日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
ATP制御によるパーキンソン病の予防・治療戦略
垣塚 彰
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ジャーナル オープンアクセス

2017 年 28 巻 4 号 p. 153-158

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抄録
現在の医学では治療することができない難治性疾患の多くで,個体死には至らない程度の細胞死が障害臓器に認められ,その結果障害臓器の機能低下が起こり,発症に至る。例えば,アルツハイマー病に続く患者数を持つパーキンソン病では,中脳黒質のドーパミン神経が特異的に脱落(死滅)することで発症する。一方,細胞・生物が生きていくためには,エネルギー源としてATPが必要であり,また,細胞が死に行くときにはATPの減少・枯渇が起こる。そこで我々は,細胞死を防ぐことを目的に,ATPの減少を抑制する化合物の開発に取り組み,細胞内のATP分解を抑制する化合物KUSs(Kyoto University Substances)を開発した。さらに,細胞内のATPの産生を増強する化合物として,エスクレチンを同定した。我々は,KUSsとエスクレチンを併せて「ATP制御薬」と呼んでいる。このATP制御薬による治療効果を培養細胞とマウスのパーキンソン病のモデルで検証したところ,どちらもドーパミン神経において,顕著にATPの減少,ERストレス,細胞死を抑制した。これらの結果は,ATP制御薬がパーキンソン病の治療において,極めて有望な戦略となる可能性を示している。
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© 2017 日本生物学的精神医学会
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