日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
27 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 西川 徹
    2016 年 27 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
  • 加藤 隆弘, 扇谷 昌宏, 渡部 幹, 神庭 重信
    2016 年 27 巻 1 号 p. 2-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
    脳内の主要な免疫細胞であるミクログリアは,さまざまな脳内環境変化に応答して活動性が高まると,炎症性サイトカインやフリーラジカルといった神経傷害因子を産生し,脳内の炎症免疫機構を司っている。ストレスがミクログリアの活動性を変容させるという知見も齧歯類モデルにより明らかになりつつある。近年の死後脳研究や PET を用いた生体脳研究において,さまざまな精神疾患患者の脳内でミクログリアの過剰活性化が報告されている。精神疾患の病態機構にストレスの寄与は大きく,ストレス→ミクログリア活性化→精神病理(こころの病)というパスウェイが想定されるがほとんど解明されていない。  筆者らの研究室では,心理社会的ストレスがミクログリア活動性を介してヒトの心理社会的行動を変容させるという仮説(こころのミクログリア仮説)を提唱し,その解明に向けて,動物とヒトとの知見を繋ぐための双方向性の研究を推進している。健常成人男性においてミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリン内服により,強いストレス下で性格(特に協調性)にもとづく意思決定が変容することを以前報告しており,最近筆者らが行った急性ストレスモデルマウス実験では,海馬ミクログリア由来 TNF-α産生を伴うワーキングメモリー障害が TNF-α阻害薬により軽減させることを見出した。本稿では,こうしたトランスレーショナル研究の一端を紹介する。
  • 新井 誠, 宮下 光弘, 小堀 晶子, 堀内 泰江, 鳥海 和也, 糸川 昌成
    2016 年 27 巻 1 号 p. 8-14
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
    統合失調症をはじめ,精神疾患研究においては,異種性回避を念頭にしたバイオマーカーの同定とその分子基盤にもとづいた病因,病態の理解が必須である。一般的に,バイオマーカーの定義は通常の生物学的過程や病理学的過程,もしくは治療学的介入に対する応答の指標として客観的に測定され,評価されうる特性を有するものとされる。我々が同定したカルボニルストレスマーカーとしての pentosidine および vitamin B6 は,ある特定の比較的均一な統合失調症における代謝制御機構の解明,発症機序の解明,発症リスクの回避に向けた医薬品開発の糸口となることが期待される。本稿では,統合失調症の新たな病態仮説として,カルボニルストレスを含む糖化ストレスあるいは酸化ストレスの観点から,自験例を含めて紹介し,統合失調症との関連について述べた。
  • 溝口 義人, 鍋田 紘美, 今村 義臣, 原口 祥典, 門司 晃
    2016 年 27 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
    がん,糖尿病などの身体疾患,肥満など生活習慣病およびうつ病を含む精神疾患にはいずれも慢性炎症が病態に関与するとされる。心身相互に影響する共通の分子機序として,免疫系の関与が重要であるが,精神疾患の病態においては脳内ミクログリア活性化が重要な位置を占める。ミクログリアの生理的機能を解明しつつ,向精神薬の作用を検討していくことは今後も重要であり,うつ病を含む各精神疾患の病態仮説にかかわる BDNF,proBDNF および細胞内 Ca²⁺ シグナリングに着目したい。
  • 橋本 謙二
    2016 年 27 巻 1 号 p. 22-26
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
    多くの研究から,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)を介する細胞内シグナルが,うつ病の病態および抗うつ薬の治療メカニズムにかかわっていることがわかってきた。我々は,うつ病モデル動物の前頭皮質や海馬では BDNF およびその受容体である TrkB のリン酸化は低下しているが,側坐核では増加していることを見出した。TrkB 作動薬は,前頭皮質や海馬における BDNF-TrkB 系を刺激することで抗うつ効果を示し,TrkB 拮抗薬は側坐核の BDNF-TrkB 系をブロックすることで抗うつ作用を示した。NMDA 受容体拮抗薬ケタミンが,治療抵抗性のうつ病患者や双極性障害患者のうつ症状に対して即効性の抗うつ効果が示すことが報告され,世界中で注目されている。またケタミンの抗うつ効果には BDNF-TrkB シグナルが関与していることが報告されている。本稿では,うつ病の病態およびケタミンの抗うつ作用における BDNF-TrkB-mTOR シグナルの役割について考察したい。
  • 茶木 茂之, 福本 健一, 小池 宏幸
    2016 年 27 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
    グループⅡ代謝型グルタミン酸(mGlu)受容体拮抗薬は既存薬が奏功しないモデルを含む種々動物モデルにおいて抗うつ作用を示した。また,その抗うつ作用はケタミンと同様に即効性および持続性が認められた。グループⅡ mGlu 受容体拮抗薬の抗うつ作用に AMPA 受容体活性化を介したBDNF─TrkB シグナル活性化および mTOR シグナル活性化の関与が示唆された。さらに,内側前頭前皮質における AMPA 受容体活性化を介した背側縫線核セロトニン神経活性化の関与が示唆された。グループⅡ mGlu 受容体拮抗薬は,これらの分子レベルおよび神経回路レベルにおける機序に関してケタミンと共有することが認められた。以上の結果から,グループⅡ mGlu 受容体拮抗薬はケタミンと同様に治療抵抗性うつ病患者に対して即効性および持続性の抗うつ作用を示すことが期待される。
  • 窪田─坂下 美恵, 加藤 忠史
    2016 年 27 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
    Mitochondrial permeability transition pore(mPTP)の構成要素であるシクロフィリン D(CypD)ノックアウトマウスと神経変性疾患モデルとの関連性をもとに,ミトコンドリア Ca²⁺ 取り込み能に注目した。ミトコンドリアはユニポーターを介して細胞質からCa²⁺ を取り込み,ミトコンドリア内Ca²⁺ は, Na⁺/Ca²⁺ 交換体,および mPTP 開口を介して排出される。これまでに,多くの神経変性疾患モデル動物では,CypD ノックアウトマウスとの掛け合わせにより,神経障害が改善されることが示されている。一方,多くの神経変性疾患モデルマウスでは,強制水泳や,尾懸垂試験において,無動時間の延長が示されている。これらの知見から,mPTP 開口阻害剤が,うつ症状改善等の新規気分安定薬の標的となりえることが示唆され,新たな奏効機序を持つ候補化合物探索の基礎になると考えられる。
  • 油井 邦雄, 川崎 洋平, 山田 浩
    2016 年 27 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disdorder:ASD)の病態要因として,多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acids:PUFAs)が注目されて久しい。ω- 3 やω- 6 の脂肪酸は神経発達,シナプス形成,シグナル伝達に重要な役割を果たしている。特にω- 6 のアラキドン酸はエイコサノイドというシグナル伝達誘導体を生成し,細胞間のシグナル伝達を行っている。したがって, ASD の病態として PUFAs の組成や代謝の異常が推定される。私らは脂肪酸濃度とシグナル機能バイオマーカーの変容を検索した。【方法】対象は ASD の 21 例(平均 13.1 歳)および年齢,性差がマッチした正常対照 21 例(13.9 歳)である。脂肪酸は 3 系統のファミリーがあるので,PUFAs のほかに一価飽和脂肪酸など 24 種類の脂肪酸と 3 種類のシグナル機能バイオマーカー[セルロプラスミン(ceruloplasmin:Cp),トランサミンシ(transferrin:Tf),スパーオキサイドデイスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)]の血漿濃度を測った。ASD の中核症状の評価には異常行動は Aberrant Behavior Checklist- J(ABC- J),社会性行動は Social Responsiveness Scale(SRS)を用いた。AA 濃度が低値であったので,これを補充するために,AA などω- 6 の前駆体のリノレン酸 480mg とω- 3 の前駆体のα-リノレイン酸 240mg を含む AA カプセル(12 歳以下は 1/2 量)を 16 週間投与した。【結果】ASD 群は対照群にくらべて,ω- 6 脂肪酸の AA 濃度が有意に低く,ω- 3 の EPA が有意に高値であり,DHA も有意差傾向(P = 0.08)を示した。EPA/AA と DHA/AA の比は有意に高かった。ASD 群は Cp 濃度が有意に低値であった。このように,細胞レベルで認められている AA-ω- 3 脂肪酸間の競合的関係が生体で内外ではじめて立証された。AA 製品服用後に血漿の AA と Cp の濃度が上昇して対照群との有意差が消失した。SRS の 4 項目と総合評価点が有意に改善した。【考察】ω- 3 脂肪酸の高値と関連した AA の低値がシグナル機能マーカーの Cp の機能低下を生じたと考えられた。このようなシグナル調整機能の異常が ASD の中核症状に関与したと推察された。AA 補充療法として,AA 濃度をさらに高めることで難治性の社会性行動障害を改善し得る。
  • 沼田 周助, 伊賀 淳一, 大森 哲郎
    2016 年 27 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
    うつ病は社会生活に甚大な障害を及ぼす common disease であるが,臨床症状にもとづく診断の一致率は必ずしも高くない。早期発見と治療導入を促進する診断マーカーの確立は,急務の課題である。これまでに研究レベルで血液を用いたうつ病の生物学的指標の探索は数多く行われてきたが,客観的なうつ病の血液診断マーカーはいまだ確立されていない。我々は,DNA メチル化修飾ならびに遺伝子発現に注目したうつ病の診断マーカーの探索を行い,いずれにおいても,うつ病患者群と健常対照者群の弁別において良好な結果を得たため,本稿で紹介する。
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