育種学雑誌
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作物品種の多収性の生育解析的研究 : II. 個々の葉の形態,向き,配置の3者により規定される同化系の様相
角田 重三郎
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1959 年 9 巻 4 号 p. 237-244

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抄録

葉面積並びに葉面当りの同化能力に差がなくても,同化系の様相が異なると他物の物賃生産量が異なることは既に早くB0RSEN JENSENらにより指摘された。本報は多収品極の同化系を表題に示した個々の葉の3属性により解析しようと試みたものである。(1)個々の葉の形態(a)英の面積重量比率:甘藷大豆,稲を通じて少肥向品種は面積重量比率の大なる葉いわば“薄い葉"を持つように選抜されて来ている。葉の面積重量比率は葉面積比率(前報)を左右している主要因の一つで,これが大であると植物の生育が促進される。しかし多肥条件では“薄い葉"を持つことは徒に葉の重なり合い程度を強化するばかりで有利でなく,“厚い葉"を持つた方が光が有効に利用される。(b)葉面のの大きさと形:多肥条件で葉が茂り合うとき1葉面積を比較的小とした方が全葉に均等に光を分配する上に有利であり、多肥向品種の多くが小型の葉を持つのは1つにはこのためであろう。一方また葉面の大小やや形は上記の葉の面積重量比率などの重要特性とかなり密接な相関関係を持つ。(2)稲品種間には葉面の傾斜角度について差異が見られた。少肥向品種は“薄い菓"をさらに水平的に保つて少肥条件下不足しがちな葉量を以て可及的多くの光を受け止める態勢をとつている。一方多肥向品種は葉を直立的に保つ傾向を持つが,この態勢は多量に形成される葉に平等に光を配分するのに有利である。ただし多量の葉を機能良く保持する今1つの道として上に述べた“厚い葉"を持つ道があることに注意しなければならない。(3)“直立的は葉"を持つことと“厚い葉"を持つこととの重要な相違点は,葉を傾斜させても生育初期における分散光受光量およびガス交換表面積に変化がないのに対し,菓を厚くすると直射光受光量と伴つてこれらも同時に減少し初期化生育速度の低下が著しいことである。多肥向ではあるが比較的疎植に適する稲品種が,直立的のしかし比較的薄い葉を持つているのはこのためと考えられる。相当の裁植密度で極多肥栽培を行う場合の品種としては以上つの方途を併用することが有利と考えられ事実稲の極多肥密植向品種は直立的の厚い葉を持つ。(4)稲,廿藷,大豆通じて,少肥向品種は個体として“疎散型の葉配置"をとり,多肥向品種は“密集型の葉配置"をとつている。疎散型の葉配置をとれば少くとも生育初期にはすべての葉が良く光を受けることができて生育が促進されるだろう。これが少肥向品種がこの型の葉配置を示す理由と考えられる。一方、多肥条件で葉が良く茂る場合には,個体群の受光量は個体としての葉配置の如何に殆んど関係がなくなり,この場合には個体として密集型の葉配置をとつた方が以下の理由により有利と考えられる。(a)葉の配置は個体内の葉同志の方が個体間の葉同志より良く規整されている。(b)葉が混み合つた条件に適応した葉を発達させることができる。(C)茎および葉柄,葉鞘,中骨などを量的に節減しうる。(d)個体と個体との間に“同化系の谷間"が形成され,混み合つた葉に均等に光とガスを分配するのに役立つ。(5)葉緑体~同化細胞~同化組織の水準での同化系の様相が葉緑体の形態,向き,配置の3者によつてよく把握しうるように,菓~個体~個体群の水準での同化系の様相は葉の形態,向き,配置の3者により表わせるように見える。さらに,(a)“厚い小型の葉"と“直立的な葉位置"と“密集型の葉位置"を組合せた同化系と,(b)“薄い大型の葉"と“水平的な葉位置"と“疎散型の葉配置"を組合せた同化系が存在する。前者は典型的多肥向品種の同化系であつて,この態勢は土地面積当り同化組織が潤沢に形成される場合にすべての葉にすべての同化組織に可能な限り平等に光を分配するのに理想的のものである。後者は典型的少肥向品種の同化系で,土地面積当り少量しか同化組織が形成されない時に植物の利用しうる光線量を可及的増加するのに理想的である。

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