抄録
福岡県久山町では,1985 年から精度の高い老年期認知症の疫学調査が進行中である。1985 年~2005 年に,65 歳以上の高齢住民を対象として行った 4 回の老年期認知症の有病率調査の成績を比較すると,時代とともにアルツハイマー病(AD)の有病率が有意に増え,減少傾向にあった脳血管性認知症(VaD)の有病率も近年増加に転じた。1985 年の非認知症集団の追跡調査において認知症発症例の病型別内訳をみると,一番多かったのは AD,次いで VaD,複数の原因によって発症する混合型の順で,認知症発症例の 86 %が AD と VaD に起因していた。危険因子の検討では,高血圧は VD の,耐糖能異常/糖尿病は VaD と AD の有意な危険因子であった。また,久山町住民の剖検例の検討では,糖負荷後 2 時間血糖値,空腹時インスリン値,HOMA-IR の上昇が老人斑形成と有意に関連していた。耐糖能異常/糖尿病は,動脈硬化および微小血管病変の形成,糖毒性,インスリン代謝障害などさまざまな機序を介して認知症の発症に関与すると考えられている。