抄録
細胞は様々なストレスにさらされながらも恒常性を維持している。細胞の3大ストレスとして,酸化,小胞体,そして糖化ストレスが知られており,これらのストレス応答の破綻が種々の精神・神経疾患の責任病態パスウェイを形成することが示唆され始めた。一方で,脳機能を考える際,神経回路の動作原理は,シナプスを介した電気信号が基本であり,大脳皮質の興奮性シナプスの約8割は,スパインという小突起構造上に形成される。多くの精神・神経疾患でスパイン異常が繰り返し報告され,人類遺伝学的所見や薬理学的所見などは,精神疾患の病態生理として何らかのシナプス異常(シナプトパチー)を強く示唆している。ほとんどの精神神経疾患が均一な病因により惹起される疾患ではなく,遺伝子座異質性が明らかであることを考えると,病因や発症トリガーは何であれ,様々なストレス応答の破綻が神経系において生じた結果,シナプトパチーがその最終共通病態パスウェイを形成すると注目されはじめたのは妥当と思われる。そこで,ストレス脆弱性によるシナプス恒常性破綻として精神・神経疾患を捉え,そして疾患関連ストレス応答代謝産物を軽減する効果とシナプス保護作用を併せ持つ化合物は精神・神経疾患治療候補薬になりうるし,同化合物群のパスウェイ解析を行うことにより新たな標的シグナルを見いだせるのではないかと考えており,このような我々の泥臭い試みを紹介する。