抄録
うつ病の発症には,遺伝要因と環境要因の相互作用が関与すると考えられている。そのため,うつ病の病因・病態の解明には,環境因子を加味したゲノム解析(すなわちゲノムコホート研究)が必須である。しかし一般のうつ病では,発症のきっかけとなるストレッサーの同定が困難であるなど多数の課題が存在し,それが研究の実施を困難にしてきた。一方,産後うつ病は,妊娠・出産という共通したストレッサーが発症のきっかけである,短期間で結果が確認可能であるなど,コホート研究実行上の利点を有している。産後うつ病は,母親のQOLの低下や自殺リスクの上昇に加え,児の養育環境にも悪影響を与える。よって効果的な予防および治療法の確立が急務である。そこで我々は,産婦人科を受診した妊婦を対象とした前向きゲノムコホート研究を行っている。これまでのところ約600名の同意を得ており,現在も対象者数を増やして研究を遂行中である。本稿では,うつ病研究におけるゲノムコホート研究の重要性とともに,我々が行っている研究成果の一部を紹介する。