日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
26 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 朝田 隆
    2015 年 26 巻 2 号 p. 73
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
  • 葛西 秀俊, 饗場 篤
    2015 年 26 巻 2 号 p. 75-80
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    mTOR(mammalian target of rapamycin)はアミノ酸や成長因子に対する細胞内センサーとして機能し,タンパク質合成やオートファジーを介して細胞の成長や増殖を制御するシグナル分子である。一方で mTOR シグナルはがんや糖尿病といったさまざまなヒトの疾患において異常に活性化していることが知られている。中枢神経系においても結節性硬化症,自閉症,神経変性など数多くの疾患がmTOR シグナルの破綻と深くかかわっていると考えられている。そこで私たちは,mTOR シグナルを活性化する変異 mTOR の発現を時間的・空間的に制御することができるトランスジェニック(Tg)マウスを作製し,脳における mTOR シグナルの機能を明らかにするとともに,精神神経疾患モデルマウスの樹立を試みた。まず,前脳の発生初期において活性化型 mTOR を発現させたところ,大脳皮質および海馬の顕著な萎縮が観察された。この萎縮は胎生期における神経前駆細胞のアポトーシスによって引き起こされていたことから,mTOR は神経細胞の生存に重要な役割を担っていることが明らかとなった。次に,発生後期の前脳において mTOR シグナルを活性化したところ,大脳皮質およびニューロンが肥大化していたとともに,重篤なてんかん発作によって死亡した。また,大脳皮質の神経細胞に細胞質封入体が多数蓄積しており,神経変性疾患様の症状を示すことが明らかとなった。これらのことから,mTORC1 シグナルは脳の各発生ステージにおいてそれぞれ異なる機能を持ち,その破綻によってさまざまな精神神経疾患の発症につながることが示唆された。
  • 新本 啓人, 野村 淳, 内匠 透
    2015 年 26 巻 2 号 p. 81-85
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)は社会性の異常を呈する小児の精神疾患である。ASD は精神疾患の中ではもっとも遺伝的関与の高い疾患と考えられている。昨今のゲノム科学の進歩により,ASD を含む精神疾患の原因としてコピー数多型(copy number variation:CNV)が注目されている。ヒト染色体 15q11─ q13 重複モデルマウスは,CNV を有する ASD のマウスモデルとして開発された自閉症ヒト型モデルマウスである。今日さまざまな自閉症モデルマウスが存在しており,複数のモデルマウスを同じプラットフォームで解析することは重要なアプローチである。またCRISPR/Cas9 に代表されるゲノム編集技術の進歩により,さらなるモデル動物の開発が期待される。
  • 笹岡 俊邦, 佐藤 朝子, 中村 徹, 大久保 直, 佐藤 俊哉, 藤澤 信義, 前田 宜俊, 小田 佳奈子, 酒井 清子, 神保 幸弘, ...
    2015 年 26 巻 2 号 p. 87-94
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    統合失調症の疾患モデル動物の評価には,行動の変化を解析することが多いことから,行動解析法の妥当性の検討が必要である。疾患モデルとして遺伝子操作マウスは有用であるが,異なる研究室からの解析結果の再現性が課題であり,その解決は容易でない。例えばモデル動物の運動量評価のためには遺伝背景等を同一条件とし,かつ実験方法が同一であることが望ましい。本稿ではコンジェニック系統のドーパミン受容体遺伝子変異マウスを用いて,ホームケージにおける運動量・摂食量・飲水量の解析方法について我々が開発した実験方法を紹介する。今後,統合失調症の疾患モデル動物の新たな行動解析の方法として評価することを考えている。
  • 福田 友彦, 顧 建国
    2015 年 26 巻 2 号 p. 95-101
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    糖タンパク質に付加された糖鎖はさまざまな生物活性を持つと考えられているが,特定の糖鎖構造との関係を示した研究は少ない。しかし,脳組織に発現する N 型糖鎖はα1,6 フコース修飾されている割合が高いことが知られている。我々は N 型糖鎖の根元にα1,6 フコースを転移する糖転移酵素(Fut8)欠損マウスの表現型が神経疾患のいくつかの症状・特徴と類似していることを見い出し,人に対する治療薬に効果が認められることも確認できた。さらに,患者の社会復帰を艱難にしている認知障害に焦点をあて,欠損マウスの海馬 CA1 領域での長期増強(LTP)の形成が野生型マウスより減弱していることを見い出し,その原因が Fut8 欠損神経細胞で LTP の形成に中心的な役割を果たすと考えられている糖タンパク質である AMPA 受容体複合体形成が変化し,それに伴うシグナルの変化にあることを見い出した。本稿では,精神疾患の発症メカニズムの解明に糖鎖による機能分子の質的変化の視点を Fut8 欠損マウスの結果をもとに提案する。
  • 高橋 秀俊, 石飛 信, 原口 英之, 野中 俊介, 浅野 路子, 小原 由香, 山口 穂菜美, 押山 千秋, 荻野 和雄, 望月 由紀子, ...
    2015 年 26 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    聴覚性驚愕反射(ASR)は,精神医学領域におけるトランスレーショナル・リサーチにおいて,国内外で広く研究されており,特にプレパルス・インヒビション(PPI)は,精神障害の有力なエンドフェノタイプ候補と考えられている。自閉症スペクトラム障害(ASD)では,知覚処理の非定型性についてよく知られているが,ASD の PPI に関しては一貫した結論は得られていない。最近我々は,ASD 児では ASR の潜時が延長しており,微弱な刺激に対する ASR が亢進していることを報告した。そして,いくつか異なる音圧のプレパルスを用いて PPI を評価したところ,ASR の制御機構である馴化や比較的小さなプレパルスにおける PPI は,一部の自閉症特性や情緒や行動の問題と関連するという結果を得た。ASR およびその制御機構のプロフィールを包括的に評価することで,ASD や他の情緒と行動上の問題にかかわる神経生理学的な病態解明につながることが期待される。
  • 一戸 紀孝
    2015 年 26 巻 2 号 p. 109-113
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    自閉症は,社会性の障害や他者とのコミュニケーション能力に障害・困難が生じたり,こだわりが強くなる精神遅滞の一種である。本稿では,現在多次元にわたる診断法により,得られた多くの知見とともに,自閉症の脳の状況が年齢とともに,変化し続けることに触れ,なるべく早期に診断を行うメリットについて概説する。
  • 畑中 悠佑, 和田 圭司, 株田 智弘
    2015 年 26 巻 2 号 p. 115-120
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    自閉症スペクトラム障害は多遺伝子疾患であるが,近年,環境要因との相互作用にも注目が集まっている。一方で,子宮内で高濃度の男性ホルモンであるテストステロンに曝露された子どもは自閉症様の行動を示すことが,ヒトと動物モデルの研究の両方から明らかになっている。このことから本総説では,母体の子宮内環境における性ホルモンの異常が及ぼす子どもの脳発達への影響について,主にシナプス機構の観点から論じる。また,近年の発達障害モデル動物を用いた研究から,複数の発達障害モデルに共通する病的表現型として,シナプスの不安定性が認められることが明らかになってきた。さらに,興味深いことに,このシナプス不安定性は発達障害モデルのみならず,神経変性疾患モデルでも認められる普遍的な病態である。本総説では,シナプス不安定性という共通項が,精神神経疾患の病因論にもたらす意味について考察する。
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