育種学雑誌
Online ISSN : 2185-291X
Print ISSN : 0536-3683
ISSN-L : 0536-3683
イネのindicaおよびjaponicaの機動細胞にみられるケイ酸体の形状および密度の差異
佐藤 洋一郎藤原 宏志宇田津 徹朗
著者情報
ジャーナル フリー

1990 年 40 巻 4 号 p. 495-504

詳細
抄録

土中から発掘される植物由来のケイ酸体(プラントオパール)によって過去の植生や栽培種の種類や量を推定するプラントオパール分析をイネのindicaおよびjaponicaの起源や伝播経路の研究に応用するための基礎として,ケイ酸体の形および葉中の密度の品種間変異を調査した.実験にはアジア各地の栽培イネ品種96を供試し,機動細胞ケイ酸体の形状および密度の品種間変異を調査した.機動細胞ケイ酸体の形状の変異は,縦長,横長,側長(厚み)および尖りの具合いを示すパラメーターの4形質を組合せることによってよく表現された.典型的なindica品種は,丸く,薄く,小型のケイ酸体(α型ケイ酸体)を,また典型的なjappnica品種はこれとは逆の尖った,厚い,大型のケイ酸体(β型ケイ酸体)をもつ傾向を示した.判別分析によって求めた機動細胞ケイ酸体の形状を表わすスコア(Z1)値と,indica-jappnicaの変異を表わすスコア(Z3)の間には有意な負の相関関係が認められた.Z 1値について中間型と思われる.24品種(-0.5≦Z 1≦0.5,25%)の判定を保留すると,Z1-0.5のα型ケイ酸体をもつ39品種のうち36品種(92%)はindica,またZO.5のβ型ケイ酸体をもつ33品種のうち31品種(94%)はjappnicaであった.jappnicaの2品種群である温帯型jappnicaと熱帯型jappnicaの機動細胞ケイ酸体の形状にはわずかながら差異が認められた.これらの結果を利用すればイネ由来のプラントオパールの形状によってそれがjappnica由来のものかindica由来のものかが推定できよう.またjappnica由来のものならば,典型的な形状を示すものについては温帯jappnica由来か熱帯jappnica由来かの推定も可能となるかも知れない.将来この原理を応用して,indicaおよびjappnicaの起源や伝播経路を,今までより正確に推定できることが期待される.

著者関連情報
© 日本育種学会
前の記事 次の記事
feedback
Top