日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
21 巻 , 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 加藤 隆弘
    2011 年 21 巻 4 号 p. 229-236
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    ミクログリアは,中胚葉由来のグリア細胞で,静止状態では樹状に突起を伸展して脳内の監視役としてシナプス間を含む微細な環境変化をモニターしている。環境変化に敏速に反応し活性化するとアメーバ状に変化し,脳内力動の主役として,脳内を移動し,サイトカインやフリーラジカルとい った神経障害因子および神経栄養因子を産生する。こうして,神経免疫応答・神経障害・神経保護に重要な役割を担い,神経変性疾患や神経因性疼痛の病態に深く関与している。我々は,抗精神病薬や抗うつ薬にミクログリア活性化抑制作用があることを in vitro 研究で見出し,ミクログリア活性化とその制御を介した精神疾患の病態治療仮説を提唱している。さらに,筆者は,無意識を扱う力動精神医学の立場から,日常の精神活動や無意識に果たすミクログリアの役割にも関心を寄せている。本稿では,我々の仮説を国内外の知見とともに紹介し,これからの本研究領域の方向性・可能性を検討する。
  • 中里 道子, 橋本 謙二, 伊豫 雅臣
    2011 年 21 巻 4 号 p. 237-244
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor : BDNF)は,脳に豊富に含まれる神経成長因子の一つであり,神経細胞の生存・成長・シナプスの機能亢進などの神経細胞の成長を調節する蛋白質である。BDNF 遺伝子改変動物では,ストレスに対する不安,食欲亢進が報告され, BDNF と食行動異常との関連が近年注目されてきた。神経性無食欲症(Anorexia Nervosa : AN),神経性大食症(Bulimia Nervosa : BN)などの摂食障害(Eating Disorders : ED)は,自己評価に対する体重や体型の過剰な影響を背景とした食行動の障害である。生物学的,遺伝的要因,心理社会的要因などさまざまな要因が発症と症状維持に関連しているが,原因は明らかではない。 我々は,血清 BDNF 値は,AN 群,BN 群では HC 群に比較し有意に減少し,AN 群は AN 回復群に比較し有意に減少することを見出した。 本稿では,血清 BDNF と ED に関連する我々の研究を紹介し,ED の病態生理との関連及び ED の有用な生物学的診断指標である可能性を提唱した。
  • 杉田 篤子
    2011 年 21 巻 4 号 p. 245-250
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    全身性エリテマトーデス(SLE)は,免疫複合体の組織沈着により起こる全身性炎症性病変を特徴とする自己免疫疾患であり,その中枢神経病変は SLE 難治性病態の一つとされており,しばしば多彩な精神症状を伴う。しかしながら,SLE に伴う精神症状に対する指標に乏しいため,診断や治療方針の決定に苦慮することが多い。近年,免疫学的なバイオマーカーの発見および脳画像技術の進歩により中枢神経病変の客観的な評価法が提唱されつつある。本稿では,全身性エリテマトーデスに伴う精神症状の特徴およびその評価方法に関して概説する。
  • 清原 裕
    2011 年 21 巻 4 号 p. 251-256
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    福岡県久山町では,1985 年から精度の高い老年期認知症の疫学調査が進行中である。1985 年~2005 年に,65 歳以上の高齢住民を対象として行った 4 回の老年期認知症の有病率調査の成績を比較すると,時代とともにアルツハイマー病(AD)の有病率が有意に増え,減少傾向にあった脳血管性認知症(VaD)の有病率も近年増加に転じた。1985 年の非認知症集団の追跡調査において認知症発症例の病型別内訳をみると,一番多かったのは AD,次いで VaD,複数の原因によって発症する混合型の順で,認知症発症例の 86 %が AD と VaD に起因していた。危険因子の検討では,高血圧は VD の,耐糖能異常/糖尿病は VaD と AD の有意な危険因子であった。また,久山町住民の剖検例の検討では,糖負荷後 2 時間血糖値,空腹時インスリン値,HOMA-IR の上昇が老人斑形成と有意に関連していた。耐糖能異常/糖尿病は,動脈硬化および微小血管病変の形成,糖毒性,インスリン代謝障害などさまざまな機序を介して認知症の発症に関与すると考えられている。
  • 八幡 直樹, 井上 治久
    2011 年 21 巻 4 号 p. 257-260
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    数種類の初期化遺伝子を体細胞に導入することにより,胚性幹細胞(embryonic stem cells : ES細胞)に匹敵する多分化能を有する人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells : iPS 細胞)が誕生した。神経変性疾患研究においては,これまで生体から入手が困難であった疾患の標的細胞を iPS細胞から作製することが可能になり,病態解明,創薬開発が進展すると期待されている。本稿では疾患特異的 iPS 細胞を用いた神経変性疾患研究と今後の展望について述べる。
  • 須原 哲也, 樋口 真人, 前田 純, 季 斌
    2011 年 21 巻 4 号 p. 261-266
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    認知症の分子イメージングは老人斑を形成するアミロイドβペプチド PET によるイメージングが[11C]PIB により可能になったことで,アルツハイマー病の診断基準にも取り入れられようとしている。遺伝子改変動物の PET 研究から[11C]PIB は Aβの N 末端側のアミノ酸残基 2 個が欠落し 3 番目のグルタミン酸残基が環状化した AβN3(pE)に結合することが明らかとなり,環状化に関わる過程の研究から病的アミロイドの形成メカニズムの研究も進んでいる。一方アルツハイマー病の進展には神経炎症が関わっており,それを担う活性型ミクログリアのイメージングを通じて,アミロイド除去や神経細胞死と脳内免疫との関係も明らかになりつつある。
  • 新井 哲明, 長谷川 成人, 秋山 治彦, 朝田 隆
    2011 年 21 巻 4 号 p. 267-275
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration : FTLD)は,前頭・側頭葉に限局して進行性の変性を呈し,行動障害や言語障害を主徴とする非アルツハイマー型変性性認知症の一群を指す臨床概念である。家族性 FTLD の原因遺伝子として,タウ(microtubule-associated protein tau : MAPT),プログラニュリン(progranulin : PGRN),バロシン含有蛋白(valosin-containing protein : VCP),charged multivesicular body protein 2B(CHMP2B)などが同定されている。ほとんどのFTLD 例では,神経細胞あるいはグリア細胞内に,特定の蛋白質が凝集し,封入体を形成する。その主要構成蛋白として,これまでタウ,TAR DNA-binding protein of 43 kD(TDP-43),fused in sar-coma(FUS)が同定され,FTLD-tau,FTLD-TDP,FTLD-FUS という 3 つの主要な病理グループを形成している。TDP-43 と FUS は,遺伝子発現や転写の調節という類似の生理機能を有する核蛋白であり,その遺伝子変異によって ALS あるいは FTLD を発症するという共通性から,両疾患の病態解明の鍵として現在注目を浴びている。蓄積したタウと TDP-43 には過剰リン酸化と断片化が生じており,病理過程に重要な役割を果たす変化と考えられているが,FUS については未だ不明な点が多い。これらの蛋白の蓄積メカニズムの解明とその抑制による治療法の開発が今後の重要な課題である。
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