育種学雑誌
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オオムギにおけるアジ化ナトリウムの突然変異誘起効果
長谷川 博井上 雅好
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1980 年 30 巻 1 号 p. 20-26

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抄録
オオムギ品種「ふじ二条」の気乾および浸漬種子にアジ化ナトリウム(NaN3)を処理し(10-4M~10-1M,2~18時間),突然変異誘起効果を明らかにするとともに,その作用機作についても若干の考察を行った。すべての処理溶液はKH2P04-HC1の緩衝液でpH3に調整した。気乾種子処理において,幼苗における処理障害の指標として処理後7目目における発芽率および草丈を調べた。アジ化ナトリウムの“dose"を「濃度」×「浸漬時間」より表わすと,発芽率については2~6×10“dose"においてshoulder partが認められる“dose"反応曲線が得られ,一方草丈についての“dose"反応曲線はshoulder partが不明瞭であった。気乾種子処理における葉緑突然変異の最高突然変異率はM1穂あたり約30%,M2個体あたり約10%であった。葉緑突然変異スペクトラムは白子(albina)47.8%,葉緑子(viridis)36.6%,その他15.6%であり,アルキル化物質よりもむしろ放射線によって誘起されるスペクトラムに似た傾向が認められた。また圃場形質の突然変異の大半は不稔または嬢性変異体であった。浸漬種子におけるアジ化ナトリウムの効果は12時間前浸漬区においてM1種子稔性が最低値(36.7%)を,M2葉緑突然変異率は最高値(M2個体あたり10.3%)を示した。オオムギの頂端分裂組織における発芽第1回目のDNA合成は約12時間目より開始されることを考えれば,本実験の結果はアジ化ナトリウムはS期に最も大きい効果を示す突然変異原であるというNILAN et al.(1976)の報告を支持するものである。圃場形質の突然変異は気乾種子処理の場合と同様,その大半は不稔および嬢性変異体であったが,嬢性変異体の出現は,調査した区(8~16時間前浸漬区)の範囲において,前浸漬時間の増加とともに相対出現頻度が著しく低下することが認められた。以上の結果から,アジ化ナトリウムはオオムギにおいて有効た突然変異原であると認められ,その効果はS期にもっとも大きいことが明らかになった。
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