日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
うつ病治療における BDNF-TrkB-mTOR シグナルの役割
橋本 謙二
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2016 年 27 巻 1 号 p. 22-26

詳細
抄録
多くの研究から,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)を介する細胞内シグナルが,うつ病の病態および抗うつ薬の治療メカニズムにかかわっていることがわかってきた。我々は,うつ病モデル動物の前頭皮質や海馬では BDNF およびその受容体である TrkB のリン酸化は低下しているが,側坐核では増加していることを見出した。TrkB 作動薬は,前頭皮質や海馬における BDNF-TrkB 系を刺激することで抗うつ効果を示し,TrkB 拮抗薬は側坐核の BDNF-TrkB 系をブロックすることで抗うつ作用を示した。NMDA 受容体拮抗薬ケタミンが,治療抵抗性のうつ病患者や双極性障害患者のうつ症状に対して即効性の抗うつ効果が示すことが報告され,世界中で注目されている。またケタミンの抗うつ効果には BDNF-TrkB シグナルが関与していることが報告されている。本稿では,うつ病の病態およびケタミンの抗うつ作用における BDNF-TrkB-mTOR シグナルの役割について考察したい。
著者関連情報
© 2016 日本生物学的精神医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top