抄録
ヒトの精神神経疾患の病態生理や脳・脊髄損傷後の機能回復の神経機構を理解することは治療戦略の開発に必要であるが,そのためにはヒトに近い脳と身体の構造を有する霊長類モデルが必要である。筆者はこれまで脊髄損傷後の手指の巧緻運動の回復機構,さらには一次視覚野損傷後の視覚誘導性の眼球運動の機能回復機構をマカクザルを対象として研究し,機能回復に関わる神経回路とその可塑的変化,さらには機能回復にモチベーションが作用する神経機構などを明らかにしてきた。さらに最近,ウィルスベクターを用いて特定の神経経路の機能を選択的・可逆的に操作する手法を開発し,霊長類での行動操作に成功した。このような手法を用いることにより,特定の回路を標的とした疾患や傷害の治療戦略を開発できる可能性が生じてきた。