.604
諸味窒素溶解利用率(%) 89.6 90.1 89.2
判定 対照品種と同等
醤油官能評価試験
醤油香1) 0.75 0.29 0.32
熟成香 0.13 0.14 0.13
エステル香 0.38 0.57 0.80
華やかさ 0.25 0.29 0.54
アルコール香 0.13 0.14 0.13
香り総合評価2) 3.13 3.14 3.25
味評価 3.14 3.25 3.26
判定 対照品種と同等

1) 醤油香・熟成香・エステル香・華やかさ・アルコール香の5項目について8名のパネルが,感じない:0点,感じる:1点,よく感じる:2点で評価し,平均点を算出した.

2) 香り・味の総合評価について8名のパネルが,悪い:1点~良い:5点の5段階で評価し,平均点を算出した.

考察

「たつきらり」は兵庫県で醸造用・製パン用として栽培されている「ゆめちから」と比較して,2週間程度早く出穂し,10日程度早く成熟するため(表8),収穫時期が早い.兵庫県において「ゆめちから」を醸造用用途として栽培する地域では,輪作体系としてコムギ栽培後に,醸造用原料のダイズ栽培を行う(猪澤 2022).早生品種「たつきらり」の導入によりコムギの収穫作業を早く完了させることが可能で,ダイズの播種作業に時間的ゆとりが生じ,適期かつ土壌水分などが適した圃場条件下でダイズ播種を実施できる可能性が高まることから,ダイズの多収化・高品質化も期待できる.また,早生品種「たつきらり」と晩生品種「ゆめちから」の2品種を作付することにより,追肥や収穫などの作業が分散され.異常気象に伴う栽培上のリスクや作業集中を減らすことができ,生産者の負担軽減や醸造用原料の安定確保につながると考えられる.

「たつきらり」と同じ製パン用・醸造用の品種として,大分県において普及している「はるみずき」(高田ら 2020)がある.兵庫県現地圃場において2020年~2021年の2か年,「はるみずき」と「たつきらり」の栽培試験を実施したところ,いずれの試験年次においても「はるみずき」の収量は「たつきらり」よりも1割程度低かった(データ省略).また,「たつきらり」栽培予定地では暖冬年に発生する幼穂の凍霜害の発生が懸念されるため,春播性の「はるみずき」よりも秋播性の「たつきらり」の方が安定栽培に有利であると考えられた.これらの結果から,兵庫県においては「はるみずき」よりも「たつきらり」の方が栽培に適していると判断された.

病害・障害耐性について,「たつきらり」は赤さび病およびうどんこ病抵抗性が“弱”で,主要品種と比較し劣るため,発生状況に応じて薬剤防除を行う必要がある.穂発芽耐性は“難”であり,西日本地域で栽培されている主要品種と比較し優れた耐性を持つ(表3).さらに,コムギ縞萎縮病抵抗性については西日本で主に発生しているI型に対して,優れた抵抗性を示す(表3).コムギ縞萎縮病抵抗性については,これまでに2AS,2DL,3BS,5AL,6DS染色体上に抵抗性QTLが同定されている(Kawaguchi et al. 2024, Kobayashi et al. 2019, Suzuki et al. 2015, Yamashita et al. 2020, Zhu et al. 2012).このうち,2DLのQ.Ymymおよび5ALのQYm.njau-5A.1は,I型に対して抵抗性を示すと報告されている(Kojima et al. 2019).Q.YmymのDNAマーカー(Kobayashi et al. 2019)を用いて解析したところ,「たつきらり」はQ.Ymymを持たなかった.一方,QYm.njau-5A.1の近傍マーカーであるXwmc415(Somers and Isaac 2004)の遺伝子型は「たつきらり」で抵抗型を示した(データ略).Kojima et al.(2019)は,国内コムギ165品種・系統のうち,78品種・系統はQYm.njau-5A.1のハプロタイプを持ち,その中には「アサカゼコムギ」が含まれると報告している.「たつきらり」の系譜上に「アサカゼコムギ」にGlu-D1dを導入した準同質遺伝子系統がある(図1).これらの結果から,「たつきらり」は「アサカゼコムギ」に由来するQYm.njau-5A.1を持つために優れたコムギ縞萎縮病I型抵抗性を示すと考えられた.

「たつきらり」は60%粉蛋白質含有率が1CWよりも低いものの,SDS沈降量およびドウラボの生地形成時間や安定度,バロリメーターバリューは1CWに近い値を示し,供試品種の中では最も高い値を示した(表4).このことから,「たつきらり」の生地物性は西日本地域の主要なパン用品種である「せときらら」や「ミナミノカオリ」より強いと考えられた.生地物性はグルテニン遺伝子型の影響を受けることが知られている.「たつきらり」のグルテニン遺伝子座の遺伝子型は,GLU-B1,GLU-D1,GLU-B3の各遺伝子座においてそれぞれGlu-B1al,Glu-D1d,Glu-B3dを持っていた(表6).Glu-B1alはグルテニンサブユニットBx7を高発現するアレルであり,生地物性を強くすることが報告されている(D’‍Ovidio et al. 1997, Ragupathy et al. 2008).また,Glu-D1dは他のアレルに比べて生地物性を強くし,製パン性を向上させることが知られている(Campbell et al. 1987, Cressey et al. 1987, Guzmán et al. 2022, Lagudah et al. 1987, Payne et al. 1981).Glu-B3dについても,生地物性を強め,パン容積を大きくする効果があること報告されている(Guzmán et al. 2022).「たつきらり」はこれらの生地物性を強くするグルテニン遺伝子型を持つため,「せときらら」や「ミナミノカオリ」よりも強い超強力的な生地物性を示すと考えられた.また,「たつきらり」は製パン性を向上させる強い生地物性に加え,高蛋白質含有率であることにより,「せときらら」よりも高い製パン適性(表5)を示すと考えられた.

「たつきらり」は播性IVの秋播性を示すが,VRN1遺伝子型の構成は春播性の「せときらら」と同じであり,播性とVRN1遺伝子型に矛盾が生じる結果となった(表7).普通コムギにおいて播性を支配する鍵遺伝子座として,VRN-A1,VRN-B1,VRN-D1,VRN-D4が報告されている(Pugsley 1971, 1972).このうち,VRN-D4は5A染色体長腕のvrn-A1が5D染色体短腕に挿入した変異に由来する遺伝子座(Kippes et al. 2015)で,インド,ネパール,パキスタンなどの南アジア地域の品種が保有する遺伝子座である(Iwaki et al. 2001).「たつきらり」の系譜(図1)には,南アジアに由来する品種は確認されないことから,VRN-D4座はこの矛盾には関与していないと考えられる.「たつきらり」で春播型を示す遺伝子座はVRN-D1である(表7).Zhang et al.(2012)はVRN-D1座のアレルとして,秋播型のvrn-D1と第1イントロンに欠失があり春播型のVrn-D1aに加え,Vrn-D1aプロモーター領域のCArG-boxに一塩基置換があるVrn-D1bを報告している.Vrn-D1bは秋播型の中でもFacultative型と呼ばれる播性IVを示し,西日本地域で栽培されている品種においても確認されるアレルである.「たつきらり」は播性IVを示すものの,Vrn-D1bが持つ一塩基置換は検出されなかった.また,「たつきらり」と同じ遺伝子型構成を持つ春播性の中系14-14と「たつきらり」を交配したF2集団148個体の播性を確認したところ,春播性:秋播性が115: 33に分離し,カイ二乗検定により3:1の分離比に適合(p = 0.447)した.これらの結果から,「たつきらり」の秋播性はVRN-D1に存在し,これまでのPCRでは検出されない未知のFacultative型アレルが原因である可能性が考えられた.「たつきらり」の持つ秋播性の原因を明らかにするためには,プロモーター領域を含むVrn-D1座の解析が必要であると考えられた.

「たつきらり」は西日本地域に適した栽培性を持ち,かつ蛋白質含有率が高く製パン性・醤油醸造適性に優れる新品種で,春先に幼穂が凍霜害を受けるリスクが少ない秋播性を有する.また,短稈で倒伏に強い.「せときらら」より原粒の蛋白質含有率が高く,小麦粉生地物性が強いため,製パンの評価が「せときらら」より優れる.デンプンの特性は「せときらら」とは異なる通常アミロースタイプである.醤油醸造適性は現在兵庫県で栽培されている「ゆめちから」と同等で,醤油の格付けを決める全窒素の値も製品として十分に高く,淡口醤油醸造の適性を有すると評価された.製パン用・醤油醸造用品種として,兵庫県を中心に普及し,淡口醤油醸造をはじめとする地域産業に貢献することが期待される.

謝辞

「たつきらり」の育成にあたり,栽培管理・品質試験に携わった農研機構西日本農業研究センターの技術支援センター職員および契約職員各位に深く感謝の意を表する.また,本論文執筆にあたり適切なご助言を頂いた農研機構西日本農業研究センターの岩井正志農業技術コミュニケーターに深く感謝の意を表する.本研究の一部はヒガシマル醬油株式会社により資金提供を受け実施した.

引用文献
 
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