抄録
幼少期ストレスと成体海馬神経細胞新生の精神疾患の発症脆弱性への関与,および,幼少期ストレスが成体海馬神経細胞新生を減弱させることが既に知られている。しかし,幼少期ストレスが成体海馬歯状回の神経前駆細胞にどのような影響を及ぼすのかは不明であった。そこで,幼少期に母子分離ストレスを負荷したラットが成体になったときに海馬歯状回由来神経前駆細胞(ADP)を取り出し, ADP の増殖・分化・生存に母子分離ストレスが及ぼす影響を検討した。その結果,母子分離ストレスは ADP の増殖や生存に影響を与えないが,ADP から neuron への分化能を減弱させることが明らかになった。さらに,その背景には DNMT1 の発現増加やレチノイン酸受容体α(RARα)プロモーターの DNA メチル化増加が存在していた。したがって,幼少期ストレスの成体海馬神経細胞新生減弱作用には DNA メチル化増加が重要な役割を果たしている可能性が示唆される。