2026 年 7 巻 1 号 p. 67-77
本総説は、アラインメントソフトウェアMAFFT開発の背景と、そこから得られた数学的発想の広がりをまとめたものである。著者はDNA配列に潜む周期性からFFTを用いた相互相関計算を着想し、この方法がMAFFTの高速化に取り入れられた。MAFFTの基礎には、配列を数値ベクトルとしてFourier基底上で扱う発想があり、これはアミノ酸スコア行列のPCA、塩基置換行列のHadamard基底による対角化など、他の生物情報解析とも共通している。さらに、遺伝的多様性解析におけるPCAや距離行列の構造も、内積空間・線形代数学の枠組みで統一的に理解できる。著者はこれらを「遺伝幾何」と位置づけ、配列・進化・多様性を幾何学的に扱う視点の有用性を強調する。この考え方は、AIモデルにおける埋め込み表現や位置符号化などの表現学習の枠組みとも数学的に親和性が高く、今後の発展が期待される。