抄録
水稲は登熟期に高温に遭遇すると背白米,基白米および乳白米が多発し玄米品質が著しく低下する.本研究は,高温耐性品種育成のために登熟期の高温条件下における背白米および基白米発生の遺伝様式を明らかにすることを目的として行った.高温下での背白米,基白米発生率に顕著な差異がみられる「チヨニシキ」と「越路早生」を交配し,得られたF2,F3世代に高温処理をして背白米,基白米発生について統計遺伝学的解析を試みた.その結果,背白米と基白米発生率の変異分布は異なる遺伝様式を示した.背白米の発生が少ない性質は不完全優性であった.F2世代における背白米,基白米発生に関する狭義の遺伝率は背白米発生で0.350,基白米発生で0.259であり,固有遺伝率は背白米発生で0.536,基白米発生で0.411であった.したがって,これらの形質の改良には,世代を進めて遺伝率を高めてから高温下で発生の少ない系統を選抜する集団育種法が有効であるといえる.さらに背白米と基白米の発生率の間には正の遺伝相関が認められ,これらの形質は同時に改良することが可能であると推察された.また,千粒重,粒長および粒幅の違いが背白米および基白米の発生に及ぼす影響を調査したところ,背白米発生とこれらの形質の間に遺伝相関は認められなかったが,基白米発生と粒長および粒幅とには高い負の相関が認められた.以上のことから,高温下でも玄米品質が低下しにくい大粒品種を育成することが可能であると推察された.