抄録
イネの光合成能力に関与する重要な形質の一つである気孔開度に関して,突然変異系統における遺伝的変異の存在および遺伝様式は明らかにされていない. 本研究では,突然変異系統を用い,気孔開度に関する遺伝的変異の存在,気孔開度と光合成能力に密接に関与する形質の一つである気孔伝導度の関係および気孔開度に関する遺伝様式を明らかにする目的で実験を行なった.まず,水稲品種「全南風」から誘発した突然変異89系統を供試し,気孔開度に関して晴天の日の午前中に浸潤法を用いて測定を行ない,気孔開度を1~6に分類したところ,幼穂分化期では原品種の全南風は2前後であり,一方,突然変異系統では1~5に分布し,明らかな系統間差異が認められ,気孔開度が5.0ときわめて大きい系統(CM1787)を見いだした(図1).また,幼穂分化期の気孔開度と出穂期の気孔開度の間には相関が認められた(r=0.65***,図2).さらに,突然変異20系統では,気孔開度と気孔伝導度の間に相関が認められた(r=0.73***,図3).CM1718の気孔開度の大きい特性に関しては単一の劣性遺伝子支配であった(図4).以上のことから,気孔開度が大きい系統を育成することが可能なだけでなく,その遺伝は少数の遺伝子支配である場合もあり,気孔開度は光合成能力の遺伝的向上のための有用な目標となりうることが明らかとなった.