抄録
自閉スペクトラム症および統合失調症は,脳神経の発達異常を病態の基盤とした神経発達障害と考えられている。共に有病率は約1%であり,社会性やコミュニケーションの障害によって社会機能を損なってしまう疾患である。自閉スペクトラム症では音への過敏さ・鈍感さ,言語発達の遅延,統合失調症では錯聴,幻聴など,共に聴覚系の認知機能障害が一つの特徴となっている。ヒト染色体22q11,16p11異常はこれらの精神疾患を多発させるが,同時に患者とモデル動物の各々数十%以上に伝音,感音難聴が存在する。これらの聴覚認知機能障害は,疾患の原因や本態を意味するのか,それとも脳機能障害の結果を反映しているのであろうか。前頭葉皮質のトップダウン情報処理という観点から,自閉スペクトラム症および統合失調症の聴覚生理,聴覚認知機能障害を考察してみたい。