日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
恒常的活性化型 mTOR による精神神経疾患モデルマウスの作製と解析
葛西 秀俊饗場 篤
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ジャーナル オープンアクセス

2015 年 26 巻 2 号 p. 75-80

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抄録

mTOR(mammalian target of rapamycin)はアミノ酸や成長因子に対する細胞内センサーとして機能し,タンパク質合成やオートファジーを介して細胞の成長や増殖を制御するシグナル分子である。一方で mTOR シグナルはがんや糖尿病といったさまざまなヒトの疾患において異常に活性化していることが知られている。中枢神経系においても結節性硬化症,自閉症,神経変性など数多くの疾患がmTOR シグナルの破綻と深くかかわっていると考えられている。そこで私たちは,mTOR シグナルを活性化する変異 mTOR の発現を時間的・空間的に制御することができるトランスジェニック(Tg)マウスを作製し,脳における mTOR シグナルの機能を明らかにするとともに,精神神経疾患モデルマウスの樹立を試みた。まず,前脳の発生初期において活性化型 mTOR を発現させたところ,大脳皮質および海馬の顕著な萎縮が観察された。この萎縮は胎生期における神経前駆細胞のアポトーシスによって引き起こされていたことから,mTOR は神経細胞の生存に重要な役割を担っていることが明らかとなった。次に,発生後期の前脳において mTOR シグナルを活性化したところ,大脳皮質およびニューロンが肥大化していたとともに,重篤なてんかん発作によって死亡した。また,大脳皮質の神経細胞に細胞質封入体が多数蓄積しており,神経変性疾患様の症状を示すことが明らかとなった。これらのことから,mTORC1 シグナルは脳の各発生ステージにおいてそれぞれ異なる機能を持ち,その破綻によってさまざまな精神神経疾患の発症につながることが示唆された。

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© 2015 日本生物学的精神医学会
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