抄録
近年行われた大規模な双生児研究から,自閉症スペクトラム障害(ASD)において早期環境要因の関与は従来考えられていたよりも大きい可能性が示唆された。一方で,ASDをはじめとする,発達障害の有病率増加が問題となっており,それにはpopulation全体に影響するような環境要因が加わっている可能性が考えられる。そのような環境要因として,近年増加の一途をたどっている高齢出産や,それに伴う体外受精や顕微授精といった生殖補助医療(ART)の増加など,受精―妊娠に関わる環境の変化が候補に挙がる。これまでに,ART とASDとの関連ついての研究が複数行われているが,相反する結果が報告され,その関連は明らかでない。また注意欠如/多動性障害とARTについては,弱いながらも有意な関連を認めるとする報告がある。1990年代以降,わが国で急激に増加してきているARTは,自然妊娠とは異なり人の手が加わり,特に胚操作の時期とエピゲノム形成や初期の体細胞分裂の時期が重なることからも,発達障害を含めたART児の長期的なフォローアップ調査は重要である。このような研究から,ARTが更に安全な治療法として発展することが望まれている。