育種学雑誌
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アルギン酸カルシウムゲルに包埋したサフランプロトプラストからの個体再生
伊佐 隆小笠原 健金子 浩子
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1990 年 40 巻 2 号 p. 153-157

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抄録

アルギン酸カルシウムゲル包埋の技術は,従来,細胞の固定化とそれに引き続くバイオリアクターとしての利用が主であった.しかし最近,植物のプロトプラストをこれに包埋して培養することによりプロトプラストの培養に成功した例が報告された.我々は,先にサフランの培養系を確立したが未だプロトプラスト培養系の確立には至っていなかった.今後,サフランを用いた細胞工学的育種及び研究を行うに際して,プロトプラストの培養系確立は非常に重要である.そこで,アルギン酸カルシウムゲル包埋の技術を用いてサフランプロトプラストの培養を試みた. サフランカルスの誘導は前報(伊佐ら1988)の方法に従った.誘導後の継代が3~4代目のカルスもしくは液体培養細胞を5~10グラム用意し,これを次の方法でプロトプラスト化した.MS基本培地にセルラーゼオノズカRS1.0%,ドリセラーゼ1.0%,ペクトリアーゼY-230.1%を加え,マンニトールで浸透圧を0.3Mに調製した酵素液に細胞を加えた.25℃でゆるやかに約1時間振藍し,検鏡しながらプロトプラスト化の確認をした.単離調製したプロトプラストは,別に準備したアルギン酸溶液(2%)に所定の密度で懸濁した後,塩化カルシウム溶液(1%)に順次滴下した.そのまま20分放置してゲルを形成させた後,培養液(MS基本培地に2,4-D 0.3mg/lとゼアチンを0.2mg/l,及びマンニトール0.3M添加)で2回洗浄し液交換した.このゲルを,同じ組成の培地で一方はそのまま,他方は高密度の液体培養細胞で保護培養した.浸透圧を順次下げつつ,7~10日間隔で数回培養液交換を行いながら培養した. その結果,ゲル包埋せずにそのまま液体培養したプロトプラストは全く分裂に至らなかったが,ゲル包埋を行い,かつ保護培養した場合には,ゲル包埋のみで保護培養しなかったものに比べて,より旺盛な細胞分裂とカルス形成が認められた(Table 1.).前報の方法に従い,形成されたカルスを再分化培地に移植した結果,カルス当たり80%の頻度で植物体が再生した(Fig.1.).以上のように,従来の普通の培養方法では全く培養できなかったサフランプロトプラストを,アルギン酸ゲル包埋と保護培養によって,かなり高率に分裂および再生させることに成功した.

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